実質金利とは、名目金利から期待インフレ率を差し引いたものです。要するに、資金を円で運用するのとドルで運用するのと、実質ベースでどちらが有利か考えて、どちらも有利・不利にならないような水準で為替レートが決まる、というものです。現在のように、資本の移動が自由な状況においてはこの考え方は極めて自然であり、ここ10年ほどのドル円レートを見ても、短期的な乖離はあるにせよ、中長期的には極めて日米実質金利差の変化に忠実な動きをしていることが分かります。

その日米実質金利差から、我々が算出したドル円レートは現在、107円を示しています。これはもちろん、日銀がマイナス金利政策を導入した後の数字です。それでは日銀がマイナス金利政策を導入したのに、なぜこんなに円高の水準を示しているのでしょうか?

実は日本の実質金利は、この程度のマイナス金利を導入してもほとんど変わらないのです。というのは、特に年初からの世界的な株安等もあり、日本の期待インフレ率はジリジリ低下してきていたので、そもそも名目金利を引き下げないと、実質金利が上昇してしまうような状況だったのです。1月29日、日本の5年物国債利回りは0.08%だけ低下しましたが、それでようやく日本の実質金利が一定に保たれた形です。

問題はアメリカの実質金利です。米インフレ連動国債から見た実質金利は、去年12月の利上げに向けて上昇しましたが、その後年初来から低下の一途を辿っています。これは大きなドル安・円高要因で、主にアメリカの実質金利低下が要因で、適正ドル円レートが107円にまで低下したというわけです。一方で実際のドル円レートは、というと、日銀のマイナス金利政策導入による「期待」で逆に円安に振れ121円台を付けています。このような状況は過去にも何度もありましたが、いずれも最終的には日米実質金利差を反映した水準に落ち着いています。市場というのは短期的には期待が大きく影響するものですが、中長期的にはファンダメンタルズを反映した水準に落ち着くものだからです。そうなれば当然、日本の株価やビジネスにも影響し、マイナス金利の効果は打ち消されてしまうはずです。

私は前述のように、今回の日銀の決定は高く評価しています。しかし市場の「期待」とは裏腹に、実質的には今回のマイナス金利の効果は殆ど無いと思います。それはタイミングが遅いことに加えて、外的要因が大きすぎて、もちろんやらないよりは良いのですが、今回の程度のマイナス金利では、殆ど解決策にならないからなのです。