5.アメリカ上場企業に注目したい

 今回注目したいのはアメリカ上場の半導体関連企業です。もともと半導体市場はグローバルな市場であり、半導体関連企業はアメリカ、日本、台湾、韓国、中国にあります。表3を見ると、日本が得意なのは半導体製造装置とシリコンウェハを中心とする半導体素材です。半導体デバイスメーカーは日本には少なく、アメリカ、台湾、韓国、欧州には数多くあります。半導体製造装置もアメリカと欧州に有力企業があります。ロジック半導体の設計に不可欠なEDA(ロジック半導体の設計用ソフトウェア)はアメリカのみにあります。

 そのため、半導体関連企業に幅広く投資して、今回の半導体ブームの中で投資成果を上げたいのであれば、日本株だけでなくアメリカ上場企業への投資を検討したほうがよいと思われます。

 実は、同じ半導体製造装置メーカーだけで日米上場企業の株価のパフォーマンス比較を行うと、平均パフォーマンスに大きな違いはありません(表4)。ただし日本の半導体製造装置メーカーは、株式市場で今回の半導体ブームが始まった2019年1月から直近高値まで11倍になったレーザーテックから、同時期に2.2倍に止まったSCREENホールディングスまでパフォーマンスにばらつきがあります。一方、アメリカ上場の半導体製造装置メーカーはおおむね似通ったパフォーマンスになっています。株価を相当意識した経営を行っているためと思われます。

 また、アメリカの株式市場には日本と異なる大きな違いがあります。アメリカ上場株は原則1株から買えるため、少額での投資が可能です。1銘柄に付き、1株数千円から数万円で買えるものが大半で、高くでも30~50万円です。

 これに対して日本は単元制度によって通常は100株単位での投資になります。数万円で買える優良企業は金融株など一部の業種に限られます。数万円で買える銘柄で、最も多いのが将来性の不確かな小型株と業績不振企業です。優良株、成長株の大半が数十万円から数百万円用意しなければ投資できません。表5は私がカバーしている半導体製造装置株と、半導体、ITその他のテクノロジー関連株について最低いくらで投資できるのかを示したものですが、日本株では、アナリストが前向きに評価している株を買っていくとすぐに1,000万円以上になります。これでは最初から真剣勝負になりがちで、失敗したときのダメージも大きくなります。日本株では普通のサラリーマンが買える銘柄の数が少なく、余裕のない運用になる可能性があります。

 ところが、アメリカでは100万円以下で重要銘柄のポートフォリオを構築することができます。投資してみたい銘柄群に少額から投資を始めて、値動きを見ながら投資額を増やしていく、柔軟な運用が可能です。下げ相場の場合でも、各銘柄について数株ずつ持てば、1株ずつ売って様子を見ることもできます。また、アメリカ経済は成長力が強く、様々な成長株、テクノロジー株があります。まさに成長株、テクノロジー株の宝庫です。

 アメリカ上場半導体関連企業の注目銘柄と今後6~12カ月の目標株価は以下の通りです。

TSMC(TSM、NY ADR)            170ドル
インテル(INTC、NASDAQ)          80ドル
マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ) 110ドル→130ドル
AMD(AMD、NASDAQ)          100ドル
エヌビディア(NVDA、NASDAQ)       640ドル
アプライドマテリアルズ(AMAT、NASDAQ)  150ドル
ASMLホールディング(ASML、NASDAQ)    750ドル
KLA(KLAC、NASDAQ)          370ドル
シノプシス(SNPS、NASDAQ)          310ドル

 このうち、マイクロン・テクノロジーは会社側が業績ガイダンスの上方修正を行ったため、これについてレポートします。KLAは新規カバレッジのレポートを載せます。これ以外の銘柄については業績表を示します。

表3 日本と世界の半導体関連企業(主要企業のみ)

出所:楽天証券作成
注:シルトロニックはフランクフルト中心に欧州市場に上場。

表4 日本株とアメリカ株のパフォーマンスを比較してみた

単位:円、ドル

表5 株式投資に最低でいくらかかるのか

単位:万円
注:2021年3月11日終値で計算。1ドル=108円で換算。端数は切り上げ。手数料は考慮せず。

6.注目銘柄

マイクロン・テクノロジー

1.マイクロン・テクノロジーは2021年8月期2Qガイダンスを上方修正した

 マイクロン・テクノロジーは2021年3月3日付けで、1月7日の2021年8月期1Q(2020年9-11月期)決算発表時に公表した2021年8月期2Q(2020年12月-2021年2月期)の業績ガイダンスを上方修正しました。それによれば、当初ガイダンスの売上高56~60億ドル(前年比16.7~25.1%増)、売上総利益率24.0~26.0%、完全希薄化EPS 0.34~0.48ドルは、売上高62~62.5億ドル(同29.2~30.3%増)、売上総利益率26.0~27.0%、完全希薄化EPS 0.51~0.56ドルになる見込みです(表6の2021年8月期2Q予想(今回)は会社側ガイダンスを元に当期純利益を計算したものです)。

 業績ガイダンス上方修正の主な要因は、会社側によれば、第1にDRAMの需要増加(数量増加)と平均単価(ASP)の上昇です。DRAM需要は会社側の予想よりもかなり強いもようです。NANDも需要増加が業績に寄与しています。また、DRAM平均単価の上昇は、年明け後に起きた大口価格の小幅上昇と品種構成の改善が寄与していると思われます。

 DRAM需要をけん引している分野は、スマートフォン向け、クラウドサービス向け(データセンター向け)、ノートPC向け、グラフィック向け(映像処理向け)、自動車向け、産業向けなどです。企業向け(企業向けサーバー用DRAM)はこれまで不振でしたが、今後は緩やかに改善すると思われます。

表6 マイクロン・テクノロジーの業績

株価(NASDAQ) 89.31ドル(2021年3月11日)
時価総額 99,581百万ドル(2021年3月11日)
発行済株数 1,115百万株
単位:100万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済株数は完全希薄化前。 

2.2021年8月期、2022年8月期の楽天証券業績予想を上方修正する

 会社側によればDRAMの需給関係が予想以上にタイトで、在庫水準も低下し始めているもようです。そのため、今3QはDRAM市況の更なる上昇が期待できそうです。

 また、DRAMだけでなく(DRAMでは同業他社と同じく微細化を進めた先端DRAMに注力しています)、NANDにも注力しています。NANDでは最先端の176層を業界に先駆けて生産しています。

 今回の業績ガイダンス上方修正をベースに、楽天証券では2021年8月期、2022年8月期業績予想を上方修正します。2021年8月期は前回の売上高250億ドル、営業利益37億ドルを、売上高260億ドル(前年比21.3%増)、営業利益42億ドル(同39.9%増)に、2022年8月期は前回の売上高310億ドル、営業利益60億ドルを、売上高330億ドル(同26.9%増)、営業利益70億ドル(同66.7%増)に上方修正します。2022年8月期はDRAM市況上昇と数量増加が重なることで好業績が予想されます。

3.今後6~12カ月間の目標株価を110ドルから130ドルに引き上げる

 今後6~12カ月間の目標株価を、前回の110ドルから130ドルへ引き上げます。楽天証券の2022年8月期予想EPS 5.61ドルに、DRAM市況の上昇と数量増加が重なり好業績が期待できることを見込んで、想定PER 20~25倍を当てはめました。引き続き投資妙味を感じます。