2つ目:日米同盟、および西側主導の国際秩序に楔(くさび)を打ち込みたいから
中国の対外的な戦略として重要なのが、自らが国家間競争の観点で「敵」「相手」「ライバル」と考える国家のグループに風穴を開けること、敵・相手陣営を分裂させること、空中分解させることです。例えば、中国は、自らが所属、立脚するアジアに、米国の同盟国がいる、米軍基地があるという現状を嫌がり、何とかしてそれらを崩そうと考え、動きます。
この意味で、日米同盟というのは最大の標的の一つです。中国では、党指導部、解放軍から民間人まで、日中関係がなかなか安定しない、真の意味で友好的な関係を築けない根本的な原因は米国という「黒幕」にあると本気で考えています。
故に、ありとあらゆる舞台や機会を利用しながら、「米国が戦略的に関与するアジア」「戦後、西側主導の秩序やシステムに乗っかって発展してきたアジア」ではなく、「日中という世界第2位、第3位の経済大国が共に盛り上げるアジア」「アジアの国自らが考える秩序やシステム」という物語を形作っていきたいのです。
その意味で、日本が主催する東京五輪の翌年に、同じアジアの国である中国が冬季五輪を主催するという物語は、中国にとって自らの民族的欲求や国家的需要に符合するのです。
3つ目:日中関係を安定的に管理したいから
日中間には、歴史や領土にまつわる構造的問題が依然根深く存在しています。国民感情が逆なでされる突発的事件は、両国関係がどれだけ円満に遂行していても、瞬く間に急降下してしまうだけのリスクをはらんでいます。戦略的競争関係にある米中関係に、日中関係が巻き込まれるケースもあります。台湾問題も例外ではありません。
経済力、軍事力、国際影響力などが向上するに伴い、例えば、尖閣諸島沖で中国の公船による領海侵犯を含めた挑発的行動はあからさまに増えており、日本国民の感情を逆なでしています。習近平訪日への集団的拒否反応につながっています。中国の当局も、自らの海洋政策、香港、新疆、台湾政策などが原因となり、日本政府、国民の対中不信を招いている現状を知っています。それでも、大国化、強国化する国家として、それら拡張的な動きを止めることができない、止めないけれども、日中関係は安定させ、前に推し進めたいという、言動が矛盾していますし、欲張りすぎに見えますが、それが中国という国家の現在地なのでしょう。
だからこそ、五輪という、人類が共に向き合い、取り組む、平和の祭典で協力し合い、共に成功させることで、日中関係の安定的管理につなげたいというのが中国の本心なのです。