中国共産党や中国人民は東京五輪開催をどう見ているか?

 本連載のテーマである中国に話を移します。今回のレポートでは、冬季五輪を1年後に控える中国が、東京五輪をどう見ているのか、より具体的に言えば、中国が東京五輪の開催(無観客いかんなどを抜きにして)を支持する理由と動機を5つの側面から分析します。

 まず、中国は官民問わず、東京五輪をめぐるあらゆる事象や状況を細心に注視しています。前述の、森喜朗氏の失言、橋本聖子氏の後任人事、およびそこに投げかけられている日本国民の疑念などを、日々、リアルタイムで詳細に報じています。共産党指導部の発言や立場も見てみましょう。今年1月25日、習近平(シー・ジンピン)国家主席が国際五輪委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談をした際にも、次のように表明しています。

「中国はIOCや各国と手を携え、安全、円満に東京夏季五輪、北京冬季五輪を開催できるように尽力していきたい。国際社会が一日も早く新型コロナに打ち勝ち、世界経済を復興させ、各国国民の生命、安全、健康を守るために貢献していくつもりである」

 2月17~23日にかけて、私は中国の知人36人(*)に「東京五輪開催を支持するか?」を聞いてみました。

*属性:(年齢別)10代1人・20代12人・30代13人・40代6人・50代3人・60代1人、(男女別)男性18人・女性18人、(居住地別)北京市8人・上海市8人・広東省6人・陝西省1人・四川省1人・天津市1人・重慶市1人・浙江省2人・香港2人・米国3人・英国2人・シンガポール1人

 結果は36人全員が「支持」を表明。理由はいくつかありましたが、そのほとんどは、以下で紹介する5点のどこかに収れんします。この36人には、「2022年の北京冬季五輪開催を支持するか?」に関しても聞いてみました。想定内ですが、全員が支持を表明していました。

 日中間で国情や世論の違いは少なからず存在するでしょう。中国では、一般的に、祖国が威信をかけて主催する五輪、自分が生きている間に何回経験できるか分からない、そのためなら、いかなる協力も犠牲も惜しまないという具合に考えます。「国家大事」「民族大業」という意識や色彩が濃いのです。中国の国力や国際影響力が上がっている現状では、愛国心やナショナリズムはなおさら刺激されることでしょう。そして、コロナ禍という現状がそういう意識に拍車をかけます。国家や社会が危機的な状況にあり、五輪ほどのイベントの開催が危ぶまれていればいるほど、お国への思いが強くなる傾向にあるというのが私の分析です。

 そして、この36人の中には、「日本の政治は不思議だ。なぜ今、仲間割れをするのか」「東京五輪開催が決まった時にはあれだけ盛り上がっていたのに」「五輪開催反対者が多数いる現状に便乗して、マスコミや野党が揚げ足取りに奔走(ほんそう)しているのだろう」「結局は菅政権の求心力や器の問題」「何としても五輪を開催し、成功させるという国民国家としての意思が感じられない」といった意見が多々ありました。ちなみに、これらの意見は中国だけでなく、欧米からも寄せられました。香港や台湾の知人は、「せっかく五輪を開催できる立場にあるのにもったいない。私たちにはその資格すらないのに」とうらやましがっていました。