中国経済社会にとって「春運」とは何を意味するか?
中国人にとって、1年に一度きりの楽しみである春節。日本にも「帰省ラッシュ」といった言葉がありますが、人口約14億人の中国社会におけるそれは、規模や次元が異なるというのが、私の実感です。
春節期間中に中国の鉄道の駅を利用したことがある方は、特に印象に残っていると思いますが、とにかく切符が手に入りません。いまとなっては、インターネット上で購入し、当日に駅で、身分証明証(ID)を自動販売機にタッチして、切符をピックアップ(外国人はパスポートを持って、駅の窓口で、長列に並ばなければならない)できますが、以前は、寒空の下で数時間も並び、必死の忍耐を経てようやく1枚の、帰省のための切符を手に入れられるという状況でした。
春節期間中の帰省ラッシュを、中国では「春運」(チュンユン)と言います。一般的に、春節当日前の15日間と後の25日間、計40日を指します。今年でいえば、1月28日から3月8日です。
この期間の、人々の電車、飛行機、バスなどを使った移動は、まさに「民族大移動」と言うにふさわしいものだと思います。
参考までに、2018年、2019年の春運期間中、のべ30億人が公共の交通機関を使って移動しています。人口1人あたり1往復以上ですね。新型コロナウイルスに見舞われた2020年の春運は、前年より50%以上減り、のべ14.8億人にとどまりました。交通運輸省の見積もりによれば、今年は、のべ17億人が移動する見込みとのことです。
春節を毎年楽しみにしている、これだけの人数が移動するわけですから、特に交通や治安の政府機関に勤務する中央、地方の公務員にとっては、1年の間で最もプレッシャーのかかる時期。円滑、安全な移動ができるように、全神経を集中させて業務に取り組んでいます。仮にそれが達成されないようであれば、人民の「お上」に対する不満が爆発し、深刻な政治問題にまで発展しかねないからです。
今年は、昨年ほどではないにしても、新型コロナの影響を受け、春運の警戒も予断を許さない状況が続いています。すべての移動者には、1週間以内に受けたPCR検査の陰性証明を持参、登録することが義務付けられています。仮に春運が原因で、中国各地で再び新型コロナの感染者が増える、クラスターが発生するといった状況になれば、せっかくここまで何とか実現してきたコロナ抑制と経済再生に向けての努力が水の泡になってしまう可能性もありますから、当局はものすごい緊張感を持って、民族大移動を管理しようとしているでしょう。