コロナ禍で自我が芽生える貴金属市場。“定石”と“定石外”の両方を意識せよ

 先述のとおり、貴金属の価格動向に注目する際は、原則として定石に留意しておく必要がありますが、状況によっては、“定石”が価格動向の主要な傾向でなくなる場合があり、注意が必要です。

 現在はコロナ禍です。コロナ禍では、“定石外”を想定しなくてはなりません。コロナ禍では、株と金が相関関係になる、金と銀との相関関係や、プラチナやパラジウムと株の相関関係が崩れることを、常に想定しておかなければならないと、筆者は考えています。定石外が発生する背景に、金融緩和と、“脱炭素”ブームが挙げられます。

 新型コロナの感染拡大で負った経済的なダメージを回復させるため、“銀行の銀行”とよばれる中央銀行(日本であれば日本銀行、米国であればFRB(米連邦準備制度理事会)など)は、国債などを買い入れて、社会に資金を供給し続けています。また、目標金利を低水準で維持しています。

 また、世界は空前の“脱炭素”ブームです。以前の「脱炭素は、金・プラチナ・原油の上昇要因」で述べたとおり、さまざまな思惑が絡み、ブーム化していると言えます。“脱炭素”ブームもまた、貴金属市場に“定石外”をもたらす要因になり得ます。

 以下のとおり、コロナ禍における、金融緩和と脱炭素ブームが与える、貴金属市場への影響を、図にしました。

図:コロナ禍における、金融緩和と脱炭素ブームが与える貴金属市場への影響

出所:筆者作成

 上図のとおり、金融緩和は、金(ゴールド)と株式の上昇要因になり得ます。また、脱炭素は、銀とプラチナの上昇要因になり得ます。

 金融緩和と脱炭素という2大テーマは、本来、別々の文脈で議論されるため、金融緩和がさらに進んで金と株が上昇することと、脱炭素が進展して銀とプラチナが上昇することは、根本原因は別と解釈することになります。

 これまで、金と銀、そしてプラチナとパラジウムは、それぞれ歩調を合わせて動くのが“定石”だったわけですが、金融緩和と脱炭素が進展すれば、金は金の、銀は銀の、プラチナはプラチナの都合で、価格が動く場面が増えると、考えられます。プラチナがプラチナの都合で動けば、プラチナとパラジウムが連動する“定石”も崩れると、考えられます。

 新型コロナの感染拡大を起点とした金融緩和の進展と脱炭素ブームが与える、貴金属市場への影響は、“定石外”の発生、いわば、貴金属銘柄間のデカップリング(2つの値動きが連動しなくなること)の発生だと、筆者は考えています。

 貴金属市場の“定石”が全く通じなくなるわけではありませんが、コロナ禍ゆえ、“定石外”が発生する頻度が高まる可能性がある点を、強く、心にとめておく必要があると思います。

 コロナ禍で、貴金属たちが自我に目覚め、定石外の路線をたどる可能性が高まっています。“定石”から離れて、一度、頭をゼロの状態にして、改めて、“現在の”貴金属相場を見てみてください。きっと、深いレベルで、貴金属相場の面白さに、気が付くと思います。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)