なぜ!?同じ貴金属なのに、金とプラチナの値動きが異なることがあるのか!?

 以下の図は、筆者が毎週注目している、“ジャンル横断騰落率ランキング”です。まずは、株、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産の4つのジャンルにまたがった、合計25銘柄の、先週1週間の騰落を確認します。

図:ジャンル横断騰落率ランキング(2021年1月29日~2月5日)

出所:マーケットスピードⅡ、楽天ウォレット、ミンカブ・ジ・インフォノイドのデータをもとに筆者作成

 ランキングから読み取ることができる、ジャンルを横断して俯瞰した、先週の市場全体の特徴は、以下です。

(1) 暗号資産のビットコインやイーサリアムの上昇率が高かった。
(2) 原油や銅、日米欧中の主要な株価指数が上昇した。
(3) 4つの貴金属のうち、パラジウムとプラチナは上昇したが、金と銀は下落した。

 昨年10月ごろから目立っている、暗号資産の主要銘柄であるビットコインとイーサリアムの上昇が、先週も見られました(1)。また、原油と銅、主要国の複数の株価指数という、景気動向に連動する傾向がある銘柄が同時に上昇したことから、先週は、さまざまな投資家がリスクをとって積極的に運用する市場のムード、いわゆる“リスク・オン”のムードが強かったことがうかがえます(2)。

 暗号資産は“リスク・オン”時に買われることがあるため、(2)が(1)の一因だったと考えられます。(2)が示す“リスク・オン”が発生したきっかけは、先々週発生した米国の一部の個人投資家の「共闘」による騒動が鎮静化したことが挙げられます。「共闘」が起きた原因については、前回の「ゲームストップ、銀までも…米国個人投資家の共闘の破壊力」で述べていますのでご参照ください。

 では、(3)の貴金属銘柄の値動きの“2極化”については、どのようなことが言えるのでしょうか。この点について筆者は、それぞれの貴金属が持つ”定石(じょうせき)“とも言える特徴が、先週、ストレートに表れた、と言えると考えています。次より、それぞれの貴金属市場の”定石“について述べます。

“定石”では、金と銀、プラチナとパラジウムは、それぞれ同じ方向に動く

“定石”とは、昔からの決まったやり方・考え方です。昔、うまくいったやり方・考え方、とも言えます。貴金属市場の定石とは、特定のある事象が発生すれば、金(ゴールド)、銀、プラチナ、パラジウムがそれぞれこう動く、というような、昔からの言い伝えと言えます。

 先週の値動きと、貴金属の市場の定石を具体的に示すと以下のようになります。

図:貴金属の先週の値動きと定石

出所:筆者作成

 貴金属の値動きにおける定石は、簡単に言えば、金(ゴールド)と株は逆相関、銀は金に追随、プラチナとパラジウムは株と相関です。これらが定石として言い伝えられているのは、各貴金属の用途別の消費割合に、ある傾向があるためです。

 以下のグラフは、4つの貴金属の用途別の消費割合を示しています。

図:貴金属ごとの用途別の消費割合(2018年)

出所:トムソンロイター・GFMSのデータをもとに筆者作成

 目立っているのが、“産業用”におけるパラジウムとプラチナの割合の高さです。金が9.4%であるのに対し、プラチナは69.1%、パラジウムに至っては93.6%です。同じ産業用であっても、貴金属間で消費の傾向が大きく異なることがわかります。

 また、“投資用”において、金と銀の消費の割合が他の貴金属に比べて高い点も目立ちます。金が26.4%、銀が17.5%ですが、プラチナとパラジウムはそれぞれ、3.9%と0.3%です。

 これらの点より、プラチナとパラジウムには主に産業用に用いられている、金と銀には他の貴金属に比べて投資用に用いられている割合が高い、というそれぞれ共通点があることがわかります。これらの共通点が、貴金属市場における定石の一定の根拠になっています。

 景気が回復する期待が高まり、株価が上昇している時、各種産業が活性化する期待が高まり、産業用の貴金属の消費が増加する期待が高まります。プラチナとパラジウムの定石と記した、株価とこれらの貴金属価格が連動する点は、この点が根拠の一つになっています。

 また、産業用の割合が小さく、投資用や宝飾用の割合が大きい金(ゴールド)は、景気動向を指し示す株と逆の動きをすることがあります。これは金の定石の一つです。そして、この金と銀は、投資用の用途の割合が他の2つの貴金属に比べて高い、という共通点を持っています。銀の定石と記した金につられて動く点は、この点が根拠の一つになっています。

 用途別に各貴金属の消費の割合を見ると、4つの貴金属それぞれの定石の根拠が見えてきます。貴金属の価格動向に注目する際は、先週がそうであったように、定石は一定程度、留意しておく必要があります。ただ、このような定石がいつの時代もその貴金属の価格動向の主要な傾向であり続けるか、と問われれば、必ずしも、そうとは言えません。

 実際に、2020年8月に金(ゴールド)が史上最高値をつける直接的なきっかけとなった、7月初旬からの大幅上昇時、株価も上昇していました。このような動きは、リーマンショック後、2009年から2012年頃にも見られました。

 定石では、株と金は逆相関ですが、それと真逆の“株と金の相関”が見られることも、あるのです。では、どのような時に、このような“定石外”が発生するのでしょうか? そして今後は、“定石”と“定石外”のどちらを意識すればよいのでしょうか?

コロナ禍で自我が芽生える貴金属市場。“定石”と“定石外”の両方を意識せよ

 先述のとおり、貴金属の価格動向に注目する際は、原則として定石に留意しておく必要がありますが、状況によっては、“定石”が価格動向の主要な傾向でなくなる場合があり、注意が必要です。

 現在はコロナ禍です。コロナ禍では、“定石外”を想定しなくてはなりません。コロナ禍では、株と金が相関関係になる、金と銀との相関関係や、プラチナやパラジウムと株の相関関係が崩れることを、常に想定しておかなければならないと、筆者は考えています。定石外が発生する背景に、金融緩和と、“脱炭素”ブームが挙げられます。

 新型コロナの感染拡大で負った経済的なダメージを回復させるため、“銀行の銀行”とよばれる中央銀行(日本であれば日本銀行、米国であればFRB(米連邦準備制度理事会)など)は、国債などを買い入れて、社会に資金を供給し続けています。また、目標金利を低水準で維持しています。

 また、世界は空前の“脱炭素”ブームです。以前の「脱炭素は、金・プラチナ・原油の上昇要因」で述べたとおり、さまざまな思惑が絡み、ブーム化していると言えます。“脱炭素”ブームもまた、貴金属市場に“定石外”をもたらす要因になり得ます。

 以下のとおり、コロナ禍における、金融緩和と脱炭素ブームが与える、貴金属市場への影響を、図にしました。

図:コロナ禍における、金融緩和と脱炭素ブームが与える貴金属市場への影響

出所:筆者作成

 上図のとおり、金融緩和は、金(ゴールド)と株式の上昇要因になり得ます。また、脱炭素は、銀とプラチナの上昇要因になり得ます。

 金融緩和と脱炭素という2大テーマは、本来、別々の文脈で議論されるため、金融緩和がさらに進んで金と株が上昇することと、脱炭素が進展して銀とプラチナが上昇することは、根本原因は別と解釈することになります。

 これまで、金と銀、そしてプラチナとパラジウムは、それぞれ歩調を合わせて動くのが“定石”だったわけですが、金融緩和と脱炭素が進展すれば、金は金の、銀は銀の、プラチナはプラチナの都合で、価格が動く場面が増えると、考えられます。プラチナがプラチナの都合で動けば、プラチナとパラジウムが連動する“定石”も崩れると、考えられます。

 新型コロナの感染拡大を起点とした金融緩和の進展と脱炭素ブームが与える、貴金属市場への影響は、“定石外”の発生、いわば、貴金属銘柄間のデカップリング(2つの値動きが連動しなくなること)の発生だと、筆者は考えています。

 貴金属市場の“定石”が全く通じなくなるわけではありませんが、コロナ禍ゆえ、“定石外”が発生する頻度が高まる可能性がある点を、強く、心にとめておく必要があると思います。

 コロナ禍で、貴金属たちが自我に目覚め、定石外の路線をたどる可能性が高まっています。“定石”から離れて、一度、頭をゼロの状態にして、改めて、“現在の”貴金属相場を見てみてください。きっと、深いレベルで、貴金属相場の面白さに、気が付くと思います。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)