“定石”では、金と銀、プラチナとパラジウムは、それぞれ同じ方向に動く

“定石”とは、昔からの決まったやり方・考え方です。昔、うまくいったやり方・考え方、とも言えます。貴金属市場の定石とは、特定のある事象が発生すれば、金(ゴールド)、銀、プラチナ、パラジウムがそれぞれこう動く、というような、昔からの言い伝えと言えます。

 先週の値動きと、貴金属の市場の定石を具体的に示すと以下のようになります。

図:貴金属の先週の値動きと定石

出所:筆者作成

 貴金属の値動きにおける定石は、簡単に言えば、金(ゴールド)と株は逆相関、銀は金に追随、プラチナとパラジウムは株と相関です。これらが定石として言い伝えられているのは、各貴金属の用途別の消費割合に、ある傾向があるためです。

 以下のグラフは、4つの貴金属の用途別の消費割合を示しています。

図:貴金属ごとの用途別の消費割合(2018年)

出所:トムソンロイター・GFMSのデータをもとに筆者作成

 目立っているのが、“産業用”におけるパラジウムとプラチナの割合の高さです。金が9.4%であるのに対し、プラチナは69.1%、パラジウムに至っては93.6%です。同じ産業用であっても、貴金属間で消費の傾向が大きく異なることがわかります。

 また、“投資用”において、金と銀の消費の割合が他の貴金属に比べて高い点も目立ちます。金が26.4%、銀が17.5%ですが、プラチナとパラジウムはそれぞれ、3.9%と0.3%です。

 これらの点より、プラチナとパラジウムには主に産業用に用いられている、金と銀には他の貴金属に比べて投資用に用いられている割合が高い、というそれぞれ共通点があることがわかります。これらの共通点が、貴金属市場における定石の一定の根拠になっています。

 景気が回復する期待が高まり、株価が上昇している時、各種産業が活性化する期待が高まり、産業用の貴金属の消費が増加する期待が高まります。プラチナとパラジウムの定石と記した、株価とこれらの貴金属価格が連動する点は、この点が根拠の一つになっています。

 また、産業用の割合が小さく、投資用や宝飾用の割合が大きい金(ゴールド)は、景気動向を指し示す株と逆の動きをすることがあります。これは金の定石の一つです。そして、この金と銀は、投資用の用途の割合が他の2つの貴金属に比べて高い、という共通点を持っています。銀の定石と記した金につられて動く点は、この点が根拠の一つになっています。

 用途別に各貴金属の消費の割合を見ると、4つの貴金属それぞれの定石の根拠が見えてきます。貴金属の価格動向に注目する際は、先週がそうであったように、定石は一定程度、留意しておく必要があります。ただ、このような定石がいつの時代もその貴金属の価格動向の主要な傾向であり続けるか、と問われれば、必ずしも、そうとは言えません。

 実際に、2020年8月に金(ゴールド)が史上最高値をつける直接的なきっかけとなった、7月初旬からの大幅上昇時、株価も上昇していました。このような動きは、リーマンショック後、2009年から2012年頃にも見られました。

 定石では、株と金は逆相関ですが、それと真逆の“株と金の相関”が見られることも、あるのです。では、どのような時に、このような“定石外”が発生するのでしょうか? そして今後は、“定石”と“定石外”のどちらを意識すればよいのでしょうか?