ディスラプション(創造的破壊)

 米国の製造業生産高は好調です。すでにコロナ前の水準に戻っています。もっとも、これは米国に限らず世界的な傾向であり、日本においても家電売上や巣ごもり用の家具の需要で製造業は堅調です。

 ところが12月の米雇用統計を見ると、非農業部門雇用者数は▲14万人。雇用は減っているのです。新規失業保険の申請件数も80万件台で高止まりです。

 雇用減のなかでの生産高増加は、米経済が「雇用なき回復」へ進んでいることを示しています。コロナ後の米雇用市場が直面することになる長期的な問題です。

 新型コロナが引き起こすディスラプション(先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊す創造的破壊)によってロボット工学やオートメ化技術がどんどん進化しています。そして技術進歩による生産性向上の期待が高まるほど、「雇用なき回復」が加速する傾向にあります。

 コロナによる収益ダメージが大きい業種のロボット導入率は上昇していますが、製造業全体でも2021年末の導入率は2015年の2倍に増加すると予想されています。

 その結果起きていることは、低熟練(スキル)労働者のリストラです。一方で、政府の手厚い給付金を使ってマネーゲームに熱狂する層が増え、実体経済とかい離した株価の高騰が続く。格差社会が広がっているのです。

 2020年、新型コロナが世界を襲いNYなど米国の主要都市が次々とロックダウンされていくなかで、投資家は現金(ドル)が手元になければパンも買えないし、逃げ出すための車のガソリンも買えないとパニックになって株券の換金を急ぎました。「リスクオフはドル高(円安)」という関係になったのはこの時からだと記憶しています。それまでは長い間、「リスクオンはドル高(円安)」という関係が存在していました。

 ところが、昨年12月にコロナワクチンの開発が成功し供給が始まると、世界経済回復の期待から「リスクオンの時はドル安(円高)」という関係にかわりました。なぜリスクオンでドル安かというと、パンもガソリンも普段通り買えて安心したので投資活動が再び活発になり、米国に一極集中していたマネーが他の地域へと分散投資されたというわけです。

 その関係でいうと、今はその逆、株価が下がり投資家のセンチメント(投資意欲)が下がる状態の「リスクオフ」だから「ドル高」になるわけです。