バイデン政権下、高エタノールガソリンの通年販売が実現し、穀物価格が上向くか
オバマ政権時の目立った事象に、バイオエタノールの生産増加、が挙げられます。以下は、米国のバイオエタノールの生産量とガソリン消費に占めるバイオエタノールの割合です。
図:米国のバイオエタノールの生産量 単位:百万バレル/日量
2007年のブッシュ大統領の一般教書演説を機に、主にトウモロコシを原料とした再生可能エネルギーの一つとされる植物由来のエタノール(以下エタノール)の生産・使用が推奨され、飛躍的に米国のエタノール生産量は増加しました。オバマ政権時、エタノールの生産・使用が拡大したのは、エネルギーの安定確保の他、気候変動への配慮を強めるためでした。
現在でも、米国国内の多くのほとんどのガソリンスタンドで、エタノールを10%添加したガソリン(E10)が販売されているようです。
エタノールの使用は、ガソリンの使用とトレードオフ(片方を得ると、もう片方を失う関係)です。ガソリンそのものの消費量が頭打ちになったこともあり、この“10%”が壁になって、近年はエタノールの生産・使用が頭打ちになっていました。このことは「ブレンドの壁」と呼ばれています。
2019年ごろから、ブレンドの壁を打ち破るべく、高エタノールガソリン(エタノールを15%添加したE15)の通年販売の実現をめぐり、議論が活発化していました。米国の農家にとっては、需要増加が見込まれるプラスの話ですが、トレードオフの関係にある石油業界にとっては、耳の痛い話です。
この話がこれまで具体的に進展しなかったのは、石油業界と緊密な関係にあったトランプ氏が大統領だったため、と筆者は考えています。
昨年の大統領選挙の開票および結果をめぐり、複数の訴訟を起こし敗れたトランプ政権を擁護するように、連邦最高裁に対して、激戦となったペンシルベニア、ジョージア、ミシガン、ウィスコンシン州で不正があったと訴えたのは、全米で最も原油生産量が多く、屈指の精製量を誇るテキサス州の司法長官でした。
パリ協定を離脱したり、化石燃料の使用を推奨したりした前大統領と石油業界の関係が、高エタノールガソリン(E15)の通年販売の議論が進展することを難しくしてきた可能性はゼロではありません。
しかし、政権は移行しました。オバマ政権への“回帰”という点でも、バイデン政権では、エタノールの生産・使用が推奨されやすくなり、高エタノールガソリン(E15)の議論が進みやすくなったと、言えると思います。
以下のとおり、ガソリンに添加できるエタノールの量を増やすことができるようになれば、飛躍的に米国のトウモロコシの生産量と消費量が増加する可能性があります。
図:米国国内のガソリン消費に占めるエタノール使用率
オバマ政権に一部“回帰”する姿勢を示し、パリ協定に復帰して石油業界と一線を引けるバイデン政権のもとであれば、E15の通年販売の議論は進みやすくなると考えられます。
前回の「脱炭素は上昇気流!穀物3銘柄の価格が上昇する7つの理由」 で述べたとおり、穀物価格は昨年夏以降、上昇傾向にありますが、仮に米国でE15の通年販売が実現すれば、米国の農業の再興の礎となり、農家の発言権が強まり、市場は生産者側の意向を反映しやすくなる、つまり、価格が上向きやすくなると考えられます。
図:シカゴトウモロコシ先物(期近 月足 終値) 単位:セント/ブッシェル
今回は、発足したバイデン政権と穀物市場の関係について書きました。新型コロナの影響や他の穀物生産国の動向など、考慮しなければならない点はありますが、米国で新政権が発足し、政策的に需要が増える可能性が浮上した点は、今後の穀物価格の動向を考える上で、大きなポイントになると、筆者は考えています。
[参考]穀物関連の具体的な投資商品
国内株
海外ETF
iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数
トータルリターンETN(JJG)
外国株
商品先物
海外 トウモロコシ 大豆 小麦 大豆粕 大豆油 もみ米