転換なのか、回帰なのか、判断が分かれるバイデン氏の大統領令の署名
さまざまな異例の事態の中、都市部での圧勝をきっかけに大統領選挙に勝利したバイデン氏は、就任初日に15本、その翌日に10本、大統領令に署名しました。
バイデン大統領が署名した大統領令の数が“異例の多さ”だったことは、新型コロナの感染拡大が続いていること、人々の間で地域、人種、思想などにおける分断が発生していること、中国をはじめとした諸外国との軋轢(あつれき)が絶えないことなど、米国が、強い“内憂外患”の状態にあることの裏返しと考えられます。異端と言われたトランプ氏が残した傷を癒すため、という面もあります。
また、新大統領の就任式に出席しないという異例の行動をとったトランプ氏が今後、どのように政策運営に影響してくるのかも、“内憂”の一つと言えます。
今回署名された大統領令のうち、比較的、コモディティ(商品)市場に近いものとして、パリ協定への復帰や、カナダ産原油を米国に輸入する際に用いられるパイプライン建設の許可差し止め、があります。
トランプ氏は、2017年6月にパリ協定を脱退すると宣言、同年3月に同パイプラインの建設を許可していましたが、バイデン氏はこれらを、就任後“即”、大統領令で修正したわけです。
これらの修正が“即”だったことから、いかにこれまでの4年間、バイデン氏(あるいは民主党)が、トランプ氏の行動を正したかったか、そして米国をオバマ政権時の路線に戻したかったかがうかがえます。これらの修正は、トランプ氏の否定の他、”オバマ政権への回帰“という意味を含んでいると、考えられます。
大転換に見える今回の大統領令の連発は、転換だけでなく、”回帰“も含まれる点に留意が必要だと、筆者は考えています。”回帰“は、新しいことへの挑戦というよりは、どちらかと言えば前例踏襲、という意味が強いため、バイデン氏は内憂外患の米国を、大転換だけでなく、前例踏襲を用いて救うことを考えているのかもしれません。