(4)米長期金利の先行的な上昇
経済回復の展望を抱きながら、株価が過熱的に上昇すれば、長期金利が先行的に上昇して、株式相場に水を差すリスクが高まります。コロナ禍の苦境を乗り切るための超金融緩和の下、国も企業も個人も債務を積み上げており、金利上昇は不安を呼ぶでしょう。株式相場をけん引するグロース株は、低金利環境で飛躍する性質があり、金利上昇に対して脆弱(ぜいじゃく)と考えられます。
(5)想定外:規制、米中、地政学、自然災害…ではなく、あえて季節調整の問題
プラットフォーマー規制、米中摩擦悪化、地政学的問題、自然災害や新種のパンデミック…など、想定はしても事前に織り込めず、突発的に相場を揺さぶるリスク要因は多々あります。それらをさておいて、ここではあえて、ほとんど市場で指摘されていない季節調整の問題を考えます。
米国の経済指標はほとんどが季節調整処理をした値が公表されます。例えば、個人消費は年間全体の何割もがクリスマス商戦期に支出されます。この現数値を前月比で表記すれば、何十%も振れるため、こうした季節的に繰り返される変動を統計的に均(なら)して、前月比など比較可能にするのが季節調整です。
その何がリスクになるのでしょう。コロナ禍の米国では、3~5月に経済指標が空前の悪化をし、6月以降に過去最大級の反発を見せました。季節調整の統計処理では、こうした特殊要因にも対応方法がありますが、完全に調整するのは困難です。過去に、大きなショックの後に翌年以降の経済指標の季節調整済み発表値がゆがんでいるのではないかと疑われる場面がありました。
例えば、2008年9月のリーマン・ブラザーズ経営破綻からの金融危機で、10-12月期に経済指標は劇的に悪化し、翌年春先から反発しました。翌年以降、数年にわたり、10-12月期に指標が強振れ、株式相場が景気回復を囃して上がり、春にかけて指標の弱振れで相場反落ということが続きました。
2021年の指標でも、3~5月分が発表される4~6月に強めになり、経済はもう大丈夫とばかりに株高が進み、7~9月から秋にかけて、失望売りに転じるような展開も排除できません。ほとんどの投資家にとって意識すらしない経済指標のゆがみが、過熱して高まった相場を揺さぶるかもしれません。
上昇気流のエアポケット
2021年は、相場の好条件が、株式のみならず、新興国・資源などグローバルに広がる可能性をみています。当然この好相場に前向きに取り組むことが推奨です。当レポートではあえて、好条件が過ぎるがゆえのリスク要因を5つ指摘しました。しかしどれもが、「金融緩和+ワクチン」を背景とする上昇気流の中のエアポケットほどのリスクと考えています。万一、こうしたリスク要因で株価が急反落すれば、経済サポートに余念ない中央銀行など政策当局が看過することはないでしょう。リスク(2)の需要不足に政策が効かない事態は深刻ながら、だからこその不退転の政策姿勢を現時点では評価しています。
相場の過熱、経済回復の早期化で、2022年、2023年と政策支援の「出口」懸念が前倒しされる可能性を注視しつつも、2021年のリスクではないでしょう。相場の上昇気流にまず乗って、慢心することなく、エアポケットに留意すれば、押し目もまたより良い買い場になると期待しています。
2021年が、皆さまにとってより素晴らしい投資年になるよう、祈念いたします。
■著者・田中泰輔の新刊『逃げて勝つ 投資の鉄則』(日本経済新聞出版刊)が発売中です!