1:埋まらない溝

 同じ分野における、スタンスが異なる2者の間にある溝が、埋まらないことをイメージしています。

 スタンスが異なる2者とは例えば、米国と中国、中国と香港、一党独裁国家と民主主義国家、大衆迎合と民主主義、先進国と発展途上国、トランプ派とバイデン派、資産階級と労働階級、黒人と白人など、新型コロナ関連で言えば、医療体制が整っている国とそうでない国、新しい生活様式を受け入れる人と過去にとどまりたがる人など、です。

 基本的に、特に資本主義においては、“格差は成長の余地”という側面を持っています。例えば、この半世紀、“人類未踏の地”と言われたアフリカの開発が本格化しましたが、アフリカが未開である一方、アフリカを開発した多くは高度な技術と豊富な資金を有していた成熟した先進国でした。

 アフリカ開発には、“未開”と“成熟”という明確な格差が存在します。“格差”が、先進国にビジネスチャンスを、アフリカ諸国に高度な技術を与えたと言えます。

 現在、世界経済は、新型コロナの感染拡大により、甚大なダメージを負っています。この甚大なダメージから回復するためには、ある程度、資本主義が成長の源泉とする“格差”が必要です(人権を脅かす格差は除く)。格差を埋めようとすることで、成長するのが資本主義だからです。

 特に技術的な格差(溝)があるところに成長が生まれる傾向があります。現代社会は、資本主義が主流であり、そして、コロナ禍からの経済回復が急務である以上、社会から溝がなくなることはないと、考えられます。

 また、自分の立ち位置を守るためにあえて溝を維持することもあります。経済的格差、技術的格差、思想の相違など、すぐに解消しにくい溝がある状態を過ごすためには、主張が必要です。主張は自分と相手の間に壁を作る要因になるため、主張が続くうちは、溝が埋まることはありません。

 一般的には、“格差はない方がよい”、“みんな平等であるべきだ”と考えられがちですが、社会の仕組みが“溝”を必要としている以上、今後も、成長の源泉であり、自分を守るすべであり続けるでしょう。この意味では、いくら美辞麗句を並べても、溝はなくならないと言えます。

“埋まらない溝”は、金市場に関わる5つのテーマのうち、不安心理の拡大という意味で“有事のムード”、不安心理が拡大した際に株価が不安定化する懸念があるという意味で“代替資産”、2つのテーマ起因の上昇圧力が発生することにつながります。

2:コロナ対策のために行われた借金の返済スケジュールへの意識の高まり

 新型コロナの感染拡大を防止するため、世界全体で、行動を自粛したり、経済活動を制限したりしています。この自粛や制限による経済活動の停滞を最小限にとどめるため、世界中で国や自治体は、莫大(ばくだい)な資金を投じています。

 例えば、高い有効性が確認されているワクチンの接種が、世界中で始まった場合、どのようなことが起きるでしょうか。2020年1月以降、人的・経済的に甚大なダメージを受け続けてきた新型コロナウイルスの脅威から逃れられる出口の一端が見えた時です。

 まずは、世界中の市民生活、そして株式やコモディティ(商品)の各種市場など、それまでにダメージを受けてきた各所が、良好な状態になることが予想されます。それと同時に、それまで積み上げた莫大な借金の額を直視することになると考えられます。

 たとえ世界中に浸透していなくても、有効性の高いワクチンが世界中で“使われ始めれば”、アフターコロナ(コロナ後の世界)の兆しが見える可能性があります。そして、コロナ禍から抜け出す出口の一端が見えたのであれば、次に、具体的な“出口戦略”を練らなくてはならなくなります。

 このタイミングが、それまで積み上げた莫大な借金の額を直視し、それをどう返済するのかを、現実的なレベルで考えるタイミングになるとみられます。有効性の高いワクチンが普及すればするほど、“出口”が迫り、“借金返済”を現実的に考えなくてはならなくなるわけです。

“コロナ対策のために行われた借金の返済スケジュールへの意識の高まり”は、“埋まらない溝”と同様、金市場に関わる5つのテーマのうち、不安心理の拡大という意味で“有事のムード”、不安心理が拡大した際に株価が不安定化する懸念があるという意味で“代替資産”、2つのテーマ起因の上昇圧力が発生することにつながります。

 ワクチンの普及には時間がかかることが想定されるため、この材料起因の上昇圧力は、年初よりも年央、年央よりも年末の方が強くなることが予想されます。