相場変動の力学イメージ

 コロナ禍で発生した株式金融相場とその調整という一連の展開は、相場変動の力学を修得するのに格好の教材でした。「トウシル」において、筆者のレポートと動画を通じて相場観察された方は、底流にある一貫したロジックを実感していただけたのではないでしょうか。さらに、相場変動の力学をこの機会に実感していただく解説を付記します。

 図表5は、相場の他律変動と自律変動を説明するのに、筆者が『マーケットはなぜ間違えるのか』(東洋経済新報社、1995年)で用いたイメージ図です。祭の神輿が市場、神輿の担ぎ手が市場の中核にいる投資家や投機筋です。不慣れな人が神輿を担ごうと近づけば、勝手が分らず振り回され、後には他の人に「危険だ、近づくべきではない」と忠言したくもなるでしょう。しかし、皆さんも、神輿の動き自体には熱気とともに、美しいリズムを感じませんか。慣れた担ぎ手は、神輿の動きに逆らわず身を委ねながら、しっかり担いでいます。ここに相場の自律変動の力学部分があります。

図表5:神輿で考える相場力学

出所:田中泰輔著『マーケットはなぜ間違えるのか』(東洋経済新報社、1995年)

 相場の他律変動は、経済社会の需要と供給で、企業や個人などそれぞれのビジネスの採算点など何らかの基準で立ち位置が決まっている見物人です。祭の境内で彼らの立ち位置が道を作り、神輿は激しく揺れ動きながらも、通常はその間を移動します。他律変動の道筋を一時点で断面として見れば、図表6の需要曲線DDと供給曲線SSの交点を底にしたV字溝です。神輿は需要と供給に両サイドから押し返され、このV字溝から外れていくことはほとんどありません。ただし、中央銀行の金融緩和という振る舞い酒が過ぎると、酔った観客が立ち位置を離れて道が乱れたり、一緒に神輿を担ごうと集まったりして、バブルや暴落の事故も起きかねなくなります。

図表6:需要・供給曲線と神輿

出所:田中泰輔著『マーケットはなぜ間違えるのか』(東洋経済新報社、1995年)

 相場分析は、より短期の動きをつかもうとするほど、神輿の動き、すなわち自律変動の力学に通じる必要があります。マクロ経済分析で見物人の立ち位置だけ見るようでは、数カ月程の間に起こる市場の変調を捉えられません。他方、神輿の担ぎ手たる市場中核の参加者のほとんどは、相場解説をする人たちではありません。それでは一般投資家はどうしようもないではないかと思われるかもしれません。しかし、現実に投資家として相場に臨むほとんどの場合、神輿が見物の人垣の道を進んでいると判断されるときだけ参加し、担ぎ手や見物人が盛り上がって危険と思ったら退避を身構える、それだけのことです。

相場復調後のリスク見直し

 米株式相場は、復調のリズムをたどっているとはいえ、まだ道半ばです。当レポートでは、順当に復調した場合の10~12月相場の展開イメージを確認しました。復調シナリオを信じるなら、投資の継続か再参入の仕方、銘柄・業種選びなど、具体的に動き出す頃合いです。筆者は相場の方向性を一度つかんで乗ったと判断したら、その後はもっぱらその見込みが外れるリスク、いわば、神輿が反転するリスクを注視します。そのリスクが十分大きくならない限り、既に参加している相場の流れに残るアプローチです。この反転リスクは、相場の進行につれて、もともと認識していたものから変容していきます。金融相場が高い間は反乱リスクだったものが、先に相場反落となれば織り込み済みに変わるといった具合です。10月に相場の復調が確認できれば、次は、経済の重さ、政策継続への不安、ワクチン開発の成否、米大統領・議会選挙の結果、米中確執などの諸リスクを再評価する必要があります。ただし、復調を展望する今、慎重ながらも前向きに投資に取り組む基本スタンスに変更はありません。