コロナ対策が強化され、経済縮小懸念で欧州の株と通貨が下落。対ユーロのドル高が進行

 先週、“代替資産”、“有事のムード”という2つの上昇要因があったにもかかわらず、金相場が下落しました。その背景を考える上で、“金相場が一つの材料で動いていない”、という金相場を取り巻く環境の構造を、理解することが必要です。

 筆者は、金市場には、“有事のムード”、“代替資産”、“代替通貨”、“中国インドの宝飾需要”、“中央銀行”の、少なくとも5つのテーマが存在すると考えています。新型コロナショック時の下落、2020年8月上旬の下落、そして今回の9月下旬の下落を、上述した5テーマの影響度を比較してみましょう。金相場の大幅下落時の各テーマの状況を、二重丸(強い上昇要因として影響)や三角(下落要因として影響)の記号であらわすと、以下のようになります。

図:金相場を取り巻く5つのテーマと価格下落時のイメージ

出所:筆者作成

 図の右の「9月下旬の下落時」で示したとおり、短・中期的な金価格の上昇要因になり得る“有事のムード”と“代替資産(この場合、株の代わり)”の2つのテーマは、価格を上昇させる方向に向いていたと考えられます。世界、とりわけ欧州で新型コロナの感染拡大が目立ったことで不安・懸念が拡大し、同時に、ハイテク株を除く主要国の株価指数が下落したためです。

 これら2つの上昇要因を相殺した上で、金相場を下落に導いたのが“代替通貨(この場合、ドルの代わり)”と考えられます。先の図「先週の主要銘柄の騰落率」で示したとおり、ドルは先週、複数の主要国通貨に対して上昇しました。特に顕著だったのは、欧州の通貨に対してです。以下はユーロ/ドルの推移です。

図:ユーロ/ドルの推移 単位:ドル

出所:ブルームバーグより筆者作成

 9月18日(金)を起点に、先週1週間、ユーロ/ドルは大きく下落しました。主なきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた同地域における対策強化実施による、経済活動が縮小する懸念、と考えられます。この点は、同期間に欧州の主要株価指数が下落したことと符合します。

 ドルと金(ゴールド)は、“世界共通のお金”という共通点があると考えられます。ドルは現在、世界の貿易で最も多く使われている通貨(基軸通貨)であり、金は歴史的にも世界中でお金として使われ、現在でも、信用力が比較的低く、かつ非常事態に陥った国の中央銀行が、他国への債務返済などの当座の資金繰りのために保有していた金を利用する例があるなど、れっきとした、お金という側面を持っています。

 このドルと金の関係が、金をとりまく重要テーマの一つ“代替通貨”の根拠です。ドルを保有する妙味が増す時、相対的に金を保有する妙味が低下し、逆にドルを保有する妙味が低下する時、相対的に金を保有する妙味が増す、という仕組みです。

 ユーロ/ドルなどの通貨ペアの価格動向は、これら2つの通貨の力関係を示していると言えます。このため、ユーロが高い時、ドルが安くなり(ユーロ高・ドル安)、ユーロが安い時、ドルが高くなります(ユーロ安・ドル高)。

 金を取り巻くテーマは、少なくとも5つあると考えられ、“代替通貨”だけで、金価格の動向を説明することはできませんが、今回の金価格の大幅下落には、“対ユーロのドル高”が強く関わっていると、みられます。

 “対ユーロのドル高”のきっかけの一つに、欧州の新型コロナ対策の強化による経済活動が縮小する懸念が挙げられると、筆者は考えています。次より、欧州の新型コロナの感染状況について見ていきます。