マーケットの注目はFOMCの経済予測と金利見通し

 この新たな政策指針に対するマーケットの反応は限定的でした。8月に既に表明されていたため、マーケットが反応したのは、FOMCの経済予測と金利見通しです。

 今回2023年分が初めて公表されるため注目されていましたが、予想通り2023年まで利上げなしとの見通しが明らかになり、マーケットはドル売りで反応しました。しかし、2023年の金利見通しについては4人が利上げを見込んでいることや、来年(2021年)、再来年(2022年)のGDP(国内総生産)見通しが下方修正されたものの、今年(2020年)は上方修正されたこと、また、インフレ見通しは今年、来年、再来年すべて上方修正されたことからドル買いが優勢となりました。さらに、パウエル議長は記者会見で財政による追加の景気支援が必要になると言及したため、FRBの追加金融緩和への期待が後退したこともドル買いを支えたようです。

FRB見通し(2020年9月時点)

    2020年 2021年 2022年 2023年 長期
FF金利 2020年6月見通し 0~0.25 0~0.25 0~0.25 - 2~3
2020年9月見通し 0~0.25 0~0.25 0~0.25 0~0.25 2~3
実質GDP
成長率
2020年6月見通し ▲6.5 5.0 3.5 - 1.8
2020年9月見通し ▲3.7 4.0 3.0 2.5 1.9
インフレ率 2020年6月見通し 1.0 1.5 1.7 - -
2020年9月見通し 1.5 1.7 1.8 2.0 -

欧州で新型コロナウイルスの感染再拡大

 ところが、その後発表された17日の米国の新規失業保険申請件数や8月住宅着工件数が予想を下回ったことから、FOMCの見通しで上方修正されたGDPへの期待が後退し、ドル買いも続きませんでした。それよりも材料視されたのは、欧州で新型コロナウイルスの感染再拡大の動きです。この感染再拡大への懸念から欧州株が急落しました。

 感染再拡大による経済活動停滞への警戒感から投資家のリスク回避の動きが強まり、その警戒感は米国にも伝播しました。週明け21日(月)、欧州株は大きく下落し、NYダウ平均株価は一時900ドルを超える下落となりました。

 9月のFOMCで今年の経済見通しは上方修正されましたが、新型コロナウイルスの感染再拡大によってこの期待が急速に後退しました。

 9月のECB(欧州中央銀行)理事会でもECBスタッフの2020年の経済見通しでは、GDPが上方修正されていますが(▲8.7%→▲8.0%)、わずか数週間でこの見通しを揺るがす動きが出始めています。スペインでは一部でロックダウンが再び導入され、英国でも飲食店の営業時間を短縮するなど再び経済規制の動きが出始めています。

 感染拡大が収まらず、経済規制が長引けば、経済停滞が長引き、ECBの経済見通しは12月には下方修正せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。

ECBスタッフによるユーロ圏経済見通し

発表年月  GDP成長率
予想(%)
インフレ率
予想(%)
2020 2021 2022 2020 2021 2022
2020年
6月
▲8.7 5.2 3.3 0.3 0.8 1.3
2020年
9月
▲8.0 5.0 3.2 0.3 1.0 1.3

 週明け21日(月)は、東京市場は祝日で休みでしたが、欧州市場で円高が進み1ドル=104円近辺まで下落しました。FRBの超長期ゼロ金利政策がドルの重しになっていますが、それ以上にクロス円が売られたことがドル/円の円高に拍車をかけました。

 8月以前はクロス円が上昇し(円安要因)、ドル/円の円高にブレーキをかけていましたが、9月に入ってECBからユーロ高けん制発言が繰り返されたところに欧州株が下落。ユーロ/円は9月初めの127円近辺から122円台まで売られ、5円強の円高となりました。

 ポンドは、これまで否定してきたマイナス金利の導入が議論されていたことが明らかになったことや新型コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンへの懸念から急落し、ポンド/円は142円台から133円台まで、約9円の円高となりました。

 新型コロナウイルスの感染拡大が経済停滞を引き起こし、景気後退懸念から株が急落するという構図は、今後、各国がロックダウンなど再び経済活動の規制強化に動けば、繰り返されることが予想されます。