FOMC後の記者会見で明確な約束
先週のドル/円は、15~16日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)前までは105円台が中心取引レンジでしたが、FOMC後は104円台が取引の中心となり、終値も104円台が続き、じりじりと円高にいっています。
FOMCでは、8月にFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が2%の物価目標の柔軟化を表明していたことから、FOMCの声明文に新たな政策指針をどのように盛り込まれるのかが注目されていました。声明文では「物価上昇率が2%の目標を下回り続けているため、当面は2%を適度に上回る物価上昇を目指す」と、8月の平均物価目標の考えが盛り込まれていました。そして、物価上昇率が2%に達してもすぐには利上げしないことを、記者会見では「明確な約束」と強調しました。
8月の表明がFOMCの声明文に明確に盛り込まれたことから、今後のFRBの政策指針となるため、この先数年間はFRBの金融政策を探るときには大前提の考え方となることに留意しておく必要があります。
マーケットの注目はFOMCの経済予測と金利見通し
この新たな政策指針に対するマーケットの反応は限定的でした。8月に既に表明されていたため、マーケットが反応したのは、FOMCの経済予測と金利見通しです。
今回2023年分が初めて公表されるため注目されていましたが、予想通り2023年まで利上げなしとの見通しが明らかになり、マーケットはドル売りで反応しました。しかし、2023年の金利見通しについては4人が利上げを見込んでいることや、来年(2021年)、再来年(2022年)のGDP(国内総生産)見通しが下方修正されたものの、今年(2020年)は上方修正されたこと、また、インフレ見通しは今年、来年、再来年すべて上方修正されたことからドル買いが優勢となりました。さらに、パウエル議長は記者会見で財政による追加の景気支援が必要になると言及したため、FRBの追加金融緩和への期待が後退したこともドル買いを支えたようです。
FRB見通し(2020年9月時点)
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 長期 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
FF金利 | 2020年6月見通し | 0~0.25 | 0~0.25 | 0~0.25 | - | 2~3 |
2020年9月見通し | 0~0.25 | 0~0.25 | 0~0.25 | 0~0.25 | 2~3 | |
実質GDP 成長率 |
2020年6月見通し | ▲6.5 | 5.0 | 3.5 | - | 1.8 |
2020年9月見通し | ▲3.7 | 4.0 | 3.0 | 2.5 | 1.9 | |
インフレ率 | 2020年6月見通し | 1.0 | 1.5 | 1.7 | - | - |
2020年9月見通し | 1.5 | 1.7 | 1.8 | 2.0 | - |
欧州で新型コロナウイルスの感染再拡大
ところが、その後発表された17日の米国の新規失業保険申請件数や8月住宅着工件数が予想を下回ったことから、FOMCの見通しで上方修正されたGDPへの期待が後退し、ドル買いも続きませんでした。それよりも材料視されたのは、欧州で新型コロナウイルスの感染再拡大の動きです。この感染再拡大への懸念から欧州株が急落しました。
感染再拡大による経済活動停滞への警戒感から投資家のリスク回避の動きが強まり、その警戒感は米国にも伝播しました。週明け21日(月)、欧州株は大きく下落し、NYダウ平均株価は一時900ドルを超える下落となりました。
9月のFOMCで今年の経済見通しは上方修正されましたが、新型コロナウイルスの感染再拡大によってこの期待が急速に後退しました。
9月のECB(欧州中央銀行)理事会でもECBスタッフの2020年の経済見通しでは、GDPが上方修正されていますが(▲8.7%→▲8.0%)、わずか数週間でこの見通しを揺るがす動きが出始めています。スペインでは一部でロックダウンが再び導入され、英国でも飲食店の営業時間を短縮するなど再び経済規制の動きが出始めています。
感染拡大が収まらず、経済規制が長引けば、経済停滞が長引き、ECBの経済見通しは12月には下方修正せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。
ECBスタッフによるユーロ圏経済見通し
発表年月 | GDP成長率 予想(%) |
インフレ率 予想(%) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
2020 | 2021 | 2022 | 2020 | 2021 | 2022 | |
2020年 6月 |
▲8.7 | 5.2 | 3.3 | 0.3 | 0.8 | 1.3 |
2020年 9月 |
▲8.0 | 5.0 | 3.2 | 0.3 | 1.0 | 1.3 |
週明け21日(月)は、東京市場は祝日で休みでしたが、欧州市場で円高が進み1ドル=104円近辺まで下落しました。FRBの超長期ゼロ金利政策がドルの重しになっていますが、それ以上にクロス円が売られたことがドル/円の円高に拍車をかけました。
8月以前はクロス円が上昇し(円安要因)、ドル/円の円高にブレーキをかけていましたが、9月に入ってECBからユーロ高けん制発言が繰り返されたところに欧州株が下落。ユーロ/円は9月初めの127円近辺から122円台まで売られ、5円強の円高となりました。
ポンドは、これまで否定してきたマイナス金利の導入が議論されていたことが明らかになったことや新型コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンへの懸念から急落し、ポンド/円は142円台から133円台まで、約9円の円高となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大が経済停滞を引き起こし、景気後退懸念から株が急落するという構図は、今後、各国がロックダウンなど再び経済活動の規制強化に動けば、繰り返されることが予想されます。
予断を許さない新型コロナウイルスの感染再拡大
新型コロナウイルスの感染拡大はいまだ増加傾向です。感染者は世界で3,100万人を超え、死者も96万人を超えている状況です。感染者はこの1カ月で1,000万人増えましたが、WHO(世界保健機関)は21日、9月20日までの1週間で200万人増えており、過去最多と報告しています。アフリカ地域を除く全地域で増加しており、最も多いのは北米と南米を合わせた米州地域で全体の38%を占めているとのことです。
世界最多の米国は、22日現在で感染者が688万人超、死者数は20万人を超えました。ワシントン大学の研究によると、年末までに死者は約37万人になるとの予測も出ています。
米国の新型コロナウイルスの感染再拡大によって、米国では中西部など20の州では経済再開を停止したり、規制を再び強化したりしています。規制強化が他の州にも広がれば、経済停滞懸念が広まり、株にとってはマイナス材料となり、円高の状態が続くことが予想されます。
金融政策は、ゼロ金利の超長期化は既に織り込まれたことから、FRBの選択肢が限定的であることをマーケットは察知し始めています。頼みの綱はパウエル議長も指摘している財政支援です。しかし、米国の追加経済対策は、最高裁判事の後任人事を巡る与野党の駆け引きにより対策が遅れるとの警戒感が広がっています。トランプ米大統領は26日に後任を指名すると発言していますが、野党の反発は強まることが予想されます。
このような状況の中で9月29日には第1回のトランプ氏とバイデン氏の討論会があります。波乱材料になる可能性があり注目です。
米大統領選の日程 | |
---|---|
9月29日 | トランプ氏とバイデン氏の第1回討論会 |
10月7日 | ペンス氏とハリス氏の討論会 |
15日 | トランプ氏とバイデン氏の第2回討論会 |
22日 | トランプ氏とバイデン氏の第3回討論会 |
11月3日 | 米国大統領選本選投開票 |
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。