2)セグメント別動向:半導体シリコンと塩ビ・化成品が回復をけん引

 前述のように、今1Qは前年比では全事業が営業減益となりました(表4)。ただし、前期比(前4Q比)を見ると、セグメント別の業績の好悪が明らかになっています。

 塩ビ・化成品は、4月に北米で悪化する市況に合わせて出荷価格を値下げしましたが、旺盛な巣ごもり消費(DIY需要の増加による塩ビ需要の増加)によって、6、7月と値上げが浸透しました。8月も値上げしており、塩ビ・化成品は今2Q、今3Qともに前期比増益になると予想されます(アメリカの塩ビ子会社シンテックの1-3月期業績は信越化学連結決算の4-6月期に反映される)。巣ごもり需要が簡単になくなるとは思えないため、塩ビ・化成品が信越化学の業績回復をけん引する一方の柱になると思われます。

 もう一つの回復の柱は半導体シリコンです。価格の高い長期契約比率を出来るだけ高め、スポット価格変動の影響を出来るだけ排除することに成功した結果、安定した高水準の営業利益を上げることが出来ています。価格が高い300ミリと先端品の比率がSUMCOよりも高いと思われることも、高水準の営業利益に寄与していると思われます。また前述したように、今は他のグレードに比べて歩留まりが悪いと思われる最先端品の歩留まり向上が来期、来々期に実現する可能性があります。このため、来期、来々期は比較的高い率の営業増益が実現する可能性があります。

 一方で、シリコーン(車載向け、化粧品向け、その他分野向け)、機能性化学品(医薬用、塗料用、建材用など)は不況の影響で今1Qは前年比、前期比ともに減益となりました。回復には時間がかかると思われます。

 電子・機能材料は、今1Qは希土類磁石の海外工場が新型コロナウイルス禍によるロックダウンの影響で不調でしたが、現在は回復中です。また、5ナノ向けEUV用フォトレジスト、先端向けマスクブランクスが好調で、今後のけん引役になると思われます。

 加工・商事・技術サービスは、信越ポリマーの半導体ウェハ関連容器がけん引役になっています。半導体設備投資が継続しているため、業績回復が期待できます。

表4 信越化学工業のセグメント別業績:四半期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:億円未満を切り捨てたため合計が合わない場合がある。

表5 信越化学工業のセグメント別業績:通期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券。
注:億円未満を切り捨てたため合計が合わない場合がある。

3)今期は業績横ばい、来期から回復を予想。目標株価を1万5,000円から1万8,000円に引き上げる。

 楽天証券では、セグメント別の業績予想を集計して、今期業績予想を売上高1兆5,400億円(前年比0.2%減)、営業利益4,070億円(前年比0.2%増)、来期予想を売上高1兆6,500億円(同7.1%増)、営業利益4,700億円(同15.5%増)としました。前回予想からは今期、来期ともに下方修正しますが、これは前回予想が楽観的過ぎたためです(今1Qの各セグメントの業績が私の予想以上に悪かった)。

 楽天証券の業績予想は下方修正しますが、今後6~12カ月間の目標株価は前回の1万5,000円から1万8,000円に引き上げます。2022年3月期楽天証券予想EPS 875.3円に想定PER20倍を当てはめました。シリコンウェハの最先端品の需要が好調で、今後は歩留まり改善が期待できること、塩ビ・化成品が巣ごもり需要によって回復していることを評価しました。

 中長期の投資妙味を感じます。

SUMCO

1)2020年12月期2Qは0.7%増収、16.0%営業減益

 SUMCOの2020年12月期2Q(2020年4-6月期)は、売上高748億9,800万円(前年比0.7%増)、営業利益115億2,600万円(同16.0%減)となりました。会社予想の売上高770億円、営業利益120億円は未達となりました。今1Q(2020年1-3月期)比較では若干の営業減益となりました。

 今2Qは、300ミリ、200ミリともに販売数量が今1Q比で回復しました。分野別にはメモリ向けが順調に伸びました。ロジック向けも伸びましたが、6月に大口顧客が米中摩擦を懸念してシリコンウェハの発注を一時的に抑制したことが業績にネガティブに響きました。ただし、7月以降はこのような発注調整はなくなり、逆に発注が急回復しているもようです。

 コスト面では、航空運賃の上昇、設備投資増加による減価償却費の増加がマイナス要因になりました。

表6 SUMCOの業績

株価 1,405円(2020/9/10)
発行済み株数 291,174千株
時価総額 409,099百万円(2020/9/10)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

2)長期契約価格は堅調だが、スポット価格が下げ止まらない

 価格は前述したように、300ミリの長期契約価格は前年比で数%上昇しており、200ミリは横ばいと思われます。

 ただし、スポット価格は300ミリ、200ミリともに今2Qも緩やかな下落が続いており、下げ止まる気配がありません。SUMCOは300ミリでは連結ベースで約20%、単独では約10%をスポット価格で販売しています。200ミリは連結で約50%をスポット価格で販売しています。特に、台湾プラスティックとの合弁会社「FORMOSA SUMCO TECHNOLOGY(FST)」(SUMCOが46%出資している連結子会社)はほぼ全量をスポット価格で販売しているため、信越化学よりもスポット市況の影響を受けやすくなっています。グラフ2のように、スポット価格の下落が続いているため、FSTの業績には伸びがありません。

 スポット価格が長期契約価格を下回っている現状では、長期契約比率を今以上に引き上げることは顧客にメリットがなく困難です。そのため、半導体シリコン事業でのSUMCOと信越化学工業との業績格差は今後も継続すると思われます。

グラフ2 FORMOSA SUMCO TECHNOLOGYの四半期業績

単位:1,000台湾ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

3)楽天証券業績予想を下方修正し、目標株価を引き下げる

 現状の需要動向、価格動向を元に、2020年12月期、2021年12月期の楽天証券業績予想を見直しました。2020年12月期は売上高3,000億円(前年比0.2%増)、営業利益400億円(同21.0%減)、2021年12月期は売上高3,300億円(同10.0%増)、営業利益480億円(同20.0%増)とします。

 前回予想では、今2Q(4-6月期)にスポット価格が底打ちし、その後緩やかに回復するとしましたが、今回予想ではスポット価格は今3Q(7-9月期)も緩やかに下がり、今4Qに前期比横ばいになると想定しました。

 シリコンウェハ需要は、最先端品が5G、テレワーク関連、データセンター関連の投資増加で順調に増加すると予想しますが、最先端品以外の汎用シリコンウェハの競争激化が業績のマイナス要因になる可能性があります。

 今後6~12カ月間の目標株価は、前回の2,300円を1,700円に引き下げます。楽天証券の2021年12月期EPS予想 112.0円に想定PER15倍を当てはめました。

 今3Qはスポット価格の下落、減価償却費の増加などによって今2Q比営業減益になると予想されます。四半期ベースの業績回復が確認されるまで株価の低迷が続く可能性があります。