永遠に失われた雇用

 ところが、経済再開を急ぎすぎたことが、米国のコロナ感染拡大を許したという報告がでています。計算によると、コロナ感染者一人が二人にウイルスをうつすと仮定した場合、等比数列にあてはめると、感染者(初項)が一人なら10期間の感染者は512人で済む。ところが感染者が3人いたなら同期間で感染者は1,536人まで一気に増える。米国の南西部の感染拡大は、感染者が十分に減らない段階で移動制限を解除したからだといわれています。一人がうつす数は同じでも結果に大きな違いが出たのです。

 コロナウイルスは、ソーシャルディスタンスの取り方が難しい業種、例えば飲食店やホテルなどのサービス業に集中してダメージを与えました。また小売業界では実店舗を次々と閉鎖して、オンラインショッピングへと構造転換を加速させています。これらの業種で失われた雇用のうちの1/4は「永久に戻ることがない」といわれています。

 コロナがきっかけとなって、雇用を増やす業種もなかにはありますが、既存の雇用体制が破壊されるスピードの方がはるかに速く大きいため、雇用全体が短期間で元通りの水準に戻ることはありえない。雇用のペースも今後は減速すると考えるべきでしょう。

雇用統計を評価するための「新基準」

 トランプ大統領は、先月行われた共和党全国党大会のスピーチにおいて、2期目の政策目標について、減税と「10カ月で1,000万人の雇用創出」を公約に掲げました。

 この数字は重要です。雇用者の水準はコロナ前に比べてまだ1,200万人超下回っていますが、トランプ大統領は、それを1年以内で元通りにすると宣言したわけです。

 10カ月で1,000万人ということは、1カ月平均100万人。これが、今後の雇用統計が良いか悪いかを判断する重要なベンチマークになるでしょう。非農業部門雇用者数がこれ以上増えていくなら雇用市場は順調。だめならドルに対する新たな圧力となるでしょう。