過去3カ月の推移と今回の予想値 

※矢印は、前月からの変化

7月雇用統計のレビュー

 先月発表された7月の米雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)は176.3万人増加、そして失業率は10.2%に低下しました。新型コロナ感染拡大で停止していた経済活動が継続的に再開していることで、レジャー・接客業、小売業やヘルスケアなど、幅広い部門において雇用の増加が見られました。また、平均労働賃金は前月比で0.2%増、前年比では4.8%増。ただしこの数カ月は特に低賃金の産業における雇用変動が激しく、傾向分析は困難な状況。

8月雇用統計の予想

 BLS(米労働省労働統計局)が9月4日に発表する最新の雇用統計は、失業率が9.8%までさらに低下、NFPは135万人増加という強気の予想がでています。

足りない!足りない!全然足りない!

 新型コロナウイルスによってアメリカ経済が停止状態に追い込まれた結果、同国の労働市場では、2月と3月だけで2,155万人もの雇用が失われました。しかし、もっと驚いたのは、そこからの回復の速さです。たった2カ月のうちに750万人も雇用が戻りました。

 この数字を見てトランプ大統領は大喜びしたでしょう。大統領選挙まであと4カ月。このまま月平均375万人のペースで雇用が増えてくれるなら、375万人掛ける4で1,500万人、それに750万人を足すと2,250万人。なんと、11月の大統領選挙までに、コロナで失われた雇用を全部取り戻すことがではないか! これは強力な選挙アピールになる、と。

 もちろん、それは捕らぬ狸の皮算用で、7月の雇用者数は176万人にとどまりました。これでも大幅増加には違いありませんが、いかんせん現時点では2月の水準をまだ1,200万人超下回っています。そして今回の予想は135万人。トランプ大統領としては「ダメだ!ダメだ! 経済を止めてなんかいられない!」と焦りがあったと思います。

永遠に失われた雇用

 ところが、経済再開を急ぎすぎたことが、米国のコロナ感染拡大を許したという報告がでています。計算によると、コロナ感染者一人が二人にウイルスをうつすと仮定した場合、等比数列にあてはめると、感染者(初項)が一人なら10期間の感染者は512人で済む。ところが感染者が3人いたなら同期間で感染者は1,536人まで一気に増える。米国の南西部の感染拡大は、感染者が十分に減らない段階で移動制限を解除したからだといわれています。一人がうつす数は同じでも結果に大きな違いが出たのです。

 コロナウイルスは、ソーシャルディスタンスの取り方が難しい業種、例えば飲食店やホテルなどのサービス業に集中してダメージを与えました。また小売業界では実店舗を次々と閉鎖して、オンラインショッピングへと構造転換を加速させています。これらの業種で失われた雇用のうちの1/4は「永久に戻ることがない」といわれています。

 コロナがきっかけとなって、雇用を増やす業種もなかにはありますが、既存の雇用体制が破壊されるスピードの方がはるかに速く大きいため、雇用全体が短期間で元通りの水準に戻ることはありえない。雇用のペースも今後は減速すると考えるべきでしょう。

雇用統計を評価するための「新基準」

 トランプ大統領は、先月行われた共和党全国党大会のスピーチにおいて、2期目の政策目標について、減税と「10カ月で1,000万人の雇用創出」を公約に掲げました。

 この数字は重要です。雇用者の水準はコロナ前に比べてまだ1,200万人超下回っていますが、トランプ大統領は、それを1年以内で元通りにすると宣言したわけです。

 10カ月で1,000万人ということは、1カ月平均100万人。これが、今後の雇用統計が良いか悪いかを判断する重要なベンチマークになるでしょう。非農業部門雇用者数がこれ以上増えていくなら雇用市場は順調。だめならドルに対する新たな圧力となるでしょう。