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確定拠出年金を扱う3原則
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

確定拠出年金を扱う3原則

2016/5/6
・対象者が広がる確定拠出年金
・3原則の説明
・確定拠出年金は、自分の運用全体の「一部」として扱う
・運用商品は、手数料が安くて「シンプル」な物を選ぶ
・典型的な個人のシンプルな運用設計
・その他の課題
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対象者が広がる確定拠出年金

 確定拠出年金は、徐々に普及が進んでいるが、また今通常国会で企業年金の加入者、公務員、主婦といった新たな層に対象者を広げる改正が通過する予定である。これで、60歳未満の日本国民の大半が制度上確定拠出年金との関わりを持てるようになる。

 筆者は、現在、確定拠出年金の解説書を執筆中だ(そろそろ出来上がる)。本稿では、この本の資産運用面での要点をご紹介しよう。

 運用以外の意思決定も含めて、確定拠出年金に関する判断の原則は、以下の3点に集約される。

①確定拠出年金は、可能な限り「大きく」使う、
②確定拠出年金は、自分の運用全体の「一部」として扱う、
③運用商品は、手数料が安くて「シンプル」な物を選ぶ、
の3つだ。

 個々に説明しよう。

 

3原則の説明

①確定拠出年金は、可能な限り「大きく」使う

 確定拠出年金は、掛け金の所得控除、運用途中の利益非課税といった税制上のメリットを持つ「有利な制度」だ。加えて、一般に老後の必要資金は確定拠出年金だけで形成できる額よりも大きいので、最大限に利用することが推奨される。

 確定拠出年金の「外」での運用よりも、確定拠出年金を使う運用の方が有利なのだから、こちらを最大限に使おう、という理屈だ。

 たとえば、入社した会社で確定拠出年金の利用額に選択権がある場合は、制度と経済的事情が許す範囲の「なるべく大きな額」でこれを利用することが合理的だ。

 また、現在もそうだし、また制度改正で対象者が広がるとなおのことそうなると思われるが、「個人型」の確定拠出年金制度が利用可能なのにこれを利用していない人が実に多く、これは「もったいない」。

 尚、税制優遇の対象となる掛け金の利用額について以上のようなことが言えるが、転職や会社の制度変更などで、利用する年金制度が変わる場合の年金の「移換」手続きは率直にいって複雑で分かりにくい。また、確定拠出年金の年金の受け取り方に関しても加入者本人の状況によって複雑な損得関係がある。

 これらについて、判断をしなければならない状況になった場合、加入者はその時々の制度を調べて損得を考えなければならないが、判断の大原則は、税制上有利な確定拠出年金の利用枠を、なるべく大きな金額、且つ長い期間利用することだ。

 たとえば、確定拠出年金は、掛け金が拠出できるのは60歳未満だが、受給は最長70歳到達時点まで延ばすことができ、この間は、「運用指図者」として、確定拠出年金口座内にある資産を運用し続けることができる(スイッチングが可能だ)。確定拠出年金の「外」に十分な運用資産がある人の場合、生活費等のために取り崩すのは、確定拠出年金の「中」よりも「外」を先にした方が得だという計算が成り立つ公算が大きい。

 確定拠出年金は、税制上のメリットを最大化するゲームなのだ。

 

②確定拠出年金は、自分の運用全体の「一部」として扱う

 さて、税制上のメリットを最大限に生かすためには、確定拠出年金だけでなく、自分の運用全体を最適化する中で、確定拠出年金を「自分の資産運用全体の一部」と位置づけて、ここに最適な資産の運用部分を「割り当てる」と考えたらいい。

 資産運用に対して感度のいいサラリーマンを仮定すると、確定拠出年金口座、NISA(少額投資非課税)口座、課税される通常の証券口座、それに銀行預金口座(普通預金に生活費と予備費があれば十分だ)の4種類くらいの口座を持っているはずだ。

 そこそこに潤沢な運用資産を持っている場合、彼(彼女)、(1)自分がどの程度リスクを取る運用を行うか、(2)そのために適切な資産配分、そして、(3)それぞれの資産をどの口座に割り当てるか、と考えると、最も効率の良い資産運用に割合簡単にたどり着くことができる。

 たとえば、確定拠出年金口座の中だけで運用方針を考え、投資対象を選ぶと、全体が最適になりにくい。個人にとって問題なのは、運用全体が上手くいくことだから、これは問題だ。

 ここで、確定拠出年金とNISAについて考慮すべき性質をまとめておくと、共に運用益が非課税になるメリットがあり、期待リターンが高い資産の運用に適しているが、確定拠出年金は運用対象に制約があるものの、スイッチングが可能なので柔軟性があり(換金して引き出せるわけではないので「流動性」と呼ぶのは違和感がある)、NISAは広い範囲から運用対象を選ぶことができるが、5年間の利用期間中に資産を売却すると税制優遇の対象から外れてしまう柔軟性の乏しさがある。

 先ず、期待リターンが高い資産の運用を行う場合、確定拠出年金もNISAも、課税口座での運用よりも有利になるので、「国内株式」、「外国株式」といった期待リターンの高い資産は、これらの口座に集中させることが最適となる。どちらも、バランス・ファンドが最適な運用選択肢になる可能性は乏しい。

 確定拠出年金には「ライフサイクル・ファンド」などと称するバランス・ファンドが用意されている場合があるが、避けた方がいい。

 次に、内外の株式のどちらを、どちらの口座に割り当てるかが問題となる。これは、個々の確定拠出年金で利用できる運用商品のラインナップを見ると決めることができるが、次の重要原則である「運用商品のコスト」を考慮して決めるといい(一般的な場合の結論は後述)。

 

③運用商品は、手数料が安くて「シンプル」な物を選ぶ

 運用商品の評価や選択を行う際には、株式や外国為替などの市場のリターン・リスクに対する評価と、運用商品の「実質的な手数料」に対する評価とを、分けて行うことが重要であり、運用商品そのものの評価は「後者のみ」によって決めることができる。

 これは有用且つ強力な原則だが、確定拠出年金の導入教育を金融機関系の講師に担当させると、とても教えてくれそうにない知恵だ。

 端的にいって、ほとんどの個人にとって、リスクを取る運用資産の対象は、実質手数料が低廉な、内外の株式のインデックス・ファンド2本で十分だ。「国内株式」はTOPIX、「外国株式」は先進国の株式ないし先進国を中心に全世界をカバーする株価指数に連動するものでいい。

 内外の株式の比率は、機関投資家が使う期待リターンとリスクを考えると「国内株式:外国株式=4:6」くらいが無難だが、大まかには、半々でも構わない。

 仮に、内外の株式に半々に投資するとして、リスク資産と無リスク資産の比率から自分の運用全体を考えるとするなら、確定拠出年金とNISAの口座には、前者に外国株式のインデックス・ファンド、後者に国内株式のETFを割り当てることが、税制上のメリットを最大化しながら、支払手数料を最小化する運用行動になる公算が大きい。

 現在、TOPIX連動型ETFの運用管理手数料は年間0.1%弱であり、外国株式インデックス・ファンドの最割安でも0.2%強よりも安いが、ETFはNISAでしか利用できないので、NISAにはTOPIX連動型ETFを置き、これに対するバランスを考慮すると、確定拠出年金では外国株式に連動するインデックス・ファンドを割り当てることが、最適な運用商品の持ち方になり易い。

 また、確定拠出年金の運用商品ラインナップの中で(特に意識の高い事務局を持つ企業の企業型の確定拠出年金の中で)、外国株式のインデックス・ファンドは市販のインデックス・ファンドよりも安い運用管理手数料のものがラインナップされている可能性が大きいことも、上記のパターンから考えてみるべき支援材料だ。

 尚、無リスク資産や国内債券に関しては、現在、個人にとっては、「個人向け国債変動金利10年型」が有利且つ無難な選択肢だ。確定拠出年金で、元本保証商品を持ったり、債券ファンドや、国内債券にも投資するバランス・ファンドを持ったりするのは最適ではない。

 

典型的な個人のシンプルな運用設計

 上記の②、③の原則をあわせて考えると、ある程度資産が潤沢な(確定拠出年金+NISAの利用限度額を超える資産を持つ)個人の資産運用の設計は、以下の図のようなものになる可能性が大きい。

(図)典型的個人のシンプルな運用設計

 

その他の課題

 確定拠出年金に関する意思決定の基本的な考え方は、本稿の3原則で網羅されていると筆者は考える。

 但し、現実には、企業により、運営管理機関の違いにより、商品ラインナップが大きく異なるので(「ダメ!」な場合もあれば、「素晴らしい!」場合もある)、それぞれに対する対応が必要であったり、各種の変化に対する対応が必要になったりする。

 「変化」の主なものは、「運用市場の状況変化」、「制度の変化」、「(運用)商品の変化」、「加入者自身の人生の変化」などだ。

 筆者個人は、過去に12回ほど転職しているので、大きなメリットの一つとしてポータビリティ(持ち運びの自由)がある確定拠出年金が利用できる現在の若い日本国民が羨ましい!

 せっかく有利な制度があるのだから、最適な利用を心がけてほしい。

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