本レポートに掲載した銘柄

ジーエス・ユアサ コーポレーション(6674)パナソニック(6752)ステラケミファ(4109)ダブル・スコープ(6619)ルネサス エレクトロニクス(6723)

 

2017年の注目テーマ:電気自動車

 

1.電気自動車と自動運転が巨大な自動車市場にインパクトを与える

 今回は、電気自動車について報告します。

 世界の新車販売台数は、リーマンショック後の2009年に大きく落ち込みましたが、その後順調に回復しています(グラフ1)。中国を中心にアジアが牽引し、アメリカがそれに続いています。2016年6月のブレグジット(イギリスの国民投票によりEU離脱派が多数を占めた)の後の欧州市場も堅調です。

 この結果、世界の新車販売台数(商用車を含む)は2009年の6,559万台から2015年には8,968万台へ、9,000万台に迫る状態になってきました。このペースで伸びると、あと5~6年で世界の新車販売台数は1億台の大台に乗せそうです。

 自動車ビジネスは世界的規模のビッグビジネスです。新車価格を1台平均100万円以上とすると、100兆円以上のビジネスということになります。また、自動車部品の市場も大きく、仮に1台に付き10万円の新部品・装置を100万台に装着すると1,000億円のビジネスになります。「安全」を常に考えなければならないリスクもありますが、裏返せば様々なビジネスチャンスが大きい市場です。安全と信用が重要であるため、どちらかといえば大企業に向いたビジネスですが、最近では電気自動車と自動運転の分野でベンチャー企業の活躍も目立つようになりました。

 この自動車ビジネスの新陳代謝が、これから加速する可能性があります。キーワードは自動運転と電気自動車です。自動運転については、楽天証券投資Weekly10月14日号で報告しましたが、これまで人間が自分の技量を使って運転しなければならなかった車を、人工知能とネットワークが動かす時代が到来しようとしています。

 環境面では電気自動車が革命を引き起こすと思われます。排気ガスを全く出さない電気自動車を普及させるための制度が、アメリカ、欧州、中国で導入されつつあります。

グラフ1 世界の新車販売台数

(単位:万台、暦年、出所:OICA(国際自動車工業会)より楽天証券作成、商用車を含む)

 

2.世界の環境規制が電気自動車の普及を後押しする

・注目される電気自動車

 電気自動車のブームは過去に何回かありました。最近の大きなブームは2009年発売の三菱自動車工業の「iMiEV」(アイ・ミーブ、2009年7月から法人向け発売、2010年4月から個人向け発売)と2010年12月発売の日産自動車の「リーフ」の2車種を中心としたブームです。この2車種とも、それまでの電気自動車に比べて航続距離が長く(といってもiMiEVで100km前後、リーフで200km前後)、居住性が改善し、かつ国の補助金によって個人でも手の届く価格になりました。折からの世界的な環境ブームによって、株式市場でも関連銘柄が注目されました。

 しかし、このブームは長続きしませんでした。iMiEVもリーフも内燃機関に比べれば航続距離が短く、タウンカーとしては使えても長距離ドライブは無理でした。また、日本政府も電気自動車の購入を補助金でサポートはしましたが、普及に向けた強い規制を導入するところまでは至りませんでした。もともと諸外国に比べて自動車の排ガス規制が厳しく、ガソリン代も高く、トヨタ自動車などの努力によってハイブリッドカーが普及している日本では、もう一歩踏み込んだ電気自動車普及策は難しかったと思われます。

 ただし、iMiEV、リーフの発売以降、電気自動車への参入企業が多くなりました。1社当たりの年間販売台数は多くはないもの、表1のように、合計すると電気自動車とPHVの販売は毎年伸びています。伸びなくなったHV販売と対照的です。

 そして、今再び電気自動車が注目されています。理由の一つは海外での環境規制です。

(注:本稿では、ハイブリッドカーをHV、プラグインハイブリッドカーをPHV、電気自動車をEVとします。)

表1 EV/PHVの世界販売実績

表2 HVの世界販売実績

・2018年にZEV規制が強化される

 まず、アメリカの燃費規制です。アメリカには連邦政府のCAFE(カフェ)規制があります。自動車メーカーが販売した車の加重平均燃費を一定の水準以下にするものです。古くからある規制ですが、アメリカ政府が2012年に導入した規制では、2025年までにアメリカ国内で販売する乗用車とライトトラック(SUV、ピックアップトラック)の燃費を平均23.2km/ℓにするという内容です。現在の約12km/ℓから約2倍に燃費を引き上げるというものです。この規制は、アメリカでライトトラックのブームが起きたためオバマ政権下でより強化されるはずでしたが、トランプ新政権がどう対応するのかは不透明です(アメリカの自動車メーカーはCAFE規制強化に反対の立場です)。

 一方で、ZEV規制(Zero Emission Vihicle、排ガスゼロ車規制)があります。カリフォルニア州が最初に導入した規制で、今は同州を含む全米10州がこの規制を州の規制として採用しています。今の規制内容は、2012年現在カリフォルニア州で年間6万台以上販売するメーカー6社(GM、フォード、クライスラー、トヨタ、ホンダ、日産)が対象となり、一定数量の排ガスゼロ車(ZEV)を販売しなければならないというものです。ZEV販売台数が目標未達となると、排ガスの排出権(クレジット)を他社から購入しなければなりません。ちなみに、このクレジット販売で収入を得ている会社の1社がテスラモーターズです。

 また、ZEV(排ガスゼロ車)と認められる車種は、2018年以降は電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッドカー(PHV)の3車種となり、これまで認められてきたハイブリッドカー(HV)は対象からはずされることになりました。2018年以降は、ZEV規制対象の自動車メーカーの要件も引き下げられ(年間販売台数の基準が2万台以上になる)、日本メーカーではマツダ、富士重工業が対象になると思われます。

 このように、カリフォルニア州など10州は、環境対策のためにより抜本的に排ガスゼロ車の普及を追及するようになって来ました。自動車メーカーは、実際に消費者に売れるEVなどの排ガスゼロ車を作らなければならなくなったのです。

グラフ2 ZEV規制における排ガスゼロ車販売比率

(単位:%、各種資料より楽天証券作成、MYはモデルイヤー(2018年MYなら2017年秋頃からの1年間がモデルイヤーになる))

・欧州と中国の環境政策も排ガスゼロ車普及を後押しへ

 EUは、これまでも他の国、地域に比べて厳しい排ガス規制、CO2排出規制を行ってきました。ところが、規制が厳しい割には大気汚染は改善されていません。2015年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正事件のように、自動車メーカーが規制をかいくぐるケースが広範囲に存在する可能性があります。

 一方で、自動車に対する規制そのものは厳しくなっており、2021年までに走行距離1キロメートル当たりの平均CO2排出量を2015年比30%減の95グラムにする規制がかけられています。欧州議会では更に厳しい規制も検討されており、規制逃れに対しても厳しくなっているようです。

 更に、報道によればドイツ連邦参議院(上院)は2030年までにガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの販売を禁止することを決めた模様です。実際には連邦議会(下院)で法案を通す必要があるため実現は不透明ですが、政治の厳しい姿勢が見えます。

 また中国では、2014~2015年から「新エネルギー車」(EV、PHV)の普及を政策的に後押ししています。中身は消費者に対する購入補助金、2015年10月から始まった電池メーカーに対する補助金、充電所の増加などです。この「新エネルギー車」普及政策は2016年から更に強化されており、中国では他の国よりもテスラ車が安く買えるようになっています。補助金を巡る不正事件も起きていますが、中国政府は今のところ新エネルギー車への支援を止めるつもりはない模様です。

 このような欧州での排ガス規制強化と中国での新エネルギー車普及政策が、フォルクスワーゲン(VW)などの欧州メーカーのEVシフトの刺激材料となっています。欧州の自動車メーカーにとっては、欧州と並んで中国は重要な市場だからです。例えば、VWは2025年にVWブランドのEV販売台数を100万台にすることを目標にしています。各社とも、2016年に将来のEVのコンセプトモデルを発表しており、開発競争が激しくなっています。

 私見ですが、欧米の規制当局は内燃機関を信用しなくなったのかもしれません。規制逃れをされては環境に対する効果はありませんし、例えば欧州で普及しているディーゼル車の排ガスをきれいにすることは根本的に出来ないと規制当局が考えているのかもしれません。それならば、非常に厳しいCO2排出規制をかけて、内燃機関を使わない電気自動車を自動車メーカーに開発させ、普及させたほうが、環境に対して大きなプラスの影響が出ると考えているのではないでしょうか。

 このような海外での環境規制の強化とEV普及策が奏効し、環境に対してプラスの効果が眼に見えるようになれば、EVの普及が更に加速する可能性があります。

 ちなみに、日本では環境規制と自動車メーカーの地道な努力があいまって、ガソリン車、ディーゼル車を問わず自動車の燃費が改善し排ガスもきれいになっています。そのため、日本での環境規制の方向性と欧米の動きは異なります。例えば、日本の自動車メーカーも規制当局もHVの普及に熱心ですが、海外の規制当局は、トヨタ自動車と本田技研工業しか十分な台数を販売できないHVの普及を促進しようとはしていません。

グラフ3 中国の新エネルギー車販売台数

(単位:台、出所:中国汽車工業協会より楽天証券作成、一部推定を含む)

・EVが普及するのは、電源が十分にある国

 ただし、全ての国でEVが普及するとは考えられません。EVが普及する条件は、電源が十分あることです。要するに、日本、アメリカ、欧州や、新興国では中国のように発電所の整備が進んだ国です。逆に、発電所が足りず停電がよく起こる国でEVを増やしても、総合的に考えてプラスにはならないと思われます。

 また、電気は蓄電して保存しにくいことが弱点です。この点では、保存し易くインフラ(製油所やガソリンスタンド)が各国で整備されているガソリンや軽油に優位性があります。更に、車は嗜好性の強い耐久消費財でもあります。そのため、向こう数十年間で自動車に占めるEVの比率は急速に上昇すると思われますが、内燃機関搭載車はなくならないと思われます。トヨタのHVやマツダのスカイアクティブのような超低燃費車の市場は存在し続けると思われます。

 

3.リチウムイオン電池の技術革新で航続距離500km以上が視野に

・「300kmの壁」は克服されつつある

 電気自動車のブームが再来している背景には、規制強化、促進策強化とともに、リチウムイオン電池の技術革新があります。日産のリーフの今の航続距離は電池と制御システムの改良を重ねた結果、スペック上は280kmになっています。

 更に、電気自動車メーカーとリチウムイオン電池メーカーの間で言われてきた航続距離「300kmの壁」が克服されようとしています。主要なリチウムイオン電池メーカーでは目処がついた模様です。既にBMWのEV「i3」は航続距離390kmを達成しています。GMの新型EV「シボレー・ボルトEV」やテスラが2017年に発売する予定の「モデル3」も航続距離300km以上です。

・次は「500kmの壁」

 EVの航続距離が500kmを超えると、長距離クルージングができるようになり、頻繁に充電する必要もなくなるため、普及に向けて大きく前進すると思われます。

 ジーエス・ユアサ コーポレーション(GSユアサ)では、世界最大の自動車部品メーカーであるボッシュ、三菱商事との合弁会社「リチウムエナジーアンドパワー」で、従来の2倍の電池容量(航続距離約600km)で価格を据え置いた新型リチウムイオン電池の開発を進めています。そして、内外の自動車メーカーに対してこの新型電池の提案活動を行っている模様です。パナソニックなどの他のリチウムイオン電池メーカーも同様の開発を行っていると思われます。

 技術の流れを大まかに見ると、HV(ハイブリッドカー)に外部からの充電口をつけて電池容量を大きくするとPHV(プラグインハイブリッドカー)になります。PHVからエンジンを取り外して、電池を多く積めばEV(電気自動車)になります。そして、開発、生産の難易度は、HV→PHV→EVと相対的に下がります。もちろん人を乗せる車は、基本的に作るのも売るのも難しいですが、電気自動車は作る難易度が相対的に高くないのです。

 そのため、EVは普及期に入って量産できるようになると、電池のコストと車両価格が急速に下がると思われます(今は車両価格の半分が電池のコストと言われています)。そうなれば、価格低下が普及を促進する好循環が期待できるようになるでしょう。

・車載用全固体電池は2025年以降か

 車載用リチウムイオン電池メーカーの多くは、全固体電池を開発中と思われます。部材メーカーの多くも全固体電池の材料を開発中と思われます。全固体電池は、電解液が液体ではなく固体の電池で、爆発炎上の危険が少なく、小型化、大容量化が可能になります。リチウムイオン電池の全固体電池はGSユアサが特殊用途向けに少量生産していますが、本格的な実用化、普及はまだです。車載用に全固体電池が実用化されるのは、実現したとしても2025年以降になってからと思われます。

 また、今のリチウムイオン電池はコストが高いため、より安価な材料を使った新型電池(リチウム硫黄電池、マグネシウム電池など)の開発も活発です。

 電池用部材の観点から見ると、正極材、負極材、電解液(電解質)は全固体電池でも必要ですが、セパレーターは全固体電池では必要なくなります。また、正極材、負極材、電解質も、素材が変わる可能性があります。電池の新規参入も増えると思われます(例えば、ソニー電池部門を買収した村田製作所が、将来、車載用電池に全固体電池で参入する可能性がないわけではない)。その意味で、全固体電池は電池メーカー、部材メーカーにとってチャンスでもありリスクでもあります。

 

4.電気自動車と自動運転との関わり

 電気自動車は、自動運転とも密接に絡みます。電気自動車は全ての制御を半導体、ソフトウェアとモーターによる電動で行います。油圧は基本的に使いません。また、電気自動車で予想される「節目」と自動運転の「節目」がほぼ一致します。

 例えば、電気自動車が「300kmの壁」を突破しつつある2016~2017年は自動運転レベル1(ADAS(高度運転支援システム)と自動ブレーキ)の普及期であり、レベル2(車が複数の動作を自動で行う。ドライバーが必要)の導入期です。電気自動車の「500kmの壁」が突破される可能性がある2020~2021年は自動運転レベル3(完全自動運転だが、緊急時はドライバーが対応)の普及期でレベル4(ドライバーが必要ない完全自動運転)が実車に搭載される時期です。

 このように見ると、電気自動車と自動運転は、相互に消費者の関心を惹くことが出来ると思われます。

 

5.電気自動車関連企業

・完成車メーカーの動き

 EVメーカーとして成功しつつあるのが、テスラモーターズです。2016年7-9月期は出荷台数が大幅に伸びた結果、黒字転換しました。最初のEVをスポーティカーとし(モデルS、価格は818~1,400万円)、新しいものが好きな富裕層に顧客層を絞りましたが、2017年から普及価格帯のセダン(モデル3、410万円以上)を投入することで顧客層を広げようとしています。また、パナソニックと共同でリチウムイオン電池の大規模生産工場「ギガファクトリー」を立ち上げている最中です。EVの動向を見るときにはテスラモーターズは重要です。

 日系完成車メーカーではトヨタ自動車グループのEVチームが話題になっています。2020年頃に電気自動車に参入する計画です。当面は、2017年初頭に日本から順次発売される「プリウスPHV」の売れ行きを見たいと思います。

 富士重工業は、2018年にアメリカでトヨタの技術を導入してPHV車を発売する計画です。2021年には自社開発のEVもアメリカに投入する計画です。

 マツダは、2019年3月期に自社開発のEVをアメリカで発売する計画です。富士重工業のPHV、マツダのEVはともにZEV規制への対応です。

 トヨタ、富士重工業、マツダとも車作りの上手な会社なので、どのようなEVを発売するのか注目されます。特に、日系としてはいち早く2019年3月期にEVを発売する計画のマツダが注目されます。

グラフ4 テスラモーターズの業績

(単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ5 テスラモーターズのEV出荷台数

(単位:台、出所:会社資料より楽天証券作成)

リチウムイオン電池メーカーと部材メーカー

 EVで最も重要なのは電池です。2025年頃までは今のリチウムイオン電池の高性能型が普及し、その後全固体電池が少しずつ車載用電池市場に登場する可能性があります。日本はEVの完成車では今回のブームに出遅れた感が否めませんが、リチウムイオン電池とその部材では先行しています。

 リチウムイオン電池の構造は図1、主要な関連メーカーは表3,4のようになります。

図1 リチウムイオン電池の仕組み

出所:楽天証券作成

表3 車載用リチウムイオン電池メーカー(主要企業のみ)

表4 リチウムイオン電池用部材(主要企業のみ)

・EVは2020年代に普及期に入る可能性がある

 EVの市場予測が表5、車載用リチウムイオン電池の市場予測がグラフ6です。表5では、2035年にEVの世界市場が500万台を超えると予想されていますが、2020~2021年にEVの「500kmの壁」が克服されて、EVが普及期に入ると、2025年頃に世界のEV販売台数が400~500万台以上になる可能性があります。

表5 HV・PHV・EVの世界市場予測

グラフ6 車載用リチウム電池の世界市場予測

(単位:MWh、出所:矢野経済研究所プレスリリース2016年10月17日より楽天証券作成)

 

6.主な関連銘柄

・ジーエス・ユアサ コーポレーション(GSユアサ)

 世界第2位の車載用産業用電池メーカーです。日系、海外系を問わず、多くの自動車メーカーとの取引があります。

 GSユアサはHV、PHV、EV用のリチウムイオン電池を、動力用、アイドリングストップ用を含めて、幅広く生産販売しています。公表している顧客は、三菱自動車工業、本田技研工業、プジョー・シトロエン(PSA)ですが、それ以外に欧州メーカー数社に出荷しています。

 車載用リチウム電池事業は、売上高増加と生産合理化に伴って損益が改善してきました。部門損益は、2016年3月期売上高383億円、営業赤字6億円から、2017年3月期会社予想では売上高430億円、営業利益5億円が見込まれます。車載用リチウム電池事業が初めて黒字転換する見込みです。従って今後、全社業績に対して車載用リチウムイオン電池事業の貢献度が大きくなる可能性があります。

 また、前述のように、ボッシュとの合弁会社で航続距離600kmが可能になる新型リチウムイオン電池を開発中です。

 今期の全社業績は、ほぼ横ばいの見込みですが、車載用リチウムイオン電池事業の将来を考えると、中長期投資の妙味があると思われます。

・パナソニック

 買収した旧三洋電機時代からテスラモーターズ向けにリチウムイオン電池を供給しています。テスラと共同でリチウムイオン電池の大規模工場「ギガファクトリー」を建設中です。ギガファクトリー中心に車載用電池への投資が先行しています。

 車載用電池の売り上げは順調ですが、民生用は不調です。ギガファクトリーへの投資負担もあります。そのため、二次電池部門(二次電池事業部+テスラビジネスユニット)の今期会社見通しは売上高3,338億円、営業赤字15億円です(2016年3月期は売上高3,528億円、営業利益1億円)。

 ギガファクトリーで生産する電池は、テスラ用だけでなく、外販も目論んでいるため、黒字化は多少時間がかかる可能性がありますが、テスラとの提携は評価してよいと思われます。これはGSユアサに注目する理由でもありますが、電気自動車の普及に伴って車載用リチウムイオン電池の需要は趨勢的に増えると思われます。中長期投資の妙味があると思われます。

・ステラケミファ

 リチウムイオン電池に使う電解液(6フッ化リン酸リチウム)と添加剤の大手メーカーです。6フッ化リン酸リチウムは需要は増えていますが、市況変動も激しいため、添加剤(正極材の消耗を和らげる)に注力しています。将来は添加剤を電池向け事業の主力にしたいというのが会社側の目論見です。

 半導体、液晶向けのウェハ洗浄液も製造販売しています。

 上期営業利益は19億8,500万円(前年比5.3倍)でした。リチウムイオン電池向け電解液と添加剤が好調でした。下期会社予想営業利益は11億7,400万円(前年比15.8%増)ですが、リチウムイオン電池向け電解液の市況が会社想定ほど軟化しておらず、需要が堅調に推移している模様です。中国の新エネルギー車ブームが続いているためと思われます。

 原料の無水フッ素を輸入しているため円安デメリットが発生していますが、通期業績見通しは会社予想に対して5~10億円程度上乗せになる可能性があります。また、来期以降はリチウムイオン電池向け添加剤の収益寄与が大きくなると思われます。

 中長期投資の妙味があると思われます。

・ダブル・スコープ

 リチウムイオン電池に使う湿式セパレーターの専業メーカーです。セパレーターには湿式と乾式がありますが、湿式は技術的な難易度が高い半面、高出力の車載用電池に向いています。当社は更に湿式セパレーターにコーティングを施して強度を上げています。

 大手顧客はLG化学ですが、同社以外にも幅広い顧客層を持っています。売上高の約65%が民生用リチウムイオン電池向け、約35%が同じく車載用向けですが、中国では車載用向けが多く、第2位顧客のXuran(シュラン、代理店)の約80%が車載用向けです。

 旺盛な需要を受けて工場の増設を続けています。2016年12月期会社予想業績は売上高90億円(前年比20.8%増)、営業利益23億円(16.0%増)です。11月に売上高100億円、営業利益26億円から下方修正しましたが、これは増設ラインに技術的問題が生じたためです。この技術的問題は解決のめどが立っています。このため、2017年12月期も二桁増収増益が期待できそうです。

 問題点は、前述したように、車載用電池が将来全固体電池になるとセパレーターが必要なくなるということです。ただし、全固体電池が車載用に普及するのは、実現したとしても10年以上先のこととなると思われます。また、会社側ではセパレーターのもとになっている「膜」技術を医療用や水処理用への応用を模索しています。

 リチウムイオン電池用部材のメーカーは大手化学メーカーが多く、この分野だけが業績と株価に反映されるわけではありません。その点では、ダブル・スコープは専業なので投資するときにわかりやすい会社であると言えます。投資妙味を感じます。

・ルネサス エレクトロニクス

 電気自動車は電子部品、半導体、モーターの固まりになると思われます。HVのプリウスから、燃費を最大にするために車のシステム全体をファインチューニングする必要があるため、徹底的な電動化が行われてきました。そして、EVの本格普及が進むであろう2020~2025年は、自動運転レベル3(緊急時に運転手が必要な完全自動運転)、レベル4(運転手は必要ない完全自動運転)の本格普及期でもあり、この電動化の傾向が続くと思われます。電気自動車の時代では車は人を乗せたロボットに近付くということです。

 こうなると、電子部品、半導体の搭載数量はより一層多くなると思われます。ちなみに、電子回路に多用される電子部品であるチップ積層セラミックコンデンサ(最大手は村田製作所)を例に取ると、内燃機関搭載車に対して電気自動車は5倍以上の個数が搭載されます。各種の制御用半導体も、このようにより多く搭載されると考えておいたほうがよいと思われます。

 従って、ルネサス エレクトロニクスの事業は、受注トレンドや為替レートによる波はあっても、趨勢的な拡大が続くと考えてよいと思われます。