ETFカンファレンス2015

来る11月7日(土曜日)に、弊社主催の「楽天証券ETFカンファレンス2015」が開催される。このイベントへのお申し込みは、会場の定員の2倍以上に及び、少なからぬ応募者にご臨席頂けない事態となった。ETFへの投資家の皆様のご関心が弊社の予想を上回るものであったことに驚くと共に、まことに申し訳ない思いだ。

さて、筆者は、このイベントに登壇してお話をさせて頂く予定だ。お申し込みを頂いたにも関わらずご出席頂けない方のために、また、全国の「合理的な投資」の理解と実行を目指す投資家の皆様のために、当日、筆者が何を話そうとしているのかをご説明したい。加えて、当イベントにご出席頂ける皆様の予習・復習のお役に立ちたい。

  • ETFは「いい・手数料の・ファンド」!

さて、筆者は360度どこから見ても「いい年のオヤジ」なので、冒頭を駄洒落で始めることを許して頂こう。

「皆さん、“ETF”とはどんな意味だと思われますか? これは、決して『イージーに、トレードする、ファンド』ではなく、『いい、手数料の、ファンド』だとご理解頂きたいと思います」が挨拶の後の第一声の予定だ。ETFは、長期的な資産形成のための安価で優秀な部品として使える。

筆者の話は二部構成で、第一部のタイトルは「運用商品としてのETF」だ。

ここで、ETFの手数料削減効果を端的に表現するために、あるラップ型(を標榜する)バランス・ファンド(「積極型」)を、約2年前の2013年10月末のデータに基づいて、それぞれ5銘柄で、先ずリテールで販売されている投信を用いて、次にETFを使って、そのパフォーマンスをコピーする事を目的として作成したポートフォリオのリターンの推移を見て頂く(図1)。

この分析は、(株)金融データソリューションズの「投資信託のリスクモデル」(まだ商品名は無いが、投信単独ないしは投信のポートフォリオを分析・構築するツールで、元データは(株)野村総合研究所のものを使用している)。

グラフをご覧頂くとお分かり頂けるように、「某ラップ・ファンド」とこれをターゲットに2年前のデータで作成した投信及びETFで構成した手数料抜きのポートフォリオの価値の推移は、区別が難しいくらい一致して動いている。

(図1)

ETF5銘柄によるポートフォリオは図2の通りだ。

(図2)

図1の結果は、手数料抜きのポートフォリオの時価推移だが、プロダクトとしては、それぞれ手数料が異なる。某ラップ・ファンドとETFポートフォリオの信託報酬を比較したのが図3だ(実際には投信の販売手数料やETFの売買手数料も比較する必要があり、差はもっと開く)。

(図3)

ETFは便利で優秀な「運用の部品」であり、確実なマイナス・リターンである手数料の差が決定的なものであることが分かる。

例えば、「ファンド・ラップ」などと称するラップ口座の運用(決してお勧めしないが)で、ETF以外の高コストな投信を組み入れられている場合、あなたは手数料稼ぎの犠牲者である可能性が高い。さっさと解約して、自分でETF運用するといい。

運用商品評価の基本原理

投資信託も含めて、運用商品のリターンは、図4のように分解できる。例えば、国内株式の運用であれば、株式市場全体のリターン、運用のスキルに基づくリターン、そして手数料だ。

同一カテゴリーの商品を比較する場合、市場のリターンは共通で、運用スキルの良し悪しは「事前には評価できない」から、結局、商品間の優劣を決定するものは、手数料コストだ。同一カテゴリー内で手数料コストが高い運用商品には「出る幕がない」。商品選択に当たっては、手数料コストを先に考えるべきであり、すると「投資信託の99%は、はじめから検討に値しない」ことが分かる。

以上は、金融機関による投資教育では教えてくれないが、動かしがたい事実で且つ重要だ。

(図4)

相対的にコストが安く、特に信託報酬率が決定的に低い点に於いて、ETFには優位性がある。

ETFを巡る商品情勢の変化

ここのところ、個人投資家にとっての運用商品を評価する上での変化として、国内上場の外国株式ETFが投資適格な対象になった印象を持つ。

資産残高が増え、指数とのトラッキングを見ても運用が安定して来た。

たとえば、先進国の株式に投資する「上場インデックスファンド海外先進国株式 」(コード番号1680)は、純資産額が100億円に乗り、指数との乖離度合いが安定してきた。信託報酬が0.25%(税抜き)と低水準であることを考え、売買コストを考えると、十分、海外上場のETFに対抗しうる投資の選択肢になったと考える。資金サイズや目指すポートフォリオによって多少の差が生じるが、多くの個人投資家にとって、現在最適な外国株運用の選択肢になったのではないか。

同ファンドは運用に株価指数先物を利用しているが、外国株式の配当に対する課税の問題などを考えると、先物運用にも長所がある。この点は、水瀬ケンイチ氏との共著「全面改定ほったらかし投資術」執筆の際に、日興アセットマネジメント社の今井ETFセンター長に伺ったお話が参考になった(結果的に説得された)。

一方、ETFに直接関わる話ではないが、同じく信託報酬が低コストなDC専用ファンド、具体的には「三井住友・DC全海外株式インデックスファンド」が一般投資家向けに販売されるようになった(11月4日より、積み立て以外に、ワンショットでも購入できるようになった)。同ファンドも税抜きの信託報酬は0.25%である。

ETFにとっても強力なライバルが登場したということであり、投資家の立場としては、今後、もう一段の手数料引き下げ競争が起こることを期待したい。年金運用等の手数料率を考えると、まだ引き下げの余地があるように思う。

尚、外国株式のインデックスファンドについて検討してあらためて思ったが、外国株式の配当課税に関わる手続きと損得は極めて複雑だ。この点に関しては、情報提供、サービス共に、運用会社にも証券会社にもビジネス的検討の余地があるように感ずる。

個人の金融資産運用のポイント

第二部は「ETFを活用する個人の金融資産運用法」を取り上げる。

個人の金融資産運用で大事なポイントとして、

  • 投資家のタイプ(年齢・投資経験等)、資金使途にこだわらない方がいいこと、
  • リスクは商品種類ではなくリスク資産への投資額で調整すべきこと、
  • 自分の運用資産の「合計」を最適化するよう考えるべきこと、
  • 適切な場所(口座)に運用商品を割り当てるべきこと、

の4点を挙げた。

投資家のタイプ別に適した運用商品があるという「金融業界の作り話」に引っ掛からずに、商品の種類ではなく、リスク資産に投資する金額を自分でコントロールすることによって、運用を行うのが合理的だ。

また、DC(確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)は利用すべき制度だが、それぞれを単独で考えるのではなく、自分の資産運用の「合計」を最適化する中で、どの部分を割り当てたらいいかと考えると、最適な運用の答えが出る。

この問題は、年金基金が複数の運用機関をどのように使って運用を最適化するかを考える「マネージャー・ストラクチャー」と呼ばれる問題と共通だ。

超低金利時代の個人資産運用

さて、現在の個人資産運用を考える上で、長期金利が殆ど下がりきっていて、追加的下げ余地が小さい一方で、将来には上昇リスク(債券価格下落リスク)があり、株式と債券の分散投資が旧来のような関係では働かないことが重要だ。

巷の運用解説本では、過去のデータを将来に単純延長して当てはめて、「株式と債券(外債を含む)を組み合わせて運用したら,こんな風にうまく行きました。これからも、うまく行くでしょう…」というロジックのものがしばしばあるが、これは適切ではない(ダメ本を見分ける1つのポイントだ)。

政府の中長期の経済見通しでは、長期金利は上昇が想定されている(図5)。

(図5)

今回、現金を含む「国内債券」部分は、「個人向け国債・変動金利10年満期型」で考えることにした。金利上昇リスクに強い「国債暴落に強い、国債」である。現実的な選択だと思う。

ここで紹介する運用計画は、将来、長期金利が2%を超えたくらいから、変更を考えるのがいいと思うが、当面は適切なやり方ではないだろうか。

個人の運用簡便法

個人の運用プロセスを簡単に図解したのが図6だ。

(図6)

リスク資産への投資額の決め方は、「『最悪の場合1年後に3分の1損するかも知れないけれども、最高の場合4割くらい儲かって、平均は5%くらいの利回りのモノ』にいくら投資するか?を決める」方法を説明する。

損失の許容額がイメージしにくい場合、65歳から95歳までの30年間の月数である「360」で損失額を割り算し、老後の生活費に換算するといい。例えば、360万円損をするということは、老後に毎月取り崩すことが出来る生活費が1万円減るということだ。3600万円なら、月当たり10万円である。具体的なイメージとして、考えやすくなるのではないだろうか。

個人のポートフォリオ例

手元で利用可能なデータ(主に過去10年分、データ出所はBloomberg)で、ポートフォリオの最適化計算をしてみた(図7)。期待リターンは、筆者が鉛筆を舐めて(?)仮置きしたものだ。

期待リターンの判断には、機関投資家の運用計画などを参考にしているが、国内株式と外国株式(先進国)は共に5%としたが、外国株式のリターンをもう少し高めてもいいかも知れない。東証REITは国内株式よりも0.5%下、新興国株式は先進国株式の1.5%上と置いてみた。

計算結果は「このくらいの期待リターンだと、こんなバランスになるのか」といった感覚で見て頂けたらと思う。

(図7)

数字を丸めたリスク資産部分だけのリスクとリターンを計算したのが、(図8)だ。「このリスク資産の組み合わせと、個人向け国債を組み合わせて、長期投資は一丁上がり!」というのが、今回の筆者の提案だ。

(図8)

新興国株式や東証REITは無理に入れなくてもいいような気もするが、せっかくのETFカンファレンスなので、少し賑やかなポートフォリオを作ってみた。

自分で作ってみて、「証券会社が儲からないポートフォリオ」であることに愕然とするが、反面、「何と潔いことか!」と自賛したい気持ちにもなる。

レバレッジETFと長期投資

ところで、現在、ETFというとレバレッジ型のETFが人気だ。ETFカンファレンスの聴衆の中にも、レバレッジ型ETFの話を聞きたい方がいらっしゃるだろう。

あるいは、ここまでの筆者の話を聞いて、「ヤマザキは、レバレッジETFが嫌いなのだな」と思う方がいるかもしれないが、結論から言うと「嫌っているわけではない」ので、レバレッジETFのファンは安心して欲しい。

レバレッジ型ETFは、例えば、かなりの資金力のある投資家がNISAの節税枠を実質的に倍増させるための手段として、長期投資に利用することが出来る。

また、若くて健康で高収入な(つまり潤沢な「人的資本」がある)人が、十分な金融資産を持っていない場合に、資産運用で大きなリスクを取る手段として活用することが合理的になる可能性も排除できない。

但し、レバレッジETFを長期運用に使うには、かなりの経済力と精神力が必要だろうから、「普通の人にはお勧めしない」と申し上げておく。

ETFに今後期待すること

最後に、ETFに今後期待することを幾つか述べたい。

1つは、アクティブ運用のETFの本格的登場を期待する。いわゆる「スマート・ベータ」的なシステマティックなクオンツ(数量分析)運用にも開発余地があるだろうし、人間が判断するアクティブ運用であってもETF化できるはずだ。JPX日経400のパフォーマンスは、ここのところ予想通りぱっとしないようだが、開発するなら、もっとましなものをと申し上げておく。

普通のリテール向けのアクティブ運用の投資信託の手数料を引き下げるか、手数料の安いアクティブファンドを出すかした場合に、既存の高手数料の商品から資金がシフトする可能性があるが、ETFなら既存商品を喰う程度が軽いかも知れない。

一方、TOPIX連動型のように手数料引き下げが限界近くに来ているかと思われるカテゴリーもあるが、まだ多くの分野のETFで手数料には引き下げ余地があるように思う。DC向けから、リテール向けに転用される低コストファンドとの競争もある。手数料引き下げ競争の一段の進展を期待したい。

もう一つ地味だが気になる課題としては、海外ETFを含めて、外国株式に投資するETFの配当に関わる課税関係の情報提供(年率コストに換算してどの程度損をしているのだろうか、等)と、投資家の還付請求を助けるサービスには、改善の余地がありそうだ。

他方、投資家自身と、投資家に接する業界の課題として、長期投資に適した商品としてのETFの認知拡大に向けた努力をする必要があるだろう。

以上が、当日話したいことのあらましだ。

持ち時間が余った場合は、筆者も証券マンの端くれなので、相場の見通しでも語るつもりだが、これは「証券マンの語る相場観など全くアテにならないので、頼りにしないで下さい」と前口上を述べてから、話すのでなければならない。