知っておきたい銀行との正しい付き合い方

講演、原稿、大学の授業などで、筆者は「銀行」について語る事がしばしばある。銀行は、私たちの生活に深く関わっている。今回は、一般人が、銀行との付き合い方に関して知っておきたいことをまとめてみた。

  1. 「知り過ぎている」銀行員

われわれの生活にとって、銀行の存在は、意識している以上に大きい。

たとえばカードで買い物をしても、決済が行われるのは銀行の口座内の資金移動によってだ。給料が振り込まれてくるのも銀行である。さすがに、現金で給料やボーナスを支払う会社は稀になった。お金を送るのも銀行でだし、家賃や公共料金などの引き落としが行われる場所も銀行口座だ。退職金が振り込まれるのも銀行だ。私たちは銀行に大きなお金を置いている場合が多いし、大きなお金の出入りはたいてい銀行を通る。

即ち、銀行は、預金口座の資金の動きを通じて、顧客のお金の動きや、生活の様子、場合によっては顧客の関心の在処などが分かるのだ。

銀行を舞台にしたTVドラマで大ヒットした「半沢直樹」の原作者で、自身も銀行員だった池井戸潤氏に「株価暴落」という小説がある。この小説の主人公も銀行員だが、彼が自分の勤務する銀行が有するある青年の口座の資金の動きを分析するシーンがある。この青年は、かつてのダイエーがモデルだと推測されるスーパーマーケットで爆破事件があり、その容疑者として浮かび上がった。この時点で分かっているのは、生年月日と住所だけだ。

女性行員は手慣れた操作でこの青年の取引項目の一覧表を閲覧し、「預金は普通と定期。クレジットカード、公共料金の引き落としの設定がなされています。カードローンも設定されていますね」と主人公に告げる。主人公は、普通預金出入金明細を見せて欲しいと依頼する。

主人公と同僚は、先ず、この青年に毎月定期的に25日に「給料」が振り込まれていることから、この青年を学生ではなく社会人だと推定し、その金額が安定していることから、アルバイトではなく正社員である可能性が大きいと考えた。次に、引き出す金額が細かい事から、青年が生活費をまとめて妻に渡すようなことのない独身者だと判断し、電気料金・ガス料金が少ないところから、あまり家にいるタイプでないと推測する。さらに駐車場代の引き落としから車を持っている事、ローンの引き落としが無い事から車を現金で買った事、家賃から住宅が1LDK以下の賃貸住宅に住んでいる事、加えて、全国紙の購読者である事、インターネット・バンキングの使用履歴からパソコンを持っていることなどを割り出す。

主人公の分析に対して感心する同僚に対して、作者は、主人公に「指紋と同じだよ」と答えさせ、「銀行員にとって、金の動きは指紋と同じ。いや、それ以上のことを語る重要な証言者たりうる」と続けている。

銀行は、顧客側が想像する以上に、顧客のことを知りうる立場にあると考えていいだろう。

また、もう十年近く前のことになるが、筆者は、当時連載原稿を書いていた主に支店の銀行員向けの雑誌の投資信託セールスに関する特集記事の漫画に、「証券会社からお振り込みのあったお客様は、リスク商品に対するご関心がある可能性が高いので、是非アプローチしてみましょう」という台詞があったことを印象的に覚えている。

顧客の資金移動のデータを与信判断に使うのはいいとしても、マーケティングにも使っていいものだろうかという疑問は、今も消えない。しかし、銀行側のデータ分析やマーケティングのアプローチは、当時よりも一層進歩していることが予想される。

仮に筆者が銀行側の人間で、顧客の資金移動データを自由に使える立場にあるとすれば、金融商品のセールスに引っ掛かり易い「情弱」(「情報弱者」の略語)な顧客を割り出すための統計分析を行うだろう。

顧客の状況把握に対する銀行の強さは、証券会社と比べてみると分かりやすい。たとえば1997年の11月に山一証券は自主廃業を発表したが、その後、山一証券から銀行に再就職した人がかなりいた。当時、1998年に通称「日本版ビッグバン」と呼ばれた大規模な規制緩和の一環として、銀行での投資信託の窓口販売が解禁になった。そこで、銀行側では、証券会社で投資信託を扱ったことがある経験者を大量に採用したのだ。

当時、銀行に再就職した元山一マンに聞くと、銀行には証券会社風にいうと巨大な「預かり資産」があって、しかもその大半が「手つかずの金」なのだから、「すごい!」と言っていた。

たとえば、全財産の1億円を丸ごと一つの証券会社に預けていて、「さあ運用でもしようかな」と思う人は少ない。

いつもは銀行に「預金」として置いておいて、そこから「1,000万円くらいなら付き合ってもいいかな」とか、「A証券と1,000万付き合っているから、B証券さんとは500万くらいにしておこうかな」と銀行から部分的に引き出して証券会社と取引している。

ところが、銀行には顧客単位でみると、その人の「財産の本隊」がそこにある状態になっている場合が多い。

そして、前述のように銀行側では、顧客のお金の状況がよく分かる。

ちなみに、かつて読んだ証券営業に関する専門書(絶版)によると、証券マンがお客さんに投資信託を勧めて断られる台詞で一番多いのは、「今お金がないから」というものだという。「今お金がない」というのは「今投信に回せる適当なお金がない」という意味だ。そう言われたら証券マンとしては基本的に引き下がらざるを得ない。

ところが、銀行には、この「今お金がない」という言い訳が通用しない。銀行は、顧客が普通預金にいくら預けているのかも、その人の定期預金の満期がいつなのかも知っているし、それ以上のことも知っているからだ。

率直にいって、銀行員は、セールスマンとして立場が強すぎる。何はともあれ、銀行に、具体的には銀行員に対して警戒せよと申し上げておく。

  1. 普通預金は「案外悪くない」

長年続いている低金利の環境下で、銀行の預金にお金を預けておく事についてどう考えるべきだろうか。俗に、銀行預金にお金を「遊ばせておく」という表現があるし、「銀行預金は止めなさい」という趣旨のタイトルを付けた書籍も少なくないが、どうなのだろうか。

筆者は、現在の普通預金に関しては「案外悪くない」と感じている。その理由は、機会費用が小さいからだ。

10年国債に投資するリスクを取っても得られる利回りは0.3%程度しかない(個人の場合、さらに税金が約20%掛かる)。端的にいって、普通預金にお金を置いておく事が通常の環境下と比較して殆ど「もったいなくない!」。

普通預金は、いつでもATMを通じて出し入れ出来るし、カードの支払いや各種の送金も含めて決済に使える高度な利便性を持っている。

少々の利回りの差を求めてリスクを取るよりは、普通預金にお金を置いておく方が便利だし分かりやすい、という判断は、今の状況なら大いにあり得る。

現状でむしろ良くないのは、銀行の取扱商品ではないが、小さな利回りアップを狙って、たとえば個人向けに売られている社債を買うような運用だ。個人に社債の信用リスク判断は難しいし、そもそも機関投資家が魅力を感じない発行体及び条件だからこそ、金融的な判断力が弱い個人を狙ってリテール網で社債を売っているのだ。

一方、定期預金は、普通預金の利便性を手放す割には利率が悪いから、目下のところ魅力的ではない。

銀行の利用は普通預金だけでいい。率直に言って、銀行が扱う他の商品は、何れも他の金融機関に(一歩踏み込んで言うなら殆どがネット証券に!)より良い物が存在するからだ。

  1. 銀行は、銀行員の顔を見ないで使おう

銀行というのは、あくまで財布代わりであり、決済をするところであると理解しよう。そして、あえて「銀行を使うコツ」をいうなら、銀行員の顔を見ないで使うことだ。

ほとんどの銀行の普通預金口座で、ネットで24時間残高のチェックや振り込みができるインターネット・バンキングの利用が可能だ。これなら支店で待たなくていいし、振込手数料も安いことが多い。銀行の支店へ行って、うっかり金融商品のセールスにあってしまうこともないし、冬場にインフルエンザに感染することもない(!)。何より時間の無駄がないのがいい。「時は金なり」は普遍的な金言だ。現金が必要な時にだけ、ATMに行く。

ちなみに、自分のお金の使い方のコントロールがまだ出来ていない若いサラリーマンのような人には、ATMで現金を引き出す際に、必要な都度細かな単位で五月雨式に下ろすのではなく、月単位で予定した生活費を2回に分けて半分ずつ下ろし、カードを使わずに現金で生活することをお勧めする。1回目に引き出したお金が、月の半ばまで保たずに無くなるようなら、お金の使い方のペースが自分にとって速すぎるということであり、2回目のお金で月の残りを過ごす事によって、収支のバランス感覚を養う事が出来る。カードが発達した時代に些か原始的だが、「現金主義」は分相応の支出習慣を作る上で有効だ。

さて、銀行にはメリットもあって、お金の出し入れが記録に残る。収支をきちんと把握するためには、資金決済用の銀行口座が一つあればいい。

銀行のカードをいくつも持っている人はお金の管理がうまくない人が多いようだ。ペイオフの心配以外で、取引銀行を複数にする意味合いはないし、複数の銀行に預けるペイオフ対策は、お金の扱い方として最適なものではない。

普通預金には、たとえば、日頃の生活費のだいたい三カ月分を入れておく。何カ月分を置くかは、日頃どんな支出があるか、家族がいるか、急にお金がかかることがあるかどうかなどを考えて、自分が借金をしないですむ水準を考えてほしい。

ただ、投資信託にしても株式にしても、数日で換金出来るので、銀行に絶対安心出来るくらいのお金が貯まるまではリスク資産に投資出来ない、というものではないことも覚えておこう。

  1. キャッシュカードに要注意

便利な普通預金だが、キャッシュカードを作る際には注意しよう。ATMで使うキャッシュカードにはたいていクレジットカード機能が付いており、申し込みの際に、決済方法を選ぶようになっている。一括引き落としか、リボルビング払い(通称「リボ払い」)のいずれかだが、この際、絶対にリボ払いを選んではならない。

リボルビング払いとは、例えば、毎月2万円といった決まった額で支払いを済ませる方法だ。例えば、10万円の買い物をしてクレジットカード機能を使って支払った場合、1月目には2万円、2カ月目に2万円、という調子で普通預金からの引き落としが行われる。いきなり10万円引き落とされるよりも安心な印象を受けるが、「小さな借金」の残高が8万円、6万円、としばらく残る。この間、更に買い物をすると、借金残高は増す事になり、増減しながら維持されることになるが、問題はその金利であり、年率15%くらいの暴利なのだ。

機関投資家の運用計画を参考に株式投資に期待出来るリターンを考えると、年率5%くらいなのに、その3倍もの利息を取られるのは、全く非効率的だ。

しかし、銀行員はしばしばリボ払いが安心であるかのような説明で顧客を誘導しようとするし、時にはリボ払いにすると一時的なメリットが得られる特典を用意するキャンペーンを行うことがある。

筆者は、大学で授業をする際に、学生に毎年「一緒に買い物をする際に、カードでの支払いをリボ払いにする恋人とは結婚してはならない。経済観念の無い配偶者と暮らすと苦労するから」と言うことにしている。

  1. 銀行の個人顧客向けビジネスには二つの方向性がある。

まず、ある程度のお金持ちに対しては、資産運用から手数料を稼ぐ。投資信託や保険を売って手数料を稼ぐ、「フィー・ビジネス」と称するものだ。外貨預金の外国為替での儲けや仕組み預金といった預金の形を取ったフィー・ビジネスもある。ちなみに、銀行では、投資信託ばかりでなく、個人年金保険、外貨預金、仕組み預金の何れも「買ってはいけない商品」だと断言出来る。

他方、貧乏人からは金利で稼ぐ。銀行本体だけでやるのではなく、子会社のカード会社や消費者金融を使って、金利で稼ぐ。彼らが将来稼ぐ給料から金利を引き落とすために、銀行は「小さな借金」への入口を方々にこしらえて、罠を仕掛けている、と理解しておこう。

銀行員が高給取りである事を忘れるな

銀行員は人件費が高いことを常に念頭に置いておきたい。

銀行員は時間を使うと、その時間のコストを回収しなければならないし、彼らの人件費が高いということは、大きな金額を回収しなければならないということだ。そして、この回収は、顧客から儲けることによって行う以外に方法がない。

しかし、時間を使った全ての顧客から十分な回収ができるとは限らないのだから、あなたが銀行で商品を購入する時の手数料には、銀行員が他の顧客から回収し損なった時間のコストが含まれているかも知れない。

正社員の銀行員には、年収が1千万円を超える人が珍しくないが、年間250日働き、1日に8時間労働で計算すると(実際には銀行員はもっと長時間働いているが)、彼らの1時間当たりの時給は5千円だ。銀行としては、その3倍位は稼がなければならないから、銀行から見た「銀行員の時間のお値段」は相当に高いと覚悟しなければならない。

この点で注意が必要なのは、銀行員と「相談」することだ。相談に時間を使う以上、銀行員はそのコストを回収しなければならない。すると、相談が、実質的には商品やサービスのセールスの場に変わる。

人間の心理として、親切に話を聞いてくれたり、自分のために時間を使ってくれたりした人には、ある種の心理的「負い目」(感謝もその一種だ)を感じるものだ。加えて、相手はプロの金融マンなのだ。侮ってはいけない。

筆者は、例えば銀行が用意してくれる「無料相談」に赴く事にも強く反対する。「タダほど高い物はない」という格言は、まさに、こういうものに気を付けろと言っているのだ。

尚、日本人一般(特に高齢者)の傾向として、自分はお客様なのだからサービスを受けて当然だという意識と、この意識と表裏一体の心理として、自分がお客としてどれだけ大切に遇されているかを気にする気持ちを持っている。この「お客様意識」は消費者として、売り手に付け込まれる隙を作りやすい、余計な考えだ。

話し相手を求めて、銀行をはじめとする金融機関の窓口に出向いたり、金融マンと話し込んだりする人(こちらも特に高齢者)が相当数いることや、彼らの心理が分からないではないのだが、敢えて言う、金融マンと相対して、構って欲しがることは「恥ずかしいことだ」と思うべきだ。

実際には、恥ずかしいだけでなく、危険でもあるのだが、まして、相手が銀行員とあれば尚のことだ。

  1. 数年後の銀行預金の安全性には疑問がある

普通預金にお金を置いておいても腹が立たないとしても、日本国内の銀行の円預金に関して「1人、1行、1千万円まで」という預金保険の保護対象の上限は愚直に守る方がいい。

政府の中長期経済見通しでも長期金利は2〜3年後には2%に達する予定であり、「インフレ率2%」が達成された後、日銀は少なくとも現在のようなペースで長期国債を買うことはないはずだから、数年後に、長期国債の利回りが2、3%に達する可能性が十分ある。この場合、長期国債の価格は2、3割下落することになる。

さすがに、有価証券運用で丸々全額を長期国債に回している銀行はなかろうが、銀行のポートフォリオが大きく傷む事は避けられそうにない。

特に、貸出先の不足から、有価証券運用に大きく依存している銀行にあっては、運用の失敗で債務超過に陥るような事態がないとも限らない。自己資本に関する規制基準が厳しいメガバンクよりも、経営リスクがあるにも関わらず基準が甘い地銀や第二地銀、信用金庫などには不安を感じる。

尚、自分の預金が預金保険で全額保護されているとしても、自分のお金を預けてある銀行の破綻に遭遇するのは、相当に「嫌な感じ」だろう。また、銀行が破綻した場合、預金保険の清算のために預金者ごとの預金を集計する「名寄せ」を行う間、一定額(一人、数十万円?)以上の預金を引き出せない状態になるという現実的な不便も想定される。

銀行は、「親しみやすさ」よりも、「強さ」で選ぼう。どの道、銀行と親しくなっても、ろくなことはないのだから、取引銀行はドライに選択したい。

また、率直に言って、国債運用では十分な利ザヤが確保出来ない現状で、銀行が一体どうやって資金を運用しているのかに関して、大きな不安を禁じ得ない。銀行だから外債などの為替リスクを裸で取っているケースは少なかろうが、為替以外のリスクも含めて、当面の時価評価に反映しにくい形で何らかのリスクを取って、当面の期間当たりの利回りを稼ごうとしている金融機関が多いのではないか。

例えば、仕組み債への投資や、ファンドの形を取ったベンチャー企業、不動産などへの出資だ。これらは、「当面」リスクが決算に反映しにくいが、2、3年経過して、経済的な状況が大きく動いた時に突然表面化する可能性が大いにある。

筆者はかつて、外資系の証券会社に勤めていた事がある。当時の経験から判断して、「利ザヤが稼げなくて困っている金融機関」は、仕組み債(ろくでもない暴利の商品なのだが、決算の誤魔化しには役立つ)など外資系の証券会社が儲かる商品の営業にとって絶好のターゲットのはずだ。

金融庁も日銀も、銀行の破綻は避けたいと考えて手を打って行くはずだが、2、3年後くらいに「制御不能」の巨額損失が突然出てこないとも限らない。

仮に長期金利が高騰して日本の財政が危機に陥ることがあるとすると、銀行の破綻は、そのずっと手前で起こるだろう。

何はともあれ、預金者としては、銀行に過大なお金を預けないことだ。

  1. ペイオフ対策は個人向け国債かMRFで

ペイオフというのは、預金保険による払い戻しのことで、転じて、銀行の破綻を指すことが多い。我が国では、日本国内の銀行の円建て預金の、1,000万円までの預金の元本と金利が、預金保険でカバーされることになっている。

この場合、支店が異なる預金口座の預金も、同一の銀行であれば、預金者個人の単位で合算される。これを「名寄せ」と呼ぶが、預金保険で預金が保護されていても、名寄せの期間中は、自分の預金の引き出しが制限される。自分の預金がペイオフの事態に至ると、少なくともかなり嫌な思いをするだろう。

最低限の常識として、預金先の銀行が破綻したときに預金の1,000万円を超える部分はリスクにさらされることを意識しておこう。

たとえば、A銀行に1億円預金がある場合と、B証券でMRFに1億円預けている場合では、どちらのリスクが大きいか。

銀行の預金というと一見安心なようだが、実は預金1億円のうち、9,000万円は預金保険では保護されていない。一方、証券会社のMRFは、投資信託の一種だが、この場合、利回り変動のリスクは取っているが、B証券を経由して買った投資信託は、B 証券がつぶれても財産自体は信託銀行に分離して保管されているので証券会社破綻による影響はない。

金融機関の経営リスクに対する安全度という意味では、MRFの方が銀行預金よりも安全な場合がある。この点は、ぜひ覚えておいてほしい。

尚、対面営業の証券会社でMRFに多額のお金を置いておくと、「動かせる資金を持った良い見込み客」だと見込まれて、熱心なセールスのアプローチを受ける可能性があるので十分注意しよう。この点に関しては、ネット証券のMRFなら、「セールスの危険!」に晒される可能性が無いので安心だ、と申し上げておこう。

リスクを取りたくないお金が1.000万円以上ある場合、後述の個人向け国債かMRFを考えてみて欲しい。

大まかには、お金を動かさずに済むのであれば個人向け国債、お金の出し入れがありそうならMRFを考えよう。

  1. 銀行で買っていい運用商品は「個人向け国債・変動10年」のみ!

銀行の窓口でも買う事が出来る運用商品で唯一購入対象にしていいのは、個人向け国債だけだ。変動金利で10年満期のものを買おう。目下の金融環境では、個人がリスクを取りたくない資金を運用する対象として、ほぼ決定版の答えだと言っていいだろう。

理由は、先ず、さすがに財務省もそこまで踏み込んだ宣伝はしないが、(1)個人向け国債の方が銀行よりも信用リスク面で安全であることだ。潰れるとすれば、国家財政よりも、銀行の方が先だ。

加えて、将来長期金利が上昇するリスクを意識せざるを得ない現在の環境にあって、(2)将来長期金利が上昇しても元本割れしない事は魅力的だ。半年単位の変動金利(10年国債の流通利回りの66%に決まる)で、直近2回分(1年分)の利息を支払うと何時でも元本が100%帰って来る。これは、なかなか強力なオプションだ。この条件なら、個人向け国債で運用したいと考える「法人」も少なくないはずだ。そもそも、それが可能なら、銀行もそうするだろう。

金利に関して「いいタイミング」を判断するのは必ずしも易しいことではないが、仮に将来「今こそ金利のピークであり、固定金利の長期債を買いたい」と思えば、このタイプの個人向け国債なら、2回分の利払い(税引き後の金額でいい)を支払い、元本100%で途中解約して、長期債を買うようなこともできる。

加えて、(3)現状では利回り面で銀行預金よりも少しマシである。

何れも、なかなか結構な条件だ。かつては、3カ月に1度しか買えなかったが、近年毎月買えるようになった。

尚、個人向け国債は、銀行以外に、証券会社(含むネット証券)でも、郵便局(ゆうちょ銀行)でも買える。銀行で買わなくてもいいのだが、銀行で運用商品を買うとすると唯一買えるのが個人向け国債の変動金利10年満期型だ、ということを強調しておこう。

但し、購入の際に注意が必要な点が1つある。それは、他の運用商品、特に投資信託に対する勧誘に耳を貸さない事だ。

個人向け国債は、これを売っても銀行が得る手数料が小さく(販売代金の0.5%を国から貰えるだけ)、しかも、資金が10年も「寝る」可能性が大きいので、投資信託(販売手数料だけで3%程度、信託報酬で毎年1%台後半のものが多い)を売りたがるケースが多いのだが、「絶対に」銀行の投信セールスに乗ってはいけない。

  1. 銀行に「買っていい運用商品」は無い

先の、個人向け国債変動金利10年満期型を例外として、銀行の店頭に買っていいと言える運用商品はない。特に投資信託には注意して欲しい。

しかし、銀行は金融危機の時にも預金がすべて守られたし、金融債についても預金保険に入っていないのに保護された。「銀行で損をさせられた」という経験を持っている人は、証券会社と比べると圧倒的に少ない。

近年は、銀行で売っていて元本割れしている運用商品が結構あるが、顧客の側では、「(証券会社はともかく)銀行は信用出していい」と思っている人が、まだかなりいる。

しかし、投資信託の銀行窓販が開始されてから、15年以上が経過して、いまや銀行員も悪い意味で逞しくなった。収益の目標を達成するために、手数料稼ぎの手段であるリスクの高い投資信託を、金融リテラシーの低い顧客に押し込むように販売する点について、今や、対面営業の証券マンと大差ない。そして、顧客の側は、まだ銀行員を信用している場合がある点で、始末が悪い。

例えば、3年ほど前に仕事でご一緒した事がある女性のアナウンサーから、母親が先般退職したのだが、退職金をほぼ全額、一本の投資信託に投資して損をしているので、どうしたらいいかと、相談を受けた。

話を聞いてみると、米国のハイイールド債(信用度が低く、利回りの高い債券)に投資するのに加えて、通貨リスクをブラジル・レアルにスイッチし、毎月150円もの分配金を出すタイプのファンドだった。

米国のハイイールド債だけでも結構なリスクがあるが、新興国の通貨であるブラジル・レアルは、それだけで株式に100%投資するファンドくらいのリスクがある。つまり、この場合、退職金ほぼ全額を株式100%以上のリスクがあるファンドに投資した。

お母様は、分配金の利回りに惹かれて、銀行に勧められるまま投資し、リスクについては理解しておられなかった。ある大手信託銀行で販売されたという。たぶん、退職金が振り込まれた銀行なのだろう。

ちなみに、分配金の収入を上回る元本の値下がり損を娘に指摘された母親は、「毎月お金が入って来るし、私はこれに満足している。それに、銀行の方から、長期投資なので、元本の変動には一喜一憂しなくていいと言われた」と答えたという。この担当者は「悪い奴」と言うしかないが、悪いなりに口が上手い事には感心した。

しかし、高齢者の退職金ほぼ全額を、しかもリスクを十分理解させずに販売することは、全く不適当であり、金融商品取引法に触れている可能性すらある。

銀行は、今や証券会社と変わらない「肉食系」の手数料ハンターとなった。加えて前述のように、銀行は、顧客の懐具合をよく知っているので、セールスを断りにくい。

そして、繰り返すが、銀行には、買ってもいいと思える運用商品が無いのだ。特に、店頭で取り扱っている物はひどい。

たとえば、数ある投資信託の中でも手数料が高めのものを選んで並べている印象だ。「銀行員の時間コスト」を考えると、仕方がないのだろう。

投資信託では、ネット取引専用のインデックス・ファンドで、ノーロード(販売手数料ゼロ)で運用管理手数料(信託報酬)水準が割合低いものがごく少数ひっそりと売られている場合がある。しかし、その種のファンドも、ネット証券でもっと手数料の安い同種のファンドを見つけられる場合が大半だ。

尚、運用管理手数料が高いので、最終的にはやはり買わない方がいいのだが、銀行で売っているのと同じ投資信託を買う場合に、たとえばネット証券で買うと手数料が格安か無料なことがしばしばある。同じ商品をわざわざ手数料の高い銀行で買うメリットはない。

  1. 銀行にNISA口座を持つのは損

2014年から始まったNISA(少額投資非課税制度)だが、取引口座は銀行ではなく証券会社に開くべきだ。前述のように、銀行には「いい運用商品」が全く無いことがその理由だ。

NISAは一人年間100万円まで(2016年から120万円に拡大)の株式や株式投資信託などの収益に対する課税が5年間免除される制度だ。確定拠出年金など、NISA口座以外の場所での資産運用との兼ね合いもあるが、NISA口座での運用はTOPIX連動の国内株式インデックスファンドがベストの選択肢になる場合が多いはずだ。

この場合、最も良いのはTOPIX連動のETF(上場型投資信託)であるが、銀行は上場株式やETFを取り扱っていないので、NISA口座でこれを買う事が出来ない。

例えば、銀行にNISA口座を作って、100万円投資するとして、銀行員のアドバイスに従ったらどうなるか。多分、販売手数料が3%(税抜き。以下同じ)、運用管理手数料が年率1.5%以上のファンドを勧められることが多いだろう。1年目には4万5千円、2年目以降も毎年1万5千円ずつ手数料を抜かれる計算となる。

一方、ネット証券にNISA口座を持ち、TOPIX型ETFに100万円投資すると、売買手数料が数百円、運用管理手数料は0.1%程度であるから、1年目が1千数百円、2年目以降は年間1千円の手数料支払いだ(ETFを売る際にも数百円手数料がかかることも考えておくのが、比較場はフェアだろう)。当初の手数料に関しては、これを免除するキャンペーンを行うネット証券もある。

両者の差は運用にあって決定的だ。金融リテラシーの「有り・無し」の差に対する価格だと言っていい。

銀行に間違ってNISA口座を開いてしまった人は、銀行のネット取引専用の投資信託のラインナップの中に、ひっそりとノーロードで運用管理手数料が0.5~6%程度のインデックスファンドがラインナップされている場合があり、こちらを選ぶと「被害」をかなり小さく抑える事が出来る。

実は、筆者は、あるメガバンクの預かり資産が500万円以上で担当者が付いている顧客向けの講演の講師に呼ばれた事があり、この話をしようとしたところ、事前に講演で使うパワーポイント資料を検閲した銀行の担当者から、「ウチの担当者が付いた顧客が、ネット取引に流れると困るので、その話は止めて欲しい」との話があった。

これは、銀行員が考えている事がよく分かるエピソードだと思う。話題がNISAだから、割合最近の事例だ。

ちなみに、この時には、「せっかく時間を使ってセミナーに来る顧客には正しくてメリットのある事を伝えるべきだ。貴行にとっても、正直がベストのポリシーである」と銀行員に説教して、この通りの話をさせて貰った。顧客と銀行、両方のためになるいい事をしたと思っている。

こうして銀行に関する注意をあれこれ書いてみると、「銀行員のお世話にならない」ことがいかに大切かが、あらためて分かる。

但し、筆者は、銀行に敵意を抱いているのではない。銀行員に無駄な時間を使わせないように心を砕き、彼らをプロ(顧客から収益を稼ぐプロ)として尊敬して、我が身から遠ざけよと言っているのだ。