あなたの資産は減っている!

 第1回目<売るな!>ということと第2回目<腹で投資しろ!>ということを書いてきました。前2回のコラムを読んだ方は投資はなかなか難しく、自分には合っていないのではないか、と自信を失った方もいるかもしれません。儲かった株を持ち続けることや、どのような状況下でも腹を決めて冷静に投資に臨むのは決してやさしいことではありませんし、現実に投資には人によって向き不向きがあることも否定できません。

 それであれば、堅くいこう、ということであまり神経も使わずに預金にしておいて、例え少ない利息でも満足しておこう、むやみに神経を使って悩むよりその方がいいと思う人も多いかもしれません。実際、前回のコラムで書いたように日本人は性格的に投資に向いていないということもあります。

 では、このご時世に堅く預金で行って、株式投資というような冒険は行わない、と決めた方がいいのでしょうか? ここが悩ましいところでもあるわけです。資産は増やしたいが、冒険はしたくないし、神経も使いたくない、ということで、今まで通り堅く行こうということですが、このような保守的な考え方でいいのでしょうか?

 実はこのような堅い考え方はこれからは通用しません。何故かというと時代がデフレからインフレの時代へと大きく動き出したからです。政府はしきりに日銀を使って円紙幣を限りなく印刷し続け、日本をマイルドなインフレ状態に持っていこうとしています。しかし現在は原油安などの影響もあり、現実には日本国内ではインフレは生じていません。一部食料品などは円安の影響で上がってきましたが、消費者物価も統計を見る限り、日本ではアベノミクスが始まって日銀が異次元緩和を行った時点の2013年4月から見て消費者物価はほとんど上がっていないのです。消費者物価が上がっていないということは実質手元の現金はそのままの価値を保っているということです。預金で持っていた方は資産は増えなかったけれども減ることもなかったわけです。一連の流れを考えると敢えて資産運用で冒険をする必要もないのではないか、と思えてきます。

 ところが現実は大違いなのです。世界的に考えれば世界を牛耳っている通貨はドルです、一般的に世界ではドルベースでその価値が判断されることとなります。例えばあなたの100万円はアベノミクスが始まった2012年11月時点では当時1ドル80円ですから1万2,500ドルでしたが、現在2015年7月の段階ではおよそ125円ですから8,000ドルにしかなっていません。あなたの資産は世界標準であるドルベースで見れば大きく減っている、何と36%も減価しているのです。

 自分たちは円ベースで生活しているのだからドルベースなど関係ないと思ったら大間違いです。株式相場を見てください、日経平均はアベノミクスが始まった2011年11月の8,000円から2万円超えまで2.5倍にまで膨れ上がったのですが、実際日本経済が2.5倍にまで膨れ上がったような高揚感があるでしょうか、ほとんどの人は少しは良くなったが2.5倍も良くなったということはあり得ないと思うでしょう。実際消費者物価はほとんど変わらずですし、給与所得もここにきての賃上げで少しは上がったかもしれませんが、給与が2倍以上になったというケースはあり得ないでしょう。

 では何故、日経平均は2.5倍にまで化けているのでしょうか? 企業業績が良くなったと言ってもそれほど大きく変わったのか、振り返って自分達の生活レベルはそれほど大きく変わらないし、株価の上昇と自分達の生活感覚とは大きなギャップがあると思います。これはどういうことなのか、株価は上げ過ぎでバブルではないのか、と感じてしまいそうです。

 ところが日本株がバブルだとか歴史的に割高などという専門家はほとんどいません。それは企業の収益や配当、並びに世界的に株価水準を測る数々の標準的な指標から見て割高ではないからです。企業はアベノミクスが始まってどうしてそんなに儲けたのか、庶民感覚から考えれば信じられないところでしょう。

 この種明かしは実はインフレが生じているということなのです。インフレが起こっていないのにインフレとは何か? それはドルに対して、日本が海外に対して円が価値がなくなったことに起因する、円の価値の減価というインフレが生じたと思えばいいのです。

 日経平均株価は確かに8,000円から2万円まで急上昇しました、そしてその上昇ぶりは確かに日本国民の多くの人が持つ感覚とはずれています。ところが株価は理論的におかしくない水準だというわけです、このギャップ、これほど高くなった理由は何か?

 実は日本企業の多くは円安で利益を出しているからです、海外に物を売って儲けている会社がアベノミクス前は1ドル80円で、1ドル売った物に対して80円しか入らなかったのは、今度は同じ1ドル分を売って125円も入るのです。これでは日本円で見れば儲かるのは当然ですし、日本円でみたところの利益が大きく膨れ上がるのは当然ではないですか、円安が主因でも結果的に利益が上がれば株価も上がるのは当然ということとなるのです。

 トヨタは先日発表した4-6月期の決算で過去最高の利益を叩きだしましたが、その利益の大半は円安による為替利益であって、実はそれがなければ昨年と比べて減益決算だったのです。昨年より売れなくても為替で儲けることができて利益が膨らんでいく、この構図こそがアベノミクスが始まって以来日本株全体を覆っているのです。

トヨタ自動車(7203) 東証1部 貸借銘柄 5年週足チャート 利益の大半は円安によるもの

米ドル/円 5年週足チャート 

 またインバウンド消費ということで中国人をはじめ外国人観光客が大挙して押し寄せてきています、何故彼らがたくさん日本に来られるようになったのか? 円安のおかげでしょ、円が安くなったから外国人が気楽に日本に来てお金を使うことができるわけです、言葉を変えれば外国人がお金持ちになったわけです、その半面、日本人はどうか、円安によって自らの資産はドルベースで見れば完全に大きく目減りしているのです。我々日本人の資産が目減りして貧乏になったけれど、外国人は資産が増えてお金持ちになったので日本にやってきて爆買いを行っているのです。

 世界的な標準はドルですよ、あなたの資産はここ数年どうなりましたか? ドルベースで見れば明らかに減っているでしょう! ところが何故株が上がったか、日本企業はドルで商売をすることによって円での価値に換算すると大きく儲けが出ることになって結果的に株価が上がったのです。これって本当の利益ですか? これって本当の株価の上昇なのですか? 違うでしょう、単にドルを持っていたから、ドルで商売できたから得られた利益ではないですか! だから輸出関連の株が上がったわけでしょう、要するに何もしなくたってドルさえ持っていれば良かったのです、ドルが持てなければドルで商売している日本の多くの企業の株式を購入していれば良かったのです。その結果が日経平均の2.5倍化ということなのです。あなたの資産は減っているのです。世界標準であるドルベースで見れば間違いなく減っているのです、あなたは財産を減らしたのです! 株さえ持っていれば、株に投資さえしていれば、あなたは資産を減らすことはなかった! これが現実だ!

 デフレ時代ではない、インフレが到来するのです。国内でインフレになっていなくても、ドルに対して、諸外国に対して日本円は価値を失い、インフレが起こっているのです、日本人はみんなして貧乏になっただけです、となり近所も皆同じように貧乏になったのでわからないだけです、株を持っている人だけが救われた、株を持っていることだけが財産を保全できた、冒険をしない、保守的に財産を運用するという姿勢は、この時代の変化の中にあってあなたを資産運用の敗者に導くだけなのです。