前期・今期、コロナ影響で一時的に純利益が下がるが、業務純益は高水準
前期(20年3月期)・今期(21年3月期)の純利益は5,000億円台へ落ち込む見込みです。コロナ危機の影響を受けるためです。ただし、基礎的な収益力は揺らいでいません。それが、同社が開示している業務純益(一般貸倒引当金繰入前・信託勘定償却前)に表れています。
同社の業務純益は、コロナの影響を受ける前の19年3月期が1兆785億円でした。コロナの影響を受けた前期(20年3月期)は1兆1,844億円で、今期(21年3月期)の会社目標は1兆500億円です。コロナの影響があっても、基礎的な収益力は健在と言えます。
それでは、前期・今期の純利益はなぜ5,000億円台まで落ち込むのでしょうか。それについて、同社は以下の通り説明しています。
まず、前期の利益が落ち込んだ要因は、以下の3点です。
【1】のれん一括償却▲3,433億円
三菱UFJは、タイのアユタヤ銀行と、インドネシアの中堅銀行バンクダナモンを買収し、子会社としています。ところが、コロナ・ショックを受けて、前期は株価が大きく下落。買収した価格より5割以上、下がったため、減損処理が必要となりました。ただし、両銀行とも、業績は堅調で、今後、三菱UFJのアジア戦略で重要な役割を果たしていくと考えられます。
今回ののれん一括償却は、経営権を取るためにかかった買収プレミアムを会計上償却するもので、前向きの費用といって良いと、私は考えます。
【2】政策保有株式などの減損▲650億円
コロナ・ショックで株価が急落した保有銘柄の一部に、減損が発生しました。ただし、同社は、下落した株の減損を出す一方で、含み益のある株はそのまま温存しています。20年3月末で保有する有価証券に2兆8,886億円もの含み益があります。巨額の含み益を残したまま、株価の下がった銘柄の減損を出すのは、きわめて保守的な会計と思います。
【3】予防的な貸倒引当金の計上▲350億円
コロナ・ショックで、今後、貸倒れが増加する可能性があるため、予防的に引き当てを計上。
なお、今期(21年3月期)の純利益が5,500億円に留まる見通しとしている要因について、新型コロナウイルスによるマイナス影響が4,200億円あるためと、同社では説明しています。取引先企業の業績・財務の悪化により、与信関係費用が約2,000億円増えて,4,500億円となることなどが影響します。
このように、前期今期と純利益が5,000億円台に低下しますが、コロナが収束すれば、また、8,000億円~1兆円の利益を稼ぐようになると、私は考えています。