サバクトビバッタによる被害で、世界の小麦の年間輸入量は10%程度増加する?

 サバクトビバッタの警戒国は、穀物の中でも小麦を主食とする国が多く、自給自足でまかなえない量を、輸入に頼っています。このため、警戒国での食料不足は、同国の小麦の輸入量を増加させ、引いては、世界全体の小麦輸入量を増加させる要因になり得ます。

図:警戒国の各穀物の生産量と世界全体に占めるシェア 単位:千トン

出所:USDA(米農務省)のデータより筆者作成

 パキスタン東部とインド西部(パンジャーブ地方)は、インドが英国領だったころからインダス川流域の豊富な水を利用した灌漑が行われた、肥沃な穀倉地帯です。現在は小麦が盛んに栽培され、毎年、3月から5月にかけて、収穫が行われます。今年、まさに収穫のタイミングに、サバクトビバッタが襲来したわけです。

 パキスタンでは、今年、2,500万トンもの小麦生産を見込んでいたものの、来年4月まで、毎月20万トンの小麦の輸入が必要だ、と声明を出しています。年換算で、生産量の1割近くが、サバクトビバッタによって、食い荒らされた計算です。

 以下は、1割という被害の程度を、先述の警戒国の小麦生産量に当てはめ、被害で失った量を輸入でまかなう場合に想定される世界全体の小麦輸入量が、どれだけ増加するかのシミュレーションです。

図:サバクトビバッタの被害で想定される世界全体の小麦輸入量の増加量 単位:千トン

出所:USDA(米農務省)のデータより筆者作成

 サバクトビバッタの被害がなかった場合、警戒国は国内で生産した小麦をメインに、不足分を輸入して、国内の需要をまかないます。しかし、被害が生じている今、国内での生産量が減少しているため、生産が減少した分を、追加で、輸入しなければなりません。

 被害が1割だったとすると、警戒国の生産量の減少分は、およそ1,695万トン(2019年度の実績をもとに計算)で、この分を輸入でまかなう場合、世界の小麦輸入量はおよそ1億9,672万(同)となり、世界全体の小麦輸入量が9.4%増加します。

 もちろん、1割ではなく、それ以上の被害が生じている国もあるとみられ、全体的には10%程度、世界の小麦の輸入量は、今後、増加する可能性があると、筆者は考えています。これは、世界の小麦の需要が増えることを意味し、小麦価格の上昇要因と言えます。

 警戒国で新型コロナウイルスの感染が拡大していることもあり、バッタの被害へのケアも行き届きにくく、被害(警戒国の追加の小麦輸入量)は、想定を超える可能性もあります。