米中貿易戦争“第一弾の合意”不履行懸念が、出遅れの一因

 米中貿易戦争における“第一弾の合意”が不履行になる懸念が、穀物価格の下落の一因になっていると、筆者は考えています。

図:米国の大豆在庫(年は穀物年度) 単位:千トン

出所:USDA(米農務省)のデータより筆者作成

 2018年の年初から、米中貿易戦争が激化し、両国間で関税の引き上げ合戦や、特定のハイテク企業を名指しした、部品の不買運動が起きました。泥沼化した貿易戦争に、歯止めをかけるべく、2020年1月15日、“第一弾の合意”を締結し、一時は同戦争が鎮静化する期待が高まりました。

 しかし、その直後、新型コロナウイルスが、中国で、そして欧米で爆発的に広がり、パンデミック化した3月上旬ごろから、米中間で、新型コロナウイルスの起源をめぐり小競り合いが起き、米中の関係が再び悪化し始めました。

 先週まで行われた、全人代(5月22日から28日まで)において、中国が香港の国家安全法の制定を採択したことをきっかけに、香港の主権が守られなくなる(一国二制度が守られなくなる)とする米国と、内政干渉だと反発する中国の間で、さらに対立が深まりました。

 また、11月の米大統領選挙を前に、一般の有権者の支持を取り付けるべく、中国に屈しない姿勢を取り続けるトランプ大統領の方針も、関係悪化に拍車をかけたと、考えられます。

 米中問題はこの数カ月間、悪化の一途をたどり、“第一弾の合意”は、日に日に、不履行となる懸念が高まっていると言えます。

 この不履行となる懸念は、米国内で、今年も大豆の在庫が余ってしまうのではないか?という懸念を生み、大豆価格、引いては、大局的に、同じようなタイミングで山と谷を描く“穀物銘柄”全体の、上値を抑える要因になっていると、考えられます。