新型コロナショック後、株価、エネルギー・金属は価格回復も、穀物は出遅れ感あり
リスク資産の多くで、急激に現金化が進み、金さえも売られた“新型コロナショック”は、今年2月後半からおおむね3月中旬にかけて、発生しました。WHO(世界保健機関)が、新型コロナウイルスをパンデミック(世界的な大流行)と認定したことなどが、ショック発生の要因と言われています。
ただ、足元では、このショックから多くの市場が、回復してきています。以下のグラフのとおり、NYダウを見てみると、ショックからの回復が進行しています。振り返れば、ショック時の底は、3月23日(月)だったと言えると、思います。
図:NYダウの推移 単位:ドル
以下は、この3月23日(月)から5月29日(金)にかけての、ジャンルを横断的に見た騰落率のランキングです。
図:ジャンル横断騰落率ランキング (2020年3月23日から5月29日)
この期間は、先述のNYダウを含んだ多くの銘柄が上昇しました。上昇した銘柄数が16、下落した銘柄数が7、上下最大を除く騰落率の平均が+16.4%と、ランキング全体としては、上昇が目立ったわけですが、穀物は、3銘柄いずれも下落しました。
米中貿易戦争“第一弾の合意”不履行懸念が、出遅れの一因
米中貿易戦争における“第一弾の合意”が不履行になる懸念が、穀物価格の下落の一因になっていると、筆者は考えています。
図:米国の大豆在庫(年は穀物年度) 単位:千トン
2018年の年初から、米中貿易戦争が激化し、両国間で関税の引き上げ合戦や、特定のハイテク企業を名指しした、部品の不買運動が起きました。泥沼化した貿易戦争に、歯止めをかけるべく、2020年1月15日、“第一弾の合意”を締結し、一時は同戦争が鎮静化する期待が高まりました。
しかし、その直後、新型コロナウイルスが、中国で、そして欧米で爆発的に広がり、パンデミック化した3月上旬ごろから、米中間で、新型コロナウイルスの起源をめぐり小競り合いが起き、米中の関係が再び悪化し始めました。
先週まで行われた、全人代(5月22日から28日まで)において、中国が香港の国家安全法の制定を採択したことをきっかけに、香港の主権が守られなくなる(一国二制度が守られなくなる)とする米国と、内政干渉だと反発する中国の間で、さらに対立が深まりました。
また、11月の米大統領選挙を前に、一般の有権者の支持を取り付けるべく、中国に屈しない姿勢を取り続けるトランプ大統領の方針も、関係悪化に拍車をかけたと、考えられます。
米中問題はこの数カ月間、悪化の一途をたどり、“第一弾の合意”は、日に日に、不履行となる懸念が高まっていると言えます。
この不履行となる懸念は、米国内で、今年も大豆の在庫が余ってしまうのではないか?という懸念を生み、大豆価格、引いては、大局的に、同じようなタイミングで山と谷を描く“穀物銘柄”全体の、上値を抑える要因になっていると、考えられます。
アフリカ中央部と中東、西アジアで、“ウイルス”と“バッタ”が猛威を振るう
米中問題から視点を、アフリカ中央部、中東、そして西アジアに向けると、穀物市場の動向に影響を及ぼすとみられる、大きな事象が発生していることに気が付きます。
人類の生活を強く脅かす“ウイルス”と“昆虫”、具体的には、“新型コロナウイルス”と“サバクトビバッタ”が、猛威を振るっています。
図:アフリカ中央部、中東、西アジアにおけるサバクトビバッタの大群の活動範囲
2020年3月ごろは、オレンジ色で記した国々で、サバクトビバッタの大群が活動していました。その後、繁殖が起きて数が増え、大群の活動範囲が拡大し、5月になると、赤色で記した国々でも、大群が確認されるようになりました。
以前の「新型コロナに加えてバッタも・・・短期的な反発に今すべきことは?」で書いたとおり、サバクトビバッタは群れを成すと、1日100キロメートル以上、移動することがあると、言われています。
今回の大量発生は、一昨年、東アフリカで発生した大雨がきっかけで起きたと言われています。その後、繁殖を重ねて数が爆発的に増え、アフリカ大陸から紅海を渡りアラビア半島に、その後、アラビア半島からペルシャ湾を渡りイラン側に渡ったと、考えられます。
FAO(国連食糧農業機関)が作成しているサバクトビバッタの大量発生に関する4月の月次レポートは、国名をオレンジと赤で書いた地域の国々(おおむね23の国々 アフガニスタン、エチオピア、インド、ウガンダなど。以下、警戒国)が、足元、サバクトビバッタの脅威にさらされていると、しています。
サバクトビバッタは、一日に、自分と同じ重さの穀物を含む植物を食い荒らす、と言われています。1匹あたり数グラムから数十グラムだとしても、数千万匹が、数十日にわたって、食い荒らせば、国によっては食糧危機に陥ります。(サバクトビバッタが大量発生し、食料が減少する懸念が強まったため、アフリカ東部のソマリアでは2月、国家非常事態宣言が発令されました)
また、サバクトビバッタの警戒国では、以下のとおり、新型コロナウイルスの感染者の増加が目立っています。
図:サバクトビバッタの警戒国における新型コロナウイルスの感染者数 単位:人
FAOは、サバクトビバッタの大群を封じ込めるため、農薬を散布するなどの援助を申し出るも、新型コロナウイルスの感染が拡大しているため、思うように援助ができないことがある、としています。
“ウイルス”と“昆虫”、2つの脅威にさらされている警戒国は、今、非常に困難な状況にあります。
サバクトビバッタによる被害で、世界の小麦の年間輸入量は10%程度増加する?
サバクトビバッタの警戒国は、穀物の中でも小麦を主食とする国が多く、自給自足でまかなえない量を、輸入に頼っています。このため、警戒国での食料不足は、同国の小麦の輸入量を増加させ、引いては、世界全体の小麦輸入量を増加させる要因になり得ます。
図:警戒国の各穀物の生産量と世界全体に占めるシェア 単位:千トン
パキスタン東部とインド西部(パンジャーブ地方)は、インドが英国領だったころからインダス川流域の豊富な水を利用した灌漑が行われた、肥沃な穀倉地帯です。現在は小麦が盛んに栽培され、毎年、3月から5月にかけて、収穫が行われます。今年、まさに収穫のタイミングに、サバクトビバッタが襲来したわけです。
パキスタンでは、今年、2,500万トンもの小麦生産を見込んでいたものの、来年4月まで、毎月20万トンの小麦の輸入が必要だ、と声明を出しています。年換算で、生産量の1割近くが、サバクトビバッタによって、食い荒らされた計算です。
以下は、1割という被害の程度を、先述の警戒国の小麦生産量に当てはめ、被害で失った量を輸入でまかなう場合に想定される世界全体の小麦輸入量が、どれだけ増加するかのシミュレーションです。
図:サバクトビバッタの被害で想定される世界全体の小麦輸入量の増加量 単位:千トン
サバクトビバッタの被害がなかった場合、警戒国は国内で生産した小麦をメインに、不足分を輸入して、国内の需要をまかないます。しかし、被害が生じている今、国内での生産量が減少しているため、生産が減少した分を、追加で、輸入しなければなりません。
被害が1割だったとすると、警戒国の生産量の減少分は、およそ1,695万トン(2019年度の実績をもとに計算)で、この分を輸入でまかなう場合、世界の小麦輸入量はおよそ1億9,672万(同)となり、世界全体の小麦輸入量が9.4%増加します。
もちろん、1割ではなく、それ以上の被害が生じている国もあるとみられ、全体的には10%程度、世界の小麦の輸入量は、今後、増加する可能性があると、筆者は考えています。これは、世界の小麦の需要が増えることを意味し、小麦価格の上昇要因と言えます。
警戒国で新型コロナウイルスの感染が拡大していることもあり、バッタの被害へのケアも行き届きにくく、被害(警戒国の追加の小麦輸入量)は、想定を超える可能性もあります。
生産減少・在庫減少が発生すれば、年末にかけて、穀物価格は反発色を強める可能性も
警戒国に“ウイルス”と“昆虫”が襲来していることで、小麦市場に上昇要因が生じていると書きました。これは、生産減少が価格上昇の要因になることを想定した話ですが、消費回復もまた、価格上昇の要因になることがあります。
米国国内の大豆在庫が高水準であることについて、触れましたが、近い将来、この高水準に積み上がった在庫が、取り崩される可能性があると、筆者は考えています。
11月の米大統領選挙に向けて、トランプ大統領が“農家票”を獲得するために、米国の農家にとって、有利な策を推進することで、在庫の取り崩しが起きる可能性があります。
米国の農家にとって、在庫の取り崩しは喜ばしいことです。例えば、関係が悪化している中国と、貿易戦争をいったん鎮静化させて、中国に米国産大豆を購入させたり、中国以外の国々に、米国産大豆を購入させたりすることを実現すれば、農家は喜び、そのような策を推進したトランプ大統領を支持する可能性が生じます。
そしてその時、市場では、過剰在庫が取り崩されたことを好感し、価格上昇の動機が生まれます。大豆価格の上昇は、さらに米国の農家を喜ばせ、在庫取り崩し策を推進したトランプ大統領をさらに支持するかもしれません。
もともと、以下のとおり、大豆や小麦だけでなく、トウモロコシも、足元の価格は、リーマン・ショック(2008年9月)直後の安値にほど近く、比較的、割安感を感じやすい水準にあると、言えそうです。(大豆は8ドル、小麦は4ドル、トウモロコシは3ドル程度)
サバクトビバッタの被害が拡大して、小麦の世界的な輸入量が増える、農家票を意識した策が講じられ米国の大豆在庫が減少するなどが、同時に発生すれば、小麦や大豆だけでなく、穀物全般が買われやすいムードが強まり、トウモロコシも反発色を強める可能性があります。
穀物は、多くが、人間や人間が食す家畜が口にするものであるため、景気が悪化したとしても、一定量の消費を見込みやすい側面があります。
一定量の消費があり、その上で、生産量が減少したり、政策的に在庫が減少したりした場合、かつ、価格が長期的視点において比較的、割安感を感じ安い水準にあるのであれば、“他の銘柄に比べて、長期的視点で”今後、価格反発が、起きやすいと、筆者は感じます。
天候起因の急激な価格変動に留意しつつ、長期的な視点で、穀物価格を見守ることが、重要だと思います。
図:シカゴ大豆先物価格 単位:ドル/ブッシェル
図:シカゴ小麦先物価格 単位:ドル/ブッシェル
図:シカゴトウモロコシ先物価格 単位:ドル/ブッシェル
[参考]穀物関連の具体的な投資商品
種類 | コード/ティッカー | 銘柄 |
---|---|---|
国内株 | 8002 | 丸紅 |
海外ETF | ||
JJG | iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数 トータルリターンETN |
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外国株 | ||
ADM | アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド | |
BG | ブンゲ | |
商品先物 | 国内 | トウモロコシ 大豆 |
海外 | トウモロコシ 大豆 小麦 大豆粕 大豆油 もみ米 |
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