米中経済戦争勃発の狼煙
一方で、気になる材料があります。
前回のコラムで、5月に入ってトランプ米大統領は11月の米大統領選挙をにらみ、米国内の新型コロナウイルスの多大な影響を、中国に責任転嫁する動きを先鋭化。米中貿易摩擦再燃不安が高まってきているものの、米中とも経済がまだ回復していない状況では、両国が自滅するような一線は越えないだろうと予想しました。
ところが、どうやら事態は予想以上にエスカレートしているようです。口先攻撃だけではなくなって、トランプ米政権は実際の制裁措置に動き出しました。ひょっとしたらこのまま米中新冷戦に突入していくかもしれないという勢いです。
トランプ大統領は中国との貿易交渉の第1次合意については、中国による米国農産物の輸入も進展しないことから「合意は死んだ」とつぶやいているようです。そして、米中経済戦争勃発の狼煙(のろし)を上げました。
- 5月13日:米連邦職員向け年金基金の中国株投資見送り
- 5月13日:FBI(米連邦捜査局)は「中国がワクチンや治療法のデータを盗もうとしている」と警告
- 5月14日:新型コロナウイルスへの中国の対応に不満を示し、「中国との国交断絶」を示唆
- 5月15日:中国の通信機器大手ファーウェイへの禁輸措置強化。外国で製造した半導体でも米国製の製造装置を使っていれば輸出禁止→台湾TSMCはファーウェイへの半導体出荷停止。ファーウェイはスマホ生産打撃、5G(第5世代移動通信システム)開発に影響
- 5月18日:WHO(世界保健機関)の中国寄りを批判し「拠出金の停止」を示唆。場合によっては「脱退」も示唆
このように資本市場の対立、情報戦、テクノロジー市場と次々と中国への攻撃を仕掛け、米中覇権争いは新たな段階に入ったようです。仕掛けているのはトランプ大統領だけでなく、共和党も動き出しているようです。11月の選挙キャンペーンとして、党として新型コロナウイルスの責任論を含め中国攻撃に動き出したようです。
共和党も動き出したとなると、新型コロナウイルスを巡る中国への責任追及が損害賠償請求法案として米議会で動くシナリオも想定されます。例えば、賠償金として中国が保有する米国債を差し押さえるという方法も考えられます。中国も黙って見ているわけではなく、そのような動きを察知したら、米国債を売却する動きに出てくるかもしれません。その時のマーケットは想像したくないですが、債券は売られ、株安、ドル安のトリプル安になります。これは最悪のシナリオですが、シナリオとしては想定しておく必要があります。
5月14日、トランプ大統領は強いドルが望ましいと方針転換しましたが、ドル/円については、米中対立が激化することを考えれば、円売りポジションを長く持ち続けることは得策ではないかもしれません。