バリュー投資
競馬の参加者はどうしても一獲千金の夢を見るので、低いオッズの馬券の馬は、オッズから推定されるよりも案外高い確率で馬券に絡む(たとえば単勝なら1着になる)ことが多いというのが、ツィエンバの研究だ。
株式投資の世界でも、業績が安定していて値動きが鈍く見え、「退屈だ」と思われて割安に放置されているような銘柄が、後から見ると、案外良い投資収益率になっていることがある。地味なバリュー投資(割安株投資)には、この馬券戦略と通じるものがあるのではないだろうか。
リターン・リバーサル戦略
最終レースで低倍率の馬券の投資収益率が高いのは、次のような理由だ。
競馬のお客全体は、その日、最終レースの前までのレースで平均すると必ず負けているはずだ。すると、その日に負けている人々は、何とかその日の負けを取り返そうとするので、最終レースでは、倍率の高い馬券に人気が集まり、こうした馬券のオッズは、妥当な実現確率から見て大きく下がってしまう。従って、相対的に、低倍率の馬券が有利な状況(妥当な実現確率から計算されるよりも倍率が高くなりがち)になる、という理屈だ。
これは、負けているお客がリスクを好む状態を逆用する戦略だが、株式投資では、過去の一定期間(日中から5年程度まで計算期間には様々なバージョンがある)に関して、相対的に投資パフォーマンスが悪い銘柄に投資する「リターン・リバーサル戦略」と呼ばれる投資戦略が近いだろう。
株式投資の場合も、ある株の株価が値下がりして、その銘柄の投資家が損をした場合、その投資家は、何とか買値まで戻って欲しいと思うので、値動きのリスクに対して寛容になる傾向がある。これは、株価評価上は、投資家がリスクに対して要求するリスクプレミアムが小さくなるということなので、この投資家にとっての理論株価が上昇しやすくなるということだ。
3つの馬券戦略は、いずれも、馬ではなく、ゲームに参加する人間を観察することから生まれたもので、馬ばかりを見ていたのでは思いつかないはずのものだ。株式投資にあっても、大きく分けると、企業を分析するアプローチと投資家を分析するアプローチの2通りがあるが、後者は投資戦略を発想する上で有力な手掛かりになる。
【補足】
競馬と株式投資は、考えるべき要因が複数あって複雑な点でゲームとしてよく似ている。違いはゲーム構造的に競馬はマイナスリターンが基本であることに対して、株式投資はプラスが期待できるはずであることだ。2008年掲載の古い記事なので、株式投資の方法としてあげている例が機関投資家のファンドマネージャー向きのものだが、考え方としては個人投資家にも参考になるだろう。なお、筆者は現在も競馬に関心を持っていて、JRAの雑誌「優駿」あるいは「東洋経済オンライン」などに競馬関係の記事を継続的に書いている。今年のダービー(5月24日)が楽しみだ。(山崎元)