トランプ政権の感染リスク

 米中貿易摩擦再燃不安の他にもう一つ不安材料が出てきました。トランプ政権中枢への感染リスクです。

 5月8日にペンス米副大統領の報道官の感染が確認されたことから、ホワイトハウスでの感染拡大リスクが高まり、政権の危機管理に対して批判が強まりました。トランプ氏にとってもホワイトハウスでの新型コロナウイルス感染拡大はマイナスイメージとの思惑から、その後、初めてホワイトハウスの主要施設でのマスク着用を職員に義務付けました。ただし、トランプ氏は対象外で、感染を避けるため、ペンス氏とは同じ空間での執務を避けるとのことです。

 トランプ氏は、感染拡大の初期段階からマスク着用を拒否していました。「私は着用しない」というトランプ氏の発言が何回もニュース映像で流れていましたが、この発言自体は米国人にとっては特殊なことではないようです。一般の米国人にとって、マスクには「重病人向けの医療用品」という固定観念があるようです。マスクを着けた日本人を見た米国人が、あわてて逃げ去るのはそういう背景があるようです。

 また、米国の多くの州では理由なしに公共の場でマスクをつけること自体が違法となっており、少なくとも18州に「反マスク法」と呼ばれる法律があるほどです。その多くは覆面での白人至上主義団体の活動を制限するため、20世紀半ばに制定されたとのことです。

 連邦政府が4月に感染防止のために国民にマスク着用を推奨したことを受け、州知事は法律の効力を停止する政令に署名したそうです。

 また、米国にはマスクをめぐる別の固定観念もあるようです。「犯罪者がマスクやバンダナなどで身元を隠す」というもので、この固定観念は根強く、人種差別にも結びつきやすいと言われています。

 このような固定観念を背景にマスク着用をいまだ拒否しているトランプ氏は大丈夫でしょうか。政権中枢で感染が広がればコロナ対策や経済、安全保障対策が麻痺しかねないため、新たな不安材料になりそうです。