コロナで投資方針が変わる場合の補足

 コロナの有無によって、「おおむね」投資方針はそのままでいいことをご理解頂いたとしよう。多くの読者にとって、それでいいはずだが、二点補足したい。

 一つ目は、コロナで人的資本の価値が大きく変動した場合に、「最適なリスク額」が変わる可能性があるという点だ。

 例えば、コロナによって失業したり、失業や減収の可能性が急激に高まったりした人の場合、取るべきリスクの額が変化(縮小方向へ)する可能性が若干あることは申し添えておこう。

 もっとも、失業した人も遠からず再就職するだろうから、失業の精神的苦痛から想像されるほど人的資本は損なわれていない場合が多いはずだ。

 人的資本が主に将来の年金額から決まる高齢者の場合は、人的資本が損なわれることをそもそも心配しなくていい場合が多い。また、働いている若い人の場合、そもそも人的資本の大きさに比して金融資産が小さいために、金融資産の中で取っている投資のリスクが問題にならないくらい小さいケースが多い。

 つまり、たいていの人にとって、投資のリスクの大きさが「気にはなっても、問題になるほどではない」という状況なのだ。人生のリスク要因は投資ばかりにあるのではない。普通の投資で持っているリスクは、たいした問題でない場合が多い。

 また、失業や減収が深刻な場合でも、将来の生活に対する備えの必要性は大きく変わらないはずだ。縮小すべきは、積み立て投資の金額よりも、当面の生活費だと判断される場合が多いのが、厳しいけれども現実だろう。

 もう一点考慮すべきなのは、先ほどから何度か言及しているリスク・プレミアムだ。コロナのような状況は、市場参加者が要求するリスク・プレミアムを拡大するのか、あるいは縮小するのか、どれなのだろうか?

 直接観察することができないのだが、市場参加者が「リスクは嫌いだ」と思う感覚がリスク・プレミアムの源泉なのだとすると、「コロナ前」よりも「コロナ中」の方がリスク・プレミアムは大きくなっている可能性がある。

 先ほどの想定問答の中で、「余裕があるなら、追加投資してもいいでしょう」という、厳密には正しくないかもしれない発言を混ぜたのは、この可能性に対する期待が理由だ。成果を保証などできるものでは全くないが、この仮説に同意して投資を増やす方がいるなら、筆者は大いに応援したい。

【補足】「リスク・プレミアム」について
 リスク・プレミアムとは、「投資家がリスクの負担に対して追加的に要求するリターン」のことで、株価は、リスク・プレミアムを反映して形成される。

 例えば、20年後に「200」の価値を作っていると予想される会社の株式があるとしよう。
 この200の価値が、絶対的に確実なものなら、金利がゼロである昨今、この株式は現時点で200に限りなく近い価値で評価され、200に近い株価が形成されるだろう。

 しかし、言うまでもなく、「20年後に200の価値」が実現するかどうかは不確実だ。投資家は、20年間この株式を持っていると損をする可能性があり、そのリスクを負担しなければならない。

 その損を負担するための追加的なリターン(=リスク・プレミアム)が、年率で3.5%なら、現在の株価はおおむね100くらいで形成されるはずだ(200÷1.03520=100.51…)。

 仮に、「20年後に200の価値」の予想がそのままで、リスク・プレミアムが年率5%に拡大するなら、現在の株価は75くらいに評価されるはずだ(200÷1.0520=75.38…)。

 仮に、以前に投資家の要求するリスク・プレミアムが年率3.5%だと分かっていて100だった株価が、75に下落した場合、(A)20年後の200の価値が、150くらいに下方修正された可能性と(75☓1.03520=149.234…)、(B)リスク・プレミアムが3.5%から5%に拡大した可能性、(C)予想の下方修正とリスク・プレミアムの拡大が両方少しずつ起こったケース、を想定することができる。

 もちろん、この間にリスク・プレミアムが縮小した可能性も数学的には想定できるのだが、「コロナで相場大幅下落!」というようなイベントが起こった場合、投資家のリスク・プレミアムが縮小するとは想像しにくい。

 だとすると、現実的に最もありそうなのは、(C)ではないだろうか。このケースならば、コロナで投資の期待リターンが上昇している可能性があるということだ。

 ちなみに、(A)の場合に「現在、75の株価で投資すること」は「かつての時点で100の株価で投資すること」との間に有利不利はない。(B)あるいは(C)の場合には「現在、75の株価で投資すること」はかつて投資することよりもより期待リターンが高い。もちろん、いずれの場合にも、将来の状況が想定よりも悪くて、損をする可能性はある。