任天堂
1.自粛ブーム、巣ごもり消費の拡大の中で、任天堂を再評価する
新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大しています。通勤通学を在宅勤務や自宅学習に切り替え、自宅に引きこもって感染しないようにしている人たちも全世界で急増しています。
この中で遊びの世界も変化しています。全世界的に、映画館、劇場、ライブハウス、テーマパークが休場となり、大型音楽ライブや演劇の公演が延期、中止となっています。反対に、ネットを通じたエンタテインメント、動画配信、スマホゲーム、パソコンオンラインゲーム、家庭用ゲームが遊びの世界の大きな流れになっています。
任天堂株も再評価が必要になってきたと思われます。楽天証券では2月14日付楽天証券投資WEEKLYにおいて、ニンテンドースイッチのゲームサイクルのピークが近いとして、2021年3月期~2022年3月期が業績のピークと予想しました。そして、その当時4万円前後の株価でしたが、目標株価を5万円から4万円に引き下げました。その後株価は、新型コロナウイルス感染症の拡大を恐れる株式市場の下落によって3月16日終値3万2,950円まで下落しました。
しかし、その後は急速に戻しており、新型コロナウイルス禍による株価下落が起こる前の株価を上回る水準まで回復しています。
ニンテンドースイッチ市場の動きを見ると、まず、ニンテンドースイッチにとって主要市場である日米欧においてニンテンドースイッチの需要が急増しました。巣ごもり消費がゲームに向かったためです。一方で、中国の生産体制の混乱から日本向けのニンテンドースイッチ・ハード(以下NSハード)の出荷数量が減少し、日本市場ではハードが品薄になりました。
供給を続けているアメリカ、欧州でも、ニンテンドースイッチの人気が高まっているため、NSハードが品薄になっています。本来1-3月期はクリスマス商戦後の不需要期なので、ハードの供給は多くはありません。そこに巣ごもり需要が発生したため、日本、アメリカ、欧州の店頭からもネット販売からも据置型、携帯型ともにNSハードがなくなっています。
NSソフトもよく売れていると思われます。もともと、ニンテンドースイッチ用ソフトとしては、数多くの任天堂製優良ソフトが既に発売されています。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「マリオカート8 デラックス」「Splatoon2」「スーパーマリオ オデッセイ」「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」「ポケットモンスター ソード・シールド」など10作程度の万人向け優良ソフトがすでに発売されています。新たにNSハードを買った人はソフトに困ることはないと思われます。
また、3月20日発売の「とびだせ どうぶつの森」(5,980円)が大ヒットしています。ファミ通によれば、3月29日までの日本での販売本数は260万8,417本となっています。ちなみに、週ごとの販売本数は、3月20~22日188万626本、3月23~29日72万7,791本、3月30日~4月5日42万3,367本。4月5日までの累計販売本数は303万1,784本となっており、好調な売れ行きが続いています。海外での販売状況は不明ですが、アメリカの評価サイト「Metacritic」において91(100点満点で)という高スコアを獲得していること(ただし、ユーザースコアは10点満点で5.3という低いものになっています。「ネガティブ」を付けるユーザーが多く、アメリカでは評価が分かれているもようです)を考えると、2020年3月末までの任天堂出荷本数(全世界向け)は700~800万本と推定されます。2021年3月期は500万本以上売れると予想されます。
表2 任天堂の業績
表3 任天堂の業績予想の前提(2020年4月)
2.任天堂の楽天証券業績予想を上方修正する
1.で見た市場動向を元に、任天堂の楽天証券業績予想(2020年3月期~2022年3月期)を修正します。
まず2020年3月期は、会社予想売上高1兆2,500億円(前年比4.1%増)、営業利益3,000億円(前年比20.1%増)に対して、楽天証券予想を売上高1兆3,100億円(同9.1%増)、営業利益3,400億円(同36.2%増)とします(前回の楽天証券予想は会社予想と同じ)。
業績予想の前提は表3のごとくです。2020年3月期のNSハード販売台数は会社予想では1,950万台ですが、楽天証券予想では標準型(据置型)1,400万台、ライト650万台、計2,050万台とします。中国での生産トラブルはありましたが、会社予想ではもともと2020年1-3月期を過少に見積もっているため、上乗せがあると考えられます。また、NSソフトは会社予想1億4,000万本に対して楽天証券予想では1億5,300万本とします。「あつまれ どうぶつの森」のほか、3Qまでに発売された「ポケットモンスター ソード・シールド」や2019年3月期以前に発売された「マリオカート8 デラックス」などの過去作品が引き続きよく売れていると思われます。
2021年3月期も業績好調が予想されます。楽天証券では、売上高1兆5,400億円(前年比17.6%増)、営業利益4,400億円(同29.4%増)と予想します(前回予想は各々1兆3,100億円、3,600億円)。
今はまだNSハードの生産体制が完全に回復していないようですが、2021年3月期はNSハード増産が予想されます(一部の報道では当面20%増産すると報じられています)。楽天証券では、2021年3月期のNSハード販売台数を標準型1,800万台、ライト800万台、計2,600万台と予想します。2020年3月期の計2,050万台から26.8%増となります。
また、NSソフトは1億8,000万本と予想します。NSソフトは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編のような新作だけでなく、引き続き旧作が好調に売れると予想されます。巣ごもり消費が拡大した結果、NSハードの購入者の中にゲームの初心者が多くなっていると思われますが、初心者でも楽しめる優良ソフトのラインナップが充実していることが任天堂製ソフトの特徴です。
ちなみに、任天堂の会計では、ゲームソフト開発費は発売時までに経費処理します。従って発売翌年度からは、パッケージの場合はハウジング(外枠)とメモリ等の半導体のコストのみが費用になるため、旧作の営業利益率はかなり高いと思われます。ダウンロード販売の場合はコストはほとんどかからないため、この場合旧作の営業利益率は100%近いと推定されます。このような過去作品が任天堂の業績の強固な岩盤になっていると思われます。このため、新作ソフトの開発、発売スケジュールは余裕をもって組むことができると思われます。
なお、2022年3月期は売上高1兆4,700億円(前年比5.8%減)、営業利益4,500億円(同2.3%増)と予想します。NSハードは計2,400万台、NSソフトは1億8,000万本と予想します。率直に言えば、今回の巣ごもり需要が2022年3月期も続くものなのかどうか、現時点ではわかりません。
表4 主要な任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数