毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:ディスコ(6146)、任天堂(7974)
ディスコ
1.2020年3月期4Qの個別出荷額は前年比21%増、前期比4%増
ディスコは4月6日に、2020年3月期4Q(2020年1-3月期)個別売上高、個別出荷額(単独決算)の速報値を開示しました。
それによれば、2020年3月期4Qの個別出荷額は、319億7,000万円(前年比20.7%増、前期比(3Q比)4.1%増)となりました。2020年3月期3Q決算発表時の4Q連結出荷額の会社予想412億円から概算した4Qの個別出荷額会社予想(非開示)は約350億円でしたが、実績は320億円となりました。中国で顧客工場の都合による納期調整(納期の延期)が一部ありました。ただし、前年比でも前期比でも出荷額は増加していることが確認できました。ダイサ、グラインダの各装置が伸びており、消耗品(ブレード)の出荷が高水準な状態が続いています(ダイサは回路を描き込んだシリコンウェハをチップに切り出す。グラインダは前工程でシリコンウェハの底面を薄く削る。いずれもディスコが世界シェア約80%を占める)。
また、2020年3月期4Qの個別売上高は、318億100万円(前年比20.0%増、前期比9.2%増)となりました。この結果、2020年3月期通期の個別売上高は1,183億900万円(前年比5.0%減)となりました。2020年3月期3Q決算時の2020年3月期通期個別売上高予想は1,141億円、同じく2020年3月期4Q予想は276億円でしたが、これを超過しました。前述のように中国の顧客向けに納期調整がありましたが、これまで遅れていた検収が進んだため、会社予想を上回る個別売上高が実現できました(ディスコの収益認識基準(装置について)は、2019年3月期までは出荷基準でしたが、2020年3月期からは顧客工場での稼働確認を必要とする検収基準に変更されました。そのため、2019年3月期までは売上高=出荷額ですが、2020年3月期1Qからは売上高と出荷額は異なる数字になります)。
事業の中身を見ると、台湾、中国のOSAT(半導体後工程専門業者)からの引き合い、受注が高水準な状態が維持されています。
グラフ1 ディスコの個別売上高、個別出荷額
2.2020年3月期連結決算は会社予想を上回ると思われる
今回開示された個別売上高、個別出荷額より、楽天証券では2020年3月期連結業績を推定しました。会社予想では2020年3月期4Qは売上高330億円(前年比0.6%減)、営業利益68億円(同11.6%減)となりますが(2020年3月期3Q決算時の会社予想)、今回の楽天証券予想では売上高377億円(同13.6%増)、営業利益91億円(同18.2%増)と予想されます。
また2020年3月期通期では、会社予想1,353億円(同8.3%増)、営業利益325億円(同15.9%減)に対して、今回の楽天証券予想は売上高1,400億円(同5.1%減)、営業利益348億円(同9.9%減)となります。会社予想と前回楽天証券予想(売上高1,330億円、営業利益320億円)に対して上乗せになる可能性が高いと思われます。
3.2021年3月期は業績好調が予想される
新型コロナウイルス禍の中でも、半導体設備投資は順調に伸びているもようです。ASMLのEUV露光装置の導入を急ぐ大手半導体メーカーが出てきたともいわれていますが、EUV露光装置は最先端半導体(CPUとDRAM)製造ラインの中核製造装置です。EUV露光装置の据付が活発に行われているということから考えると、それ以外のエッチング、拡散、酸化などの前工程も活発な設備投資が進行中と思われます。
このような前工程設備投資の動きが後工程にも反映されていると思われます。ディスコはダイサ、グラインダで世界シェア約80%のトップ企業であり、業績は世界の半導体工場の稼働率と同じ方向で変化しています。ディスコの受注額、出荷額はすでに上向きに転じており、当面はこの上昇局面が続くと思われます。
そのため、2021年3月期は本格的な業績拡大が期待できると思われます。楽天証券予想の2021年3月期業績予想は前回は売上高1,600億円、営業利益440億円でしたが、今回の予想は売上高1,650億円(前年比17.9%増)、営業利益480億円(同37.9%増)とします。
表1 ディスコの業績
4.残る問題は5Gスマホが順調に売れるか
リスクは新型コロナウイルス禍の拡大による半導体設備投資の伸び鈍化や先送りです。今の状況を一見するとこうなっても不思議ではありませんが、在宅勤務の急増による高性能パソコンの販売増加、自宅と企業の間の通信量の急増に伴うデータセンター投資の増加(再開)が起こっていることを考えると、足元で半導体需要は順調に拡大中と思われます。また、巣ごもり消費の拡大で動画配信サービスの映画、ドラマの数が増えていますが、これもデータセンター投資に結び付きます。
残る問題は5Gスマホが売れるかどうかです(特に中国)。中国は3月から自動車を除く各分野の生産が回復しており、4-6月期は本格的な景気回復に入ると予想されます。その中で5Gスマホの売れ行きに期待がかかります。
今後6~12カ月間の目標株価は3万6,000円を維持します。2021年3月期の楽天証券予想EPS 995.9 円に想定PER35~40倍を当てはめました。
想定PERは他の半導体製造装置メーカーに比べて高いですが、もともとディスコの株価評価は、ダイサ、グラインダでほぼ独占的な地位にあること、財務内容が良好であることから高いので、この高い評価が今後も続くと想定しました。
引き続き中長期での投資妙味を感じます。
また、ディスコの業績好調が明らかになったため、前工程、後工程の大手、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテックについても引き続き投資妙味があると思われます。
グラフ2 ディスコ:売上高、受注高、出荷額(連結ベース)
任天堂
1.自粛ブーム、巣ごもり消費の拡大の中で、任天堂を再評価する
新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大しています。通勤通学を在宅勤務や自宅学習に切り替え、自宅に引きこもって感染しないようにしている人たちも全世界で急増しています。
この中で遊びの世界も変化しています。全世界的に、映画館、劇場、ライブハウス、テーマパークが休場となり、大型音楽ライブや演劇の公演が延期、中止となっています。反対に、ネットを通じたエンタテインメント、動画配信、スマホゲーム、パソコンオンラインゲーム、家庭用ゲームが遊びの世界の大きな流れになっています。
任天堂株も再評価が必要になってきたと思われます。楽天証券では2月14日付楽天証券投資WEEKLYにおいて、ニンテンドースイッチのゲームサイクルのピークが近いとして、2021年3月期~2022年3月期が業績のピークと予想しました。そして、その当時4万円前後の株価でしたが、目標株価を5万円から4万円に引き下げました。その後株価は、新型コロナウイルス感染症の拡大を恐れる株式市場の下落によって3月16日終値3万2,950円まで下落しました。
しかし、その後は急速に戻しており、新型コロナウイルス禍による株価下落が起こる前の株価を上回る水準まで回復しています。
ニンテンドースイッチ市場の動きを見ると、まず、ニンテンドースイッチにとって主要市場である日米欧においてニンテンドースイッチの需要が急増しました。巣ごもり消費がゲームに向かったためです。一方で、中国の生産体制の混乱から日本向けのニンテンドースイッチ・ハード(以下NSハード)の出荷数量が減少し、日本市場ではハードが品薄になりました。
供給を続けているアメリカ、欧州でも、ニンテンドースイッチの人気が高まっているため、NSハードが品薄になっています。本来1-3月期はクリスマス商戦後の不需要期なので、ハードの供給は多くはありません。そこに巣ごもり需要が発生したため、日本、アメリカ、欧州の店頭からもネット販売からも据置型、携帯型ともにNSハードがなくなっています。
NSソフトもよく売れていると思われます。もともと、ニンテンドースイッチ用ソフトとしては、数多くの任天堂製優良ソフトが既に発売されています。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「マリオカート8 デラックス」「Splatoon2」「スーパーマリオ オデッセイ」「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」「ポケットモンスター ソード・シールド」など10作程度の万人向け優良ソフトがすでに発売されています。新たにNSハードを買った人はソフトに困ることはないと思われます。
また、3月20日発売の「とびだせ どうぶつの森」(5,980円)が大ヒットしています。ファミ通によれば、3月29日までの日本での販売本数は260万8,417本となっています。ちなみに、週ごとの販売本数は、3月20~22日188万626本、3月23~29日72万7,791本、3月30日~4月5日42万3,367本。4月5日までの累計販売本数は303万1,784本となっており、好調な売れ行きが続いています。海外での販売状況は不明ですが、アメリカの評価サイト「Metacritic」において91(100点満点で)という高スコアを獲得していること(ただし、ユーザースコアは10点満点で5.3という低いものになっています。「ネガティブ」を付けるユーザーが多く、アメリカでは評価が分かれているもようです)を考えると、2020年3月末までの任天堂出荷本数(全世界向け)は700~800万本と推定されます。2021年3月期は500万本以上売れると予想されます。
表2 任天堂の業績
表3 任天堂の業績予想の前提(2020年4月)
2.任天堂の楽天証券業績予想を上方修正する
1.で見た市場動向を元に、任天堂の楽天証券業績予想(2020年3月期~2022年3月期)を修正します。
まず2020年3月期は、会社予想売上高1兆2,500億円(前年比4.1%増)、営業利益3,000億円(前年比20.1%増)に対して、楽天証券予想を売上高1兆3,100億円(同9.1%増)、営業利益3,400億円(同36.2%増)とします(前回の楽天証券予想は会社予想と同じ)。
業績予想の前提は表3のごとくです。2020年3月期のNSハード販売台数は会社予想では1,950万台ですが、楽天証券予想では標準型(据置型)1,400万台、ライト650万台、計2,050万台とします。中国での生産トラブルはありましたが、会社予想ではもともと2020年1-3月期を過少に見積もっているため、上乗せがあると考えられます。また、NSソフトは会社予想1億4,000万本に対して楽天証券予想では1億5,300万本とします。「あつまれ どうぶつの森」のほか、3Qまでに発売された「ポケットモンスター ソード・シールド」や2019年3月期以前に発売された「マリオカート8 デラックス」などの過去作品が引き続きよく売れていると思われます。
2021年3月期も業績好調が予想されます。楽天証券では、売上高1兆5,400億円(前年比17.6%増)、営業利益4,400億円(同29.4%増)と予想します(前回予想は各々1兆3,100億円、3,600億円)。
今はまだNSハードの生産体制が完全に回復していないようですが、2021年3月期はNSハード増産が予想されます(一部の報道では当面20%増産すると報じられています)。楽天証券では、2021年3月期のNSハード販売台数を標準型1,800万台、ライト800万台、計2,600万台と予想します。2020年3月期の計2,050万台から26.8%増となります。
また、NSソフトは1億8,000万本と予想します。NSソフトは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編のような新作だけでなく、引き続き旧作が好調に売れると予想されます。巣ごもり消費が拡大した結果、NSハードの購入者の中にゲームの初心者が多くなっていると思われますが、初心者でも楽しめる優良ソフトのラインナップが充実していることが任天堂製ソフトの特徴です。
ちなみに、任天堂の会計では、ゲームソフト開発費は発売時までに経費処理します。従って発売翌年度からは、パッケージの場合はハウジング(外枠)とメモリ等の半導体のコストのみが費用になるため、旧作の営業利益率はかなり高いと思われます。ダウンロード販売の場合はコストはほとんどかからないため、この場合旧作の営業利益率は100%近いと推定されます。このような過去作品が任天堂の業績の強固な岩盤になっていると思われます。このため、新作ソフトの開発、発売スケジュールは余裕をもって組むことができると思われます。
なお、2022年3月期は売上高1兆4,700億円(前年比5.8%減)、営業利益4,500億円(同2.3%増)と予想します。NSハードは計2,400万台、NSソフトは1億8,000万本と予想します。率直に言えば、今回の巣ごもり需要が2022年3月期も続くものなのかどうか、現時点ではわかりません。
表4 主要な任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数
3.今後6~12カ月間の目標株価を4万円から5万4,000円に引き上げる
任天堂にはリスクもあります。欧州は新型コロナウイルス感染症の被害が大きく、今後の被害の拡大によっては、ゲームどころではなくなるかもしれません。これはアメリカ、日本についても言えますが、特に欧州について言えることと思われます。今回の楽天証券業績予想では欧州市場の伸びを低く見積もっています。
また、中国市場には当面は期待できそうにありません。「リングフィット アドベンチャー」のような特定のソフトが人気になっているもようですが、中国正規版のニンテンドースイッチにはオンライン対戦機能がついていないようなので、数多くの中国のゲームユーザーの関心を引くことは当面難しいかもしれません。
次世代機について考えると、楽天証券が予想するような業績に実際になった場合は、次世代機の発売は5年以上後になる可能性があります。
2021年3月期に予想される業績拡大とこれらのリスクを総合的に考えて、今後6~12カ月間の目標株価を前回の4万円から5万4,000円とします。楽天証券の2021年3月期EPS予想2,585.5円に想定PER20~25倍を当てはめました。投資妙味を感じます。
表5 ニンテンドースイッチ用ソフトの発売スケジュール(任天堂製または任天堂が販売権をもっているソフトのみ)
グラフ3 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア
グラフ4 任天堂のゲームサイクル:携帯型ハードウェア
グラフ5 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア
本レポートに掲載した銘柄:ディスコ(6146)、任天堂(7974)
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。