――投資対象となる銘柄はどのような基準で選んでいるのですか。

グロース株に興味がある西河さん

西河 ぼくは、(成長性を評価して投資する)グロース投資をやりたいのですが、まだ勉強ができていないので、今は中小型株市場のゆがみを倍率指標のPBR(株価純資産倍率)を中心に見つけ出し、キャッシュフロー計算書を見て、銘柄を選ぶことを考えています。

※企業の価値と株価が一致していないこと。

吉田 ぼくは、株式投資を他人に勧めるときは、銘柄を配当の高い順に並べ、その中から業績などがあまり良くない企業を除いてポートフォリオを組むことをすすめています。

 自分の株を買うときは、他人がなんらかの理由で欲しくない銘柄を探します。例えば「コングロマリット・ディスカウント」のあるオリックスですね。

――コングロマリット・ディスカウントとは?

吉田 複数の事業が融合していることにより、「会社の中身がよく分からないからこの会社を買うのをやめよう」という人が多くなり、株価が低く抑えられる現象です。

山崎 完璧な解説! オリックスは配当も高いよね。

吉田 そうなんです。オリックスは「コングロマリット・ディスカウント」のせいで投資家から敬遠されがちなので、安値で買って長期保有して、配当を得ながら株価の上昇を待てばいいのではないかと思います。

山崎 オリックスは当社の窪田真之(楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト)も注目の高配当銘柄に挙げていた。他にはJT(日本たばこ産業)、三菱商事、三菱UFJフィナンシャル・グループ、NTTドコモ。配当利回りが高くてビジネスがしっかりしているという意味では、オリックスはまあまあかな。

 ただ高配当銘柄をピックアップすると上位に銀行とか商社とかリースとか、なんとなく同時に下がりそうな銘柄が入ってくるので、ポートフォリオを組むのならもう少し分散した方がいいかな。JTの配当利回りは6~7%もあるけれど、どう思う?

吉田 喫煙率の推移を見ると、エジプトとインドネシア以外は、年2~3%の割合で減少しています。そこでJTは両国の市場開拓に注力し、現地のタバコメーカーなどを買収してシェアを増やそうとしているのですが、かつての日本や先進国で得ていたほどの利益は出せていません。

 JTの業績には喫煙者の人口減少が大きな影響を与えるので、ぼくは買っていません。

――大塚さんの銘柄選びは?

PER、PBRで企業を分析している大塚さん

大塚 これまではグロース株(持続的な成長が期待できる株)を意識し、成長しそうなセクターを選んで、PER(株価収益率。割安度を測る)やROE(株主資本利益率。収益性を測る)の数字を見ながら、企業を選ぶという“初心者の勉強”的なことをしてきました。

山崎 企業の価値を考えて、株価がリーズナブルだろうと判断した銘柄を買うというのは分かりやすい。利益が伸びている銘柄に投資するのは気持ちがいいし、ファンドマネジャーにもそういう人も多いですね。

大塚 今は、ボラティリティ(価格の変動)が大きい銘柄を選び、板情報(価格ごとの買い注文と売り注文の一覧)を見ながら売買するデイトレーダー的なことを勉強がてらやっています。

山崎 マーケットに遊んでもらっている感じかな。取引はいつしているの?

大塚 そうですね。今はいろいろな体験をしてみたいので。ザラ場(日中の取引)は難しいので、授業が始まる前の朝の時間が勝負ですね。授業中は取引ができず過去に痛い目に遭ったことがあるので、マーケットが開く時間と重なる1限の授業はあまりポジションを取らないようにしています。

――PERやROEで銘柄を探すのは、一つの手ですね。ただ、山崎さんはそれらも株価に織り込んでいるといいます。ファンドマネジャー時代の山崎さん自身は、どのような投資スタイルでしたか。

山崎 私は個々の会社の企業価値や経営の善し悪しにはそれほどこだわらず、銘柄はプレーをするための将棋で言えば駒、囲碁で言えば石と捉えています。

 そのため、企業そのものよりもマーケットにいる人たちの動きを見ていました。マーケットにいる人たちが成長株を過大評価していると判断したらその反対側にチャンスを探すし、ここを見落としていると思ったら、それを買う。

――それは逆張りでは?

山崎 逆張りはトレンドの反対側を無理に張りにいくことなので、あえて言えば裏張り。合理的に考えれば、いい企業だけど嫌われている。例えば、強い事業を持っているのに不祥事を起こして株価が下がっている、そんな銘柄を探す。かつて会計不正があった時のオリンパスなんかは、その典型例だと思うよ。

――具体的にはどのような買い方ですか。

山崎 例えば、かつて、三菱自動車が不祥事を起こした。経営が傾いて三菱商事を筆頭に三菱系企業が金融支援をした。そこで商事が保有する自動車株の価値と金融支援額を足し、それらが全部ゼロになったと仮定して商事の株価に対する影響を計算したら、せいぜい30円くらいの値下がりが妥当だった。

 だけど現実には商事の株価は200円も300円も下がっていたので、商事の株価は割安と判断して買ったら結構もうかった。そんな思い出があるね。

――つまり山崎さんは悪材料を重視するのですね。

山崎 自動車会社が発売した新型車の売上予想よりも、被害額のほうが正確に計算できるし、会社に与える影響を評価しやすい。ファンドマネジャー的には、新聞を見てドキドキするのは新製品のニュースよりも不祥事のニュースだよね。

大塚 なるほど。事業内容や企業の取り組みなどはあまり重視しないのですね。

山崎 評価があいまいなので、投資家のはっきりしたミスを見つけにくい。それに、外部の人が企業の経営の評価なんて、そう簡単にはできないよ。