2.EUV露光装置

 前工程の中でも重要な工程は、露光(リソグラフィー)工程です。複雑な回路をシリコンウェハ上の狭い範囲の中に描き込むには、波長が短い光源が必要になります。大昔(1970~80年代前半)はg線という波長436ナノメートル(nm)の光源で描画していました。このg線ではウェハ上に線幅800ナノメートルのパターンが形成できました。パソコンや携帯電話→スマートフォン、データセンターに使うサーバーの技術革新に伴って、半導体に描き込む回路が複雑になり、かつチップサイズを小型化する必要が出てきましたが、その過程でi線(365ナノメートル、パターン幅は500ナノ→350ナノに縮小)、KrF(クリプトン・フッ素エキシマレーザー、波長248ナノ、パターン幅は250ナノ→100ナノ)と技術進歩が進みました。

 2000年代に入ると、ArF(アルゴン・フッ素)露光装置が現れ露光技術は大きく進歩しました。液浸リソグラフィー(レンズとシリコンウェハの間に液体を介することで解像度を上げる)やマルチプルパターニングという新技術を取り入れることで、ArF液浸露光装置は2018年に始まった7ナノという非常に細かい線幅のパターン形成にも対応できるようになりました。

 しかし、7ナノ以降の線幅に対応するには高額なArF液浸露光装置を何台も製造ラインに並べる必要があります。そのため、より効率的により細かい線幅の回路の描画が可能な露光装置が求められてきました。それがEUV(Extreme Ultraviolet、極端紫外線)露光装置です。

 EUV露光装置の開発には、現在のところオランダの大手半導体製造装置メーカー、ASMLのみが成功し、同社が市場シェア100%を獲得しています。ASMLはArF液浸、KrF露光装置でも大手なので、半導体用露光装置では最大手となります。露光装置の価格が高いこともあって、2018年の半導体製造装置メーカーの売上高ランキングでは第2位となっています(1位はアプライドマテリアルズ、3位は東京エレクトロン)。

 EUV光源の波長は、13.5ナノメートルとArFに比べ大幅に波長が短くなっています。そのため、効率的に7ナノ以降の半導体の露光ができるようになります。EUV露光装置は2019年から量産ラインに導入されていますが、世界最大の半導体受託製造メーカーでありEUV露光装置の大口ユーザーと思われるTSMCではEUV露光装置を導入したラインを「7ナノプラス」と呼んで、2018年から量産開始したEUV導入前の7ナノ製造ラインと区別しています。

 TSMCの7ナノプラスラインでは、EUV露光装置は製造ラインの中でごく数台のみ導入されただけのもようです。しかし、2020年から始まる計画で現在構築中のTSMC5ナノラインには、EUV露光装置が本格的に導入される見込みです。

 また、TSMCを追って半導体受託製造事業に注力しているサムスンもEUV露光装置を導入しつつあると思われます。パソコン、サーバー用CPU最大手のインテルも同様と思われます。

 EUVはロジック半導体だけでなく、最先端のDRAM製造工程にも導入され始めています。DRAMは微細化による高速大容量化が進んでいるためです。このため、EUV露光装置のユーザーは、DRAMメーカーであるサムスン、マイクロン・テクノロジー、SKハイニックスにも広がっていると思われます。

図3 半導体用露光装置の仕組み

表1 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2018年)

出所:会社資料、報道、ヒアリングより楽天証券作成。一部楽天証券推定。

表2 半導体用露光装置の出荷台数

単位:台、暦年
出所:電子デバイス産業新聞より楽天証券作成
注:EUVは販売台数(ASMLの売上高として認識されたもので出荷台数とは異なる場合がある)

グラフ1 半導体用露光装置の光源の波長

単位:nm(ナノメートル)、出所:各社資料より楽天証券作成

3.拡大するEUV市場と半導体製造装置市場

 EUV露光装置は、先端半導体の微細化の進展に対応するだけでなく、工程が複雑になりコストが膨れ上がる一方の先端半導体製造工程を効率化する目的で開発されたものです。そのため、EUV露光装置が製造ラインに導入されると、エッチング装置や成膜装置のような主要な製造装置の製造ラインへの設置台数が減少し、これらの前工程装置の市場規模が減少するのではないかと懸念されていました。

 しかし実際には、EUV露光装置による最先端半導体の生産効率化は、前工程の膨張をある程度まで抑えはするものの、縮小まではさせないことがわかってきました。そのため、酸化・成膜装置、エッチング装置、コータ/デベロッパ、洗浄装置などの前工程の主要装置は、半導体設備投資の増加、EUV露光装置の導入増加に伴って市場が拡大すると予想されます。

 この大きな要因は、スマートフォンにあります。スマートフォンの中のCPU、アプリケーションプロセッサからなるチップセットが、スマートフォンの性能向上に伴い加速的に高性能化し複雑化しているのです。5G時代を迎えると、この傾向は一層強くなると思われます。超高速送受信、同時多接続、低遅延など5Gの特色を生かした機能がいずれチップセットの中に付加されると思われます。また、カメラ機能、ゲーム機能の強化も進んでいます。これらの複雑化した機能を制御するために、既にスマートフォンには高性能AI(人工知能)が搭載されていますが、このAIもより一層高性能化し複雑になると思われます。

 このように高性能化し中身が複雑になる一方のスマートフォン用半導体の製造のために、EUV露光装置が導入されたわけですが、今度は逆にEUV露光装置が実用化されたことによって、更により一層高性能で複雑なスマホ用半導体を作る動きが出てくる可能性があります。その結果、前工程全体では、メモリ向けは波があるにせよ、ロジック向けは設備投資が順調に伸び続けると予想されます。

 後工程では、このスマホ用半導体、5G用半導体の複雑化の影響がすでにでています。5G用半導体の検査に必要なテスタ台数が増えているのです。5Gテスタの数量増加は昨年前半からアドバンテストの決算によって明らかになっていますが、5Gスマホが本格的に量産される今年以降は更に本格的に増える可能性があります。

 半導体製造ラインにEUV露光装置を導入する場合は、検査装置、各種の半導体素材もグレードアップしなければならない場合があります。フォトマスク(フォトマスクに半導体回路を描いて、それを強い光でシリコンウェハ上に転写する)とその素材であるマスクブランクスはEUV用が必要になります。その検査装置(EUV用マスク欠陥検査装置、EUV用マスクブランクス欠陥検査装置)も専用のものが必要になります。シリコンウェハに塗るレジストとその原材料もEUV用が必要になります。

 他の製造装置もEUV用にセッティングしたものが出てきました。東京エレクトロンのコータ/デベロッパでEUV用の製品はEUV露光装置向けのシェアが100%になっています。

 半導体関連の最重要材料であるシリコンウェハにはEUV用はありません。ただし、EUVの登場によって、今後3ナノ、2ナノと微細化が進む場合、より純度の高いシリコンウェハが必要になる可能性があります。このことは最先端半導体向けシリコンウェハで先行している信越化学工業、SUMCOと他社とをこれまで以上に引き離す要因になる可能性があります。

 同じことがシリコンウェハの洗浄やエッチングに使う高純度フッ化水素にも言えます。微細化が進むにつれて、現在の主流の10N(99.99999999%)が11N、12Nにグレードアップするきっかけになる可能性があります。その場合、超高純度品の安定供給が可能なステラケミファの市場シェアが上昇する可能性があります。

図4 スマートフォンの中身は複雑になる一方である