株高・株安を判断する計算方法がある

 株価の高安を判定する方法で利用されているものは幾つかあるが、筆者が日頃使っているのは次のような方法だ。

 利益に対する株価(→PER:株価収益率)、長期金利、利益成長の代理変数としての名目GDP(国内総生産)成長率のバランスで、株価の高低を見るものだ。

 たとえば、日経平均株価の適正価格の試算を、2008年10月31日の終値のデータでやってみよう。用意するものは11月1日の「日本経済新聞」の朝刊と電卓だけだ。

 10月31日の日経平均の終値は8,576.98円だった。

 日経新聞のマーケット総合面の主要指標で、「株価収益率(PER、倍)」とある欄の、(1)225種(日経平均のこと)の予想(今期の予想利益をベースにしていることを示す)の欄から、日経平均のPERを拾おう。新聞によると12.24倍だ。

 まず、日経平均の8,576.98円を12.24倍で割って、日経平均の1株あたり利益を求めよう。電卓で割り算すると700.73円だ。

 次に、長期金利を見る。日経新聞の、隣のページの「債券市場」の「新発10年国債」の欄で利回りを見ると1.48%だ。この利回りは、日経新聞の第1面にも「長期金利」として載っている。

 次に、少々面倒だが、この長期金利から、名目GDP成長率を引いた数字を求め、これに5%、6%、7%を足した数字を求める。

 この時点での政府の経済見通しで、2008年度の名目GDP成長率は0.3%だった(よく報道されるのは「実質GDP成長率」なので要注意。この時は1.3%)。これに、それぞれの数字を足した値を求めると、6.18%、7.18%、8.18%だ。

 続いて、先ほど求めた1株あたり利益の700.73円を、それぞれの数字で割ってみる。

 6.18%は0.0618だから、 700.73÷0.0618=11338.67、以下同様に700.73÷0.0718=9759.47、700.73÷0.0818=8566.38という数字が得られる。それぞれ、日経平均の試算値として、「上限」「標準」「下限」を示す。

 これは次のような考え方によって計算したものだ。

 まず、利益は配当されてもされなくても株主のものだから、株価に対する1年間の1株の利益を、株主にとっての収益と考える。今回の場合、700.73円を8,576.98円で割り算すると1年あたり約8.17%という利回りになる。これは利益を利回りのように考えたものなので「益利回り」と呼ばれる数値だ。

 これに利益の成長(あるいは減少)を勘案しなければならないが、ここで名目GDPの成長率で利益が将来ずっと成長する(マイナス成長なら減少する)と考えて、投資家の「期待収益率」は、「益利回り」+「名目GDP成長率」だと考えることにする。ここでは、名目GDP成長率を、長期的な企業の利益成長率として投資家にイメージさせる変数だと考えている。

 詳しい計算過程は省くが、株価を将来の利益の割引現在価値だと考えて、利益成長率が名目GDP成長率で一定だと考えると、この期待収益率は、現在の株価に対して投資家が無理なく期待できる投資収益率だという計算になる(注:高校の教科書に出てくる等比級数の和の公式を使うと簡単だ)。

 次に、この株式投資の「期待収益率」(A)を「長期金利」(B)と比べる。両者の差(A-B)は、株式投資のリスクを負うことによって投資家が得ることができる追加的な利回りで、リスク・プレミアムと呼ばれるものだ。このリスク・プレミアムが「5%なら少なめなので株価は高く、6%が標準、7%ならたっぷりあるので株価は安い」と考えることにしたのが、先ほどの日経平均の上限・標準・下限の一応の根拠だ。

 名目GDP成長率の見通しにどの数字を使うかによって数値は変わるが(当然だろう)、ここでは、政府見通しを使った。この見通しが的確だとすれば、実際の株価8,576.98円は、適正範囲のほぼ下限だという判断になる。成長率見通しは、政府のもの以外にシンクタンクなどの予測を使ってもいいし(あえていうと、複数の予測の平均を取るのがお勧めだ)、もちろん自分で考えてもいい。