※本記事は2008年11月7日に公開したものです。

 株価が次に上がるか下がるか。また、仮に上がる(下がる)として、それは「いつ」なのか。これらの判断は、筆者が改めて言うまでもなく、極めて難しい。しかし、正確とは言えないが、株価の場合「いくら」なら「高いか・安いか」については、大まかに判断できるはずだと筆者は考えている。

 もっとも適正の範囲内と思える株価の上下の差は、場合によっては2倍近くになるが、ここから外れるような割安・割高のケースでは、投資家として、ある程度、投資行動に強弱を付けてもいいのではないかと考えている。

 今回は、筆者がしばしば使っている株式市場の平均的な株価の割安・割高の簡単な判断方法をご紹介しよう。

 これがベストの方法だと積極的に主張するわけではないが、まあまあ使えるのではないかと思っている計算方法だ。計算は電卓だけで(もちろん筆算でも)できるので、読者も試してみてほしいし、読者独自の工夫を加えていただいてもいいだろう。

 特に、最近のように、平均株価が1日で数%も動くような状況では、そのときそのときの材料についていく方法よりも、売買で狙う株価水準を決めて投資行動を考えるのがやりやすいかもしれない。

株高・株安を判断する計算方法がある

 株価の高安を判定する方法で利用されているものは幾つかあるが、筆者が日頃使っているのは次のような方法だ。

 利益に対する株価(→PER:株価収益率)、長期金利、利益成長の代理変数としての名目GDP(国内総生産)成長率のバランスで、株価の高低を見るものだ。

 たとえば、日経平均株価の適正価格の試算を、2008年10月31日の終値のデータでやってみよう。用意するものは11月1日の「日本経済新聞」の朝刊と電卓だけだ。

 10月31日の日経平均の終値は8,576.98円だった。

 日経新聞のマーケット総合面の主要指標で、「株価収益率(PER、倍)」とある欄の、(1)225種(日経平均のこと)の予想(今期の予想利益をベースにしていることを示す)の欄から、日経平均のPERを拾おう。新聞によると12.24倍だ。

 まず、日経平均の8,576.98円を12.24倍で割って、日経平均の1株あたり利益を求めよう。電卓で割り算すると700.73円だ。

 次に、長期金利を見る。日経新聞の、隣のページの「債券市場」の「新発10年国債」の欄で利回りを見ると1.48%だ。この利回りは、日経新聞の第1面にも「長期金利」として載っている。

 次に、少々面倒だが、この長期金利から、名目GDP成長率を引いた数字を求め、これに5%、6%、7%を足した数字を求める。

 この時点での政府の経済見通しで、2008年度の名目GDP成長率は0.3%だった(よく報道されるのは「実質GDP成長率」なので要注意。この時は1.3%)。これに、それぞれの数字を足した値を求めると、6.18%、7.18%、8.18%だ。

 続いて、先ほど求めた1株あたり利益の700.73円を、それぞれの数字で割ってみる。

 6.18%は0.0618だから、 700.73÷0.0618=11338.67、以下同様に700.73÷0.0718=9759.47、700.73÷0.0818=8566.38という数字が得られる。それぞれ、日経平均の試算値として、「上限」「標準」「下限」を示す。

 これは次のような考え方によって計算したものだ。

 まず、利益は配当されてもされなくても株主のものだから、株価に対する1年間の1株の利益を、株主にとっての収益と考える。今回の場合、700.73円を8,576.98円で割り算すると1年あたり約8.17%という利回りになる。これは利益を利回りのように考えたものなので「益利回り」と呼ばれる数値だ。

 これに利益の成長(あるいは減少)を勘案しなければならないが、ここで名目GDPの成長率で利益が将来ずっと成長する(マイナス成長なら減少する)と考えて、投資家の「期待収益率」は、「益利回り」+「名目GDP成長率」だと考えることにする。ここでは、名目GDP成長率を、長期的な企業の利益成長率として投資家にイメージさせる変数だと考えている。

 詳しい計算過程は省くが、株価を将来の利益の割引現在価値だと考えて、利益成長率が名目GDP成長率で一定だと考えると、この期待収益率は、現在の株価に対して投資家が無理なく期待できる投資収益率だという計算になる(注:高校の教科書に出てくる等比級数の和の公式を使うと簡単だ)。

 次に、この株式投資の「期待収益率」(A)を「長期金利」(B)と比べる。両者の差(A-B)は、株式投資のリスクを負うことによって投資家が得ることができる追加的な利回りで、リスク・プレミアムと呼ばれるものだ。このリスク・プレミアムが「5%なら少なめなので株価は高く、6%が標準、7%ならたっぷりあるので株価は安い」と考えることにしたのが、先ほどの日経平均の上限・標準・下限の一応の根拠だ。

 名目GDP成長率の見通しにどの数字を使うかによって数値は変わるが(当然だろう)、ここでは、政府見通しを使った。この見通しが的確だとすれば、実際の株価8,576.98円は、適正範囲のほぼ下限だという判断になる。成長率見通しは、政府のもの以外にシンクタンクなどの予測を使ってもいいし(あえていうと、複数の予測の平均を取るのがお勧めだ)、もちろん自分で考えてもいい。

リスク・プレミアムに関する補足

 株式投資のリスク・プレミアムの大きさについては、学者の間でも論争があって確定した定説はないが、海外のある論文によると学者にアンケートを採ったところ「きっと、これくらいだろう」というレベルの平均値が約5%、「学生にはこれくらいを求めることを勧めたい」というレベルで6%という水準だった。「6%が標準」という基準の決め方は、株価に対してやや厳しい保守的な基準だと言ってよい。

 個人投資家の場合、現実に投資を行う際には金融商品の手数料や税金がかかるので、いくらか厳しく見積もっておくことが適当だろう。

 時々の株価が企業の利益に対して高いか・安いかを判断するもっと手軽な方法としては、日経新聞の先ほどのページにある「株式益利回り(%)」を見て、これを長期金利と比べる方法がある。

 11月1日の朝刊で「予想」利益ベースのこの数字を見ると7.76%だった。これは、日経平均ではなくて、東証1部上場銘柄全体の平均だ。これと長期金利の1.48%とを比べると、その差は6.28%だ。これに名目GDP成長率としてイメージされる数字を加えると、それがリスク・プレミアムの数字になる。名目成長率が0.3%だとすると6.58%となるから、株価は「標準よりも安いが、下限よりは高い」というくらいだと考えられる。

 仮に長期金利が0%だとして、益利回り5%と7%をそれぞれ株価収益率に置き換えると20倍と14.29倍だ。この方法では、「まあまあ適正」と考える株価には随分幅があることになるが、株価というものは割合いい加減なものだ。はっきり言って、利益予想も曖昧(あいまい)だし、環境による変化も大きい。計算のインプット自体が曖昧なので、アウトプットを厳密に計算しようとすること自体が無理だ。

 なお、近年の行動経済学の研究によると、投資家が要求し予想するリスク・プレミアムは、直近の経験の影響を強く受けるという。サブプライム問題で株価が大幅に下落したことが、世界の投資家にリスク・プレミアム拡大的に働く可能性が大きい。

応用を考えるとすれば

 具体的な応用方法としては、この方法で、株価の上限(リスク・プレミアムが5%)を超えたら株式への投資を減らすことを考えてもいいし、下限(リスク・プレミアムが7%)を下回るようなら株式投資額を増やすことを考えてもいいかな、というヒントだというくらいに考えておくのがいいだろう。

「判断が難しい」ということと、「判断が全く有効でない」ということとは、完全に同一ではない。また、市場に参加する投資家として、株価に対するある程度の判断基準を持つことは「望ましい」ことだし、「自分にとって有益」でもある。また、市場の変動についても、これを「忘れておく」のではなく、「よく見ていながら冷静である」という状態が望ましい。

 株価の高安に関する評価尺度には「PBR(株価純資産倍率)」や「配当利回り」など、他にもポピュラーなものがあるし、分析者によってさまざまな方法がある。これらも、補助的に判断に使えるだろう。

 株価判断の尺度については凝り出すときりがないが、今回ご紹介した、利益と株価の関係を中心に見て、「益利回り」「長期金利」そして「名目GDP成長率」の関係を見る方法は、大雑把だが、それなりに参考になる方法かと思う。

【補足】

 リーマン・ショック後の日経平均が8,000円台の頃の原稿ですね。我ながら懐かしい。長期金利=名目GDP成長率を仮定すると、「(たとえばS&P500で)PER20倍は割高」といった伝統的な常識と合致する判断方法かと思います。大まかに言ってPER14.3倍(リスクプレミアム7%)を下回ると割安で、20倍(同5%)を上回ると割高、といった判断を、長期金利と名目GDPの水準で調整するものです。2008年当時は長期金利がある程度自然に動いていましたが、現在の環境では、長期金利が日銀によって誘導されているので、状況が異なります。今は、直接的には使えない判断方法だと考えておくべきでしょう。(2020.1.17 山崎元)