アクティブ投信3社の説明会へ

 筆者は、平成29年9月13日(水)に開かれた『プレミアムアクティブ投信 勉強会』と題する説明会に出席して来た。主催者は、レオス・キャピタルワークス株式会社、コモンズ投信株式会社、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の3社だ。3社は、いずれもアクティブ運用を行う投資信託に注力している。

 この日の主なテーマは、「アクティブ・シェア」と称する、ポートフォリオがアクティブ運用されている度合いを表す指標について説明する事だった。

 

 アクティブ・シェアの定義式は以下の通りだ。

 

iは銘柄の番号でnは銘柄の数、wiは対象ポートフォリオのi番目の銘柄の投資ウェイト、wbiはベンチマーク・ポートフォリオのi番目の銘柄の投資ウェイトだ。

 min[ , ]は、二つの変数のうち、小さい方の値を取る関数だ。直感的には把握しにくいかも知れないので、具体的に説明すると、例えば、ある銘柄が、アクティブ・ファンドに3%、ベンチマークに0.5%保有されている場合、この関数の値は0.005(=0.5%)だ。逆に、ベンチマークに2%入っている銘柄が、このファンドでは1%の保有だった場合には、小さい方の0.01(=1%)の値を取る。

 これを1番目からn番(最終番)目の銘柄まで全て合計したものを、1から差し引いて、アクティブ・シェアは計算され、通常、%単位で表現される。

 言葉で説明すると、「対象ポートフォリオとベンチマーク・ポートフォリオの銘柄保有ウェイトの重なりの合計を差し引いた残りの比率」がアクティブ・シェアの計算方法となる。

 両社の保有銘柄に全く重なりがなければ、アクティブ・シェアは100%となり、完全なパッシブ・ファンドの場合、アクティブ・シェアは0%になる仕掛けだ。

 アクティブ運用投信3社は、世の中にはアクティブ・シェアの低い「隠れパッシブ」とでも呼ぶべきアクティブ・ファンドが少なからず存在し、これらの「隠れパッシブ・ファンド」の運用パーフォーマンスがパッシブ・ファンドを下回ることが多い一方で、アクティブ・シェアが高い真のアクティブ・ファンド(ハイリー・アクティブなファンド)はパッシブ運用に勝つものが少なくないため、「少なくともアクティブ・ファンドを選ぶ場合は、アクティブ・シェアの高いものを選ぶべきだ」と主張したいようだ。

 そして、説明会で紹介された3社のアクティブ・ファンドは、アクティブ・シェアがいずれもかなり高い水準にある(いずれも80%以上)。

 どのくらいのアクティブ・シェアが高いか・低いかについては、最終的にはファンドを選ぶ投資家の主観が決める問題だが、「80%を超えると高い」「60%を超えていると、まあまあ高い」というくらいが、おおよその感触であると説明された。

 主催3社のうちのある運用会社では、投資顧問の顧客でアクティブ・シェアが常に60%以上であることを要求して、毎日アクティブ・シェアを報告させる会社があるという。運用の実務の世界でも一部で利用されているようだ。

 尚、米国には、アクティブ・シェアを調べることができるwebサイトもあるという(ActiveShare.info)。このサイトでは、運用会社が定義したベンチマークでアクティブ・シェアを算出するだけでなく、対象ポートフォリオに対して最もアクティブ・シェアが小さくなるベンチマークを求めて表示する機能があるという。

 アクティブ運用者による「隠れパッシブ」撲滅運動の様相だが、実際、アクティブ・ファンドを名乗りながら、実質的にパッシブ・ファンドと大きく変わらない運用をしているファンドは、年金運用などの機関投資家の世界では古くから問題になってきたし、投資信託などのリテール向けの運用商品では、実質的に似たような運用で手数料が大幅に高いのだから、パッシブ・ファンドに負けることが多いのはもっともだ。

指標としてのアクティブ・シェア

 アクティブ・シェアは、直感的に分かりやすい指標だ。

 一方、これまで「アクティブ度合い」の指標としてポピュラーだったのは、ベンチマーク・ポートフォリオと分析対象ポートフォリオのリターンの差をリスクの形で予想した「推定トラッキングエラー」の2つ。推定トラッキングエラーは、言い換えると「推定アクティブ・リスク」ともいわれ、リターンの推定誤差の年率標準偏差を(%)単位で表すことが一般的だった。

 分析対象ポートフォリオとベンチマーク・ポートフォリオのリターンの差を推定するのだから、理論上は「推定トラッキングエラー」こそが「アクティブ・リスク」にふさわしい。ただし、推定トラッキングエラーはどのようなツール(正確にはデータとその処理)を使って求めたものなのかによって値が変化する。

 一方、アクティブ・シェアは、個々の銘柄同士のリターンがどれくらい、どのように異なるかについて、正確な情報を提供するものではないので、同じアクティブ・シェアを持つポートフォリオの実質的な「隠れパッシブ度合い」は異なる可能性がある。

 銘柄単位で影響を考えるとして、例えば、アクティブに運用されているポートフォリオにあって、ベンチマークに大きなウェイトで含まれているj番目の銘柄のウェイトがゼロでも、ベンチ-マーク内のウェイトは小さいがj番目の銘柄と事業内容や物色のされ方が似ているk番目の銘柄が大きく組み入れられていた場合、この銘柄を保有することはベンチマークに対して実質的にはそれほどアクティブではないが、この保有関係はアクティブ・シェアを大きくする方向に大きく影響するはずだ。

 細かな難癖をつけることはできるのだが、アクティブ・シェアは誰が計算しても一意的に求められるので、分かりやすい。ともかく計算してみよう、というアプローチは悪くない。

隠れパッシブができる理由

パッシブ・ファンドとリターンに差があまり無く、手数料はしっかり高い、ダメなことが事前に約束されているような「隠れパッシブ」的なアクティブ運用は、なぜ生じるのだろうか。

 一つには、リターンとリスクをベンチマークの起点として測られることが増えたからだろう。アクティブ運用のスキルは、アクティブ・リターンをアクティブ・リスクで割って求めた「インフォメーション・レシオ」で評価される場合が多い。この場合、運良くプラスのアクティブ・リターンを取ることができると思うなら、アクティブ・リスクを縮めることが有利であり、その手段はポートフォリオをベンチマークに近づけることだ。

 もう一つには、そもそもアクティブ・ファンド同士の相対的な競争にあって、「ライバルの平均」を持つことが有利であることの影響がある。ライバルの平均を持つと、取引コスト面でも、インフォメーション・レシオの面でも有利だし、その有利性は運用期間が長くなるほど確実に実現する。

 相当に昔から(遅くとも筆者が運用業界に入った1980年代後半から)、表面上はアクティブ運用なのだが、実質的にパッシブ運用に近い運用が「顧客受け」が悪いことは、運用業界でも問題となっていた。

 しかし、内外を問わず、大手運用会社では相対的な競争を意識して他社との差を意識する結果ベンチマークに近い運用をする一方で、顧客に対しては「当社は一貫してアクティブ運用会社です」と訴えるようなビジネス戦略になることが多かった。

アクティブ・シェアが解決できない問題

 さて、アクティブ運用に投資するなら、アクティブ・シェアの高い、本当にアクティブな運用をしている商品でなければ、意味が乏しいと理解したとしよう。これは、アクティブ運用に高いアクティブ・リターンの獲得を求めて、パッシブ運用に対するよりも高い運用手数料を支払うなら妥当な考え方だ。

 しかし、それだけで十分かというと、幾つか問題がある。

 最大の問題は、アクティブ・シェアが高いファンドの全てが優れているわけではないことと、アクティブ・シェアが高くてかつ今後の運用成績が優れているファンドを「事前に」見つけ出すことが困難であることだ。

 「隠れパッシブ」は、大きな確率でダメなのだが、いいアクティブ・ファンドを事前に選別ができる良い方法がある訳では無い。

 もう一つの問題として、アセット・アロケーション(資産配分)を考える場合には、TOPIXなどの過去にデータのあるベンチマークが使われることが多いこととの整合性の問題がある。ベンチマークとかけ離れたアクティブ・シェアの高いファンドの場合、リスクの推定が難しい場合がある。

 また、個々のファンドはハイリー・アクティブだとしても複数のファンドを集めた合計のポートフォリオのアクティブ・シェアは「隠れパッシブ」的な水準になっている可能性が小さくない。また、そうでない場合、ポートフォリオの内容が似ている可能性が大きな複数のアクティブ・ファンドを持つ必要性は乏しい。これは、大きな資金を多数の運用会社に分割して委託する年金基金のような投資家にあって問題になりやすい点なのだが、個人投資家の場合も、複数のアクティブ・ファンドに投資している人は、結果的にはせっかくの「アクティブ度合い」を自分で薄めている可能性を認識すべきだ。

 アクティブ・シェアを意識してアクティブ・ファンドに投資する投資家は、投資対象となるアクティブ・ファンドを一本に絞るべきだろう。

 もっとも、そもそも趣味としてアクティブ・ファンドに投資しているような投資家が少なくないので、趣味と割り切って複数のアクティブ・ファンドと付き合う分には本人にとって大きな問題ではないのかも知れない。

 現在、日本の投資信託のアクティブ・シェアを計算したデータは、筆者の知る限りまだ利用可能ではないが、個々のアクティブ・ファンドの投資比率上位の銘柄(通常ベスト10はわかることが多い)をTOPIX(東証株価指数)などのベンチマークの上位銘柄と比較すると、おおよその見当は付くだろう。

アドバイザーと投資家本人のちがい

ところで、筆者は、投資家読者に対してインデックス・ファンドへの投資をすすめることが多い。

 しかし、筆者は、個人的な好みとして(特に自分でやるなら)アクティブ運用が大好きだし、証券会社を退職した後には、自分の資産をアクティブに運用することを大いに楽しみにしている。自分で運用する方が面白いと思うが、他人がアクティブに運用するポートフォリオを見たり、アクティブ運用のアイデアを聞いたりすることも好きだ。

 これらの二つの見解は、矛盾しているように思えるかも知れないが、実は一貫している。

 それは、「投資家本人」と「アドバイザー」の立場の違いによる。

 アクティブ・ファンドらしいアクティブ・ファンドであっても

(1)事前に良いファンドを選ぶことは難しい

(2)運用管理手数料がパッシブ・ファンドよりもかなり高いことは動かしがたい

 投資家本人が、こうしたことを認識した上で、自分の意思でアクティブ・ファンドを選ぶなら問題はないし、そのような投資家と資金が増えることは、大いに面白いことだ。

 しかし、資金の合理的な扱い方を顧客にアドバイスすべきFPなどのアドバイザーや、会社がフィデューシャリー・デューティー宣言をしているはずの金融機関の商品販売担当者が、あたかも優れたファンドの「目利き」ができるかのように振る舞って、特定のアクティブ・ファンドに投資することをアドバイスするのは不適切だ。

 この区別は重要だと思うのだが、あえて知らない振りをしているかのごとく振る舞うアドバイザーやセールスマンが多くいることは大変残念だ。