実は企業も株主優待制度をやめたい?

 企業にとって、(1)株主ロイヤルティの向上(ファン作り)、(2)安定株主の確保、(3)株主数の増加・維持が期待できる株主優待制度ですが、メリットだけではなく、それに応じたコストも掛かっています。

 株式を2倍保有していても、2倍の株主優待が貰えないことがほとんどなので、株主優待制度を期待する株主は小口(あるいは優待が貰える最低単位の)株主になりがちです。その分、株主優待そのものに掛かる費用や郵送費などがかさみます。

 いっそのことやめてしまいたい、と思っても、競合他社や同じような財務状態の他社が同様の株主優待を行っているのに、先に自社がやめてしまうと、「あの会社はケチになった」、「経費削減ということは業況が悪いのかも」などといった悪い評判に繋がりかねず、株価にも影響しかねません。横並びでいた方が安心という意識もあるでしょう。

 実はふるさと納税も同じような状況が起きていて、返礼品やシステム・広告にかかるコストを勘案するとあまり収入の増加に繋がっていないけれど、自分の自治体がやめると寄付金が減るだけ。返礼品を地元以外から調達したり、システム・広告を都市圏の企業に委託するケースもあります。地元にお金が落ちないから、本音ではやめたいけど、やめるにやめられないという自治体もあります。

 本来はこうした囚人のジレンマのような状況を解消するのが政府の仕事ですが、個人に人気の制度を改正するには、余程の圧力が必要でしょう(株主優待制度の場合は、市場のグローバル化が圧力だと思います)。

 最近のネット証券の取引手数料低下を受けて、株主優待制度が株価の変動を大きくする可能性が高まったかもしれません。これまでも、権利付き最終日に向けて株を購入し、権利落ち日に株を売却する動きが見られましたが、株式手数料が下がると、薄い利ザヤでも売買をしやすくなります。株主優待込みの利回りを参考に売買する人が増えた場合、どの程度、市場のかく乱要因になるのか、短期売買をする方は注目されていると思います。

 今年は年金2,000万円問題や令和2年度「税制改正大綱」でのiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の制度改定が打ち出されるなど、老後に向けた資産形成に関するニュースが多い年でした。

 こうした大きな流れの中、現在のような株主優待制度は長期を見据えた資産形成との親和性が低いという問題もあります。企業の景況感も慎重さを増していますし、株主優待制度が盛り上がりを続けるのか、来年の注目ポイントのひとつではないでしょうか。