毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、日本電気(6701)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、ネットワンシステムズ(7518)、アンリツ(6754)
1.5Gとは何か
今回は年末特集として5G(第5世代移動通信)を取り上げます。
5Gは2019年の重要テーマでしたが、2020年はいよいよ日本で5Gの商用サービスがスタートします。そして、2019年にスタートした欧米、韓国、中国では、本格的にサービスエリアとユーザーが拡大する時期に入ります。
このため、半導体、半導体製造装置、電子部品、計測器、基地局関連、ネットワークインテグレーターなど関連分野への恩恵は、今後年を追って大きくなっていくと思われます。
楽天証券投資WEEKLYでは、これまで何回も5Gを取り上げてきましたが、改めて5Gの重要性と投資対象としての魅力を探ります(今回は個別銘柄の深堀りよりもテーマに重点を置きます)。
まず、5Gとは何かをおさらいしてみたいと思います。
5Gの規格は次の通りです。
- スペック上の受信速度(ダウンロード)が10~20Gbpsになる(4Gは現在のところスペック上で最大1.576Gbps、実効速度は145~283Mbps(NTTドコモ、アンドロイドの場合))。
- 送信速度(アップロード)は最大10Gbpsと高速化(4Gは最大131.3Mbps、実効速度は22~43Mbps)。
- 同時多接続(数百から1,000以上の端末を同時に接続できる)。
- 低遅延(遅延=タイムラグがほとんどない)。
5Gの受信速度はスペック上は4Gの6~13倍。実効速度では、受信は5Gのスペックの半分を実効速度として5Gbpsと仮定すると(スペックが20Gbpsになるのはかなり先になるため、スペック上は10Gpbsと比較する)、18~34倍。送信は、スペック上は76倍。実効速度は5Gの初期の実効速度を2~3Gbpsと仮定すると(これもスペック上の送信最大速度10Gbpsが実現するのはかなり先になると思われるため)、47~136倍となります。4Gは今年冬からNTTドコモが提供開始している「PREMIUM 4G」によって受信、送信ともに高速化されますが、5Gのほうが大幅に高速化します。
将来技術革新によって、規格上のトップスピードである受信20Gbps、送信10Gbpsに近い速度が実現すれば、なお一層高速化できることになります。
5Gの規格の詳細は、3GPPという国際会議で決めます。2018年6月に出されたリリース15で受信、送信規格の詳細が決定されました。そのため、受信、送信について5G対応になっている5G用チップセット(CPUと周辺半導体、電子部品を組み合わせたモジュール)と5Gモデムがすでに発表されています(チップセット、モデムとも、メーカーはクアルコム、サムスン、メディアテックなど)。ただし、フルスペックのチップセットとモデムはまだ出ていません。
また、低遅延、同時多接続の規格の詳細は、2020年3月に予定されるリリース16において決定される予定です。従って、高速大容量受信・送信機能に、低遅延、同時多接続の機能を加えた完全フルスペックの5Gチップセットと5Gモデムが登場するのは当分先になると思われます。
一説には、送受信のフルスペック(スペック上の受信速度は最低10Gbps、送信は例えば5Gbps(送信については規格で決まっているのは最大10Gbpsというだけなので))と、完全フルスペック(スペック上の受信速度10Gbps、送信速度5Gbps(例)、同時多接続、低遅延)の5Gチップセットと5Gモデムが登場するのは2022年になってからということです。
その場合、生産技術は2020年から始まる5ナノではなく、2022年から始まると言われている3ナノを使う可能性があります。
表1 日本における携帯電話ネットワークの変遷
2.5Gの応用分野は幅広い
4Gまでの無線通信規格と5Gとの大きな違いは、応用分野の幅広さです。
1Gから4Gまでの無線通信は、基本的に電話、メールなどの通信が中心です。写真、ドラマ、映画を含む動画をスムーズに受信することができるようになったのは4Gになってからですが、送信速度が遅いため、4K動画を大量に送信するには困難がありました。また、遅延が発生するため、アクションゲームなど素早い動きが必要なゲームには向きません。一つの基地局の同時接続端末数は100台未満で限界に達して接続しにくくなります。
このように、4Gには様々な限界があったため、用途は主に電話、メール、写真、動画の受信に限られたのです。
一方で、5Gは受信だけでなく送信が高速化するため、4Kクラスの長時間動画が受信だけでなく送信もスムーズにできるようになります。同時多接続なので、少数の基地局で大量の端末に接続できます。5Gは実験で一つの基地局で端末約2万台の同時接続に成功しています。
また、低遅延(こちらのアクションが相手側にほとんどタイムラグがなく伝わる)なので、ゲームへの応用だけでなく、自動車、ロボットの遠隔精密制御ができるようになります。この点は重要で、4Gは遅延があり、その時々の通信状況で遅延の程度が変わるため、遠隔地にあるものを単純に動かす指令を出すことは出来ても、精密制御は危なくて出来ませんでした。要するに、遠隔地からの自動車の運転、ロボットの制御、リモート手術などは、大きな需要がありそうなことはわかっていましたが、4Gには技術的限界があったのです。5Gはこれらの限界を突破することができるようになるのです。
具体的には、5Gの用途は次のような分野と思われます。
- スマートフォン、タブレットPC
- ゲーム(オンラインゲーム、クラウドゲームのラストワンマイルに5Gを使う)、エンタテインメント(大容量高精細の映画配信など)
- 放送・通信(4K、8K映像を撮影するときに5Gで送信すれば、光ファイバーのコードは不要になる)
- 医療(遠隔地からの診断画像の送受信、将来は遠隔地からのロボット手術など)
- 広義のIoT(様々な電子機器を大量に同時接続できる)
- ロボット、FA(工場における工作機械の監視、制御、ロボットの遠隔制御など)
- 自動車(自動車に関する情報を自動車同士がやり取りする。遠隔地からの自動運転など)
- 上記の様々な分野で5GはAI(人工知能)と密接に関わる。
5Gの電波は、従来からスマートフォンで使われてきたサブ6(サブシックス、6GHz未満の周波数の電波)とミリ波の2種類が割り当てられています。サブ6は使い易い電波ですが、すでに4Gで使われているため、帯域は多くは取れません。おそらく、サブ6は5Gでもスマートフォンが用途の中心になると思われます。
一方で、ミリ波は光とほぼ同じ性質を持ち直進性が強く、雨の中で減衰するなど扱いにくい電波であり、ビームフォーミング(基地局から特定の端末を見つけ電波を端末の方向に向けて照射する技術。専用のアンテナなどの専用の電子部品が必要になる)という新技術が必要になります。しかし、割り当てられている帯域が広く、ほとんど使われていない周波数帯なので、用途開拓の可能性が大きい周波数帯と言えます。
ミリ波帯の用途開拓が本格化すれば、各種電子機器、ソフトウェアと情報システム、小型基地局(ミリ波は電波が短距離しか届かないため大量の小型基地局が必要になると言われている)などの需要が増える波及効果が期待できます。
3.日本では2020年3月から商用サービス開始へ
5Gの商用サービスは、2019年春から、韓国、アメリカ、欧州の一部、中国、中東の一部などで始まりました。特に2019年11月1日からサービスが始まった中国では、5Gサービスの予約が約1,000万人に達し高い人気を示しました。
日本では、2019年9月に東京で開催されたラグビーワールドカップでプレサービスが実施されました。必ずしもうまく行った訳ではなく、技術的課題が浮かび上がったようです。そして、2020年3月からNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が、東京から、あるいは東名阪から商用サービスを開始します。2021年には全国主要都市で、2022~2023年には全国ベースで一応の5G通信網が出来上がる可能性があります。
5Gのサービス価格は、日本では4Gに比べ大幅に高くはならない見込みです。これは通信会社に政府が電波を貸し出す条件として、4Gに対して5Gのサービス価格を大幅に高くしないようにという条件をつけているためです。
また、今回の日本政府の補正予算案の中にある「デジタル・ニューディール」関連予算約1兆円も、5Gの普及に一定の効果があると思われます。