気象予報士と相場予報士

 相場予測は当たるに越したことはありません。私は長年、金融プロたちへ相場の予測・戦略をアドバイスする仕事をしてきました。つまり、世界情勢を分析し、世界のどの国、どの市場にいつ投資すべきかを予測し、判断する専門家です。その立ち位置から明言します。インサイダー情報でもない限り、「ズバリ」「絶対」という相場予測ができる技術は存在しません。

 では、正しい相場予測とは、どういうものでしょう。まず、さまざまな相場要因について、因果関係、相関関係に基づくつながりを理論化します。そして、今後相場を動かすと予想される要因について前提条件を定めます。この前提条件が正しいとすれば、理論上、相場はこの範囲に収まるはずというメドを計算するのです。

 現実の相場では、時々刻々と情勢は変わり、予測の前提条件に含まれない要因が突然現れることも少なくありません。当然、当初の予測は見直しを迫られます。「市場の専門家と言いながら、そんな予測では役に立たないではないか」と思う読者もいるでしょう。しかし、一定程度、確実性のある理論に基づいて前提条件を定めることは、当初予想の軌道から外れる可能性をきちんと抽出する効能もあるのです。

 この作業は気象予報士に似ています。1週間後の特定地点の天気予報には相当の不確実性があります。しかし刻々と変化する気圧配置や偏西風など諸条件を観測し続けながら、当初予想を調整していきます。近年、翌日程度の天気予報は、詳細で、的中率が高くなったと感じるでしょう。これは、観測ポイントの数が増え、観測精度が高まり、情報処理能力が高まったからです。

 実は、相場の世界でも同じことが言えます。気象予報士と同様に、専門的な訓練を受けた「相場予報士」は、適切な理論とより多くの観測点の取り扱い方、情報処理法についての経験値が高いのです。相場に「ズバリ」の予測技術は存在しませんが、「どうやら~のようだ」を淡々とフォローすることはできます。当初予測に基づく投資資産について、不測の事態を回避し、勝算を確保していくのです。