• 米国の原油事情が世界の原油価格に影響を与えるのは、米国が世界屈指の原油生産国かつ原油消費国であるため。
  • 米国の原油在庫が増える要因を米国の「生産・消費」「輸入・輸出」から考える。
    生産は増加・消費はやや増加止まり、輸入は増加・輸出低調・・・在庫減少は考えにくい!?
  • 積み上がっている原油が“どのような原油か?”を知ることが今後重要になってくる。

米国内の原油在庫の記録的な積み上がりが足元の原油価格の下落要因であると報じられています。

今回はこの“米国内の原油在庫”について考えてみたいと思います。

米国の原油事情が世界の原油価格に影響を与えるのは、米国が世界屈指の原油生産国かつ原油消費国であるため。

図:世界の石油消費・生産シェア (2015年)

出所:BP統計より筆者作成

BP(British Petroleum)の統計によれば、米国は、世界第1位の石油消費国であり、世界第2位の石油生産国です。

同一の国において、石油を大量に消費し、かつ大量に生産する、ということは、消費の面でも生産の面でも世界の石油価格に与える影響度は大きいということになります。

そしてその国の「在庫」の動向もまた、世界の石油市場を見ていく上では非常に重要な要素ということになります。

以下のとおり、米国の原油在庫は、高水準となっており、これが足元の原油価格の弱材料として報じられています。

図:米国の原油在庫 (百万バレル)

出所:米エネルギー省(EIA)のデータより筆者作成

米国の原油在庫が増える要因を米国の「生産・消費」「輸入・輸出」から考える。

生産は増加・消費はやや増加止まり、輸入は増加・輸出低調・・・在庫減少は考えにくい!?

以下は原油の供給と消費のイメージ図です。

図:原油の供給と消費のイメージ

出所:筆者作成

2017年1月のデータを当てはめた場合、供給の各項目の中で最も割合が高いのが、“原油の生産”と“原油の輸出入(この場合は輸入)”です。この2つの項目の合計は、供給全体の半分以上のシェアを占めます。

米国は“産油国”であり“原油の輸入国”であるため、「生産と輸入(ネット)の合計」と「在庫」の関係は以下のようになります。

  • 「生産と輸入(ネット)の合計」が、「消費を上回る時」・・・在庫が増える
  • 「生産と輸入(ネット)の合計」が、「消費を下回る時」・・・在庫が減る

以下のとおり、近年の米国の消費は“やや増加”です。

図:米国の原油消費の推移 (単位:百万バレル/日量)

出所:EIAのデータを元に筆者作成

消費が“やや増加”の中、在庫が積み上がるということは、「生産と輸入(ネット)の合計」が(消費の増加よりも)増加しているということが考えられます。

図:「米国の原油生産と輸入(ネット)の合計」と「米国の原油在庫」の推移 (単位:百万バレル/日量)

出所:EIAのデータを元に筆者作成

タイミングはややずれてはいるものの、2013年初旬より、ともに2017年にかけて大きく増加していることが分かります。

消費がやや増加の中、“生産と輸入(ネット)の合計”が増加したことが、在庫を増加させた一因であると推測できそうです。

以下は米国の原油生産と原油輸入(ネット)の推移です。

図:米国の原油生産と原油輸入(ネット) 単位:百万バレル/日量

出所:EIAのデータを元に筆者作成

米国の原油在庫が急増し始めた2014年半ば以降、米国の原油生産が増加・原油輸入(ネット)の下げ止まりが同時に起き、その後、輸入(ネット)が増加、次に原油生産が増加、という流れが生じていたことが分かります。

つまり、米国の原油在庫増加には、「米国の原油生産と輸入(ネット)の合計」の、米国の原油生産も、輸入(ネット)も、両方が関わっていたということになります。

生産においては、2016年後半より、原油価格が急落・低迷期を経て回復傾向になっています。また、輸入(ネット)については以下のとおり、今後も輸入が輸出よりも大幅に多い状況が続くと考えられます。

米国からの原油輸出が今後本格化したとしても、輸入量を輸出量が上回るタイミングは遠いように思えます。

図:米国の原油輸入と輸出量 (単位:百万バレル/日量)

出所:EIAのデータを元に筆者推計

また、米国の原油の輸入元は以下のとおりです。

図:米国の原油輸入相手国(上位5か国) (単位:百万バレル/日量)

出所:EIAのデータを元に筆者推計

上位5か国でシェアが78.8%となります。

1位のカナダからの輸入量が増加しています。2014年半ばから2015年半ばごろに同国からの輸入が増加していることから、輸入(ネット)の下げ止まりに寄与していると考えられます。

また、2015年半ばごろ以降の輸入(ネット)増加については、カナダを中心に、イラクからの輸入の増加が寄与していると考えられます。サウジアラビアからの輸入は減少していますが、その減少をカナダ・イラクの増加が相殺しているという格好です。

2017年1月の大統領令にもあったとおり、カナダ・米国間のパイプラインの建設継続について承認が下りたことは、今後、カナダから米国への原油輸入が増加することを助長するものと思われます。

仮にサウジアラビアからの輸入が減少しても、カナダからの原油輸入の拡大が継続すれば、(その他の状況に変動がなければ)米国の原油在庫が減少する方向にはなりにくいように思われます。

上記の点を以下のようにまとめてみました。

  • 消費は拡大しないのか?・・・近年、“微増”ですぐに拡大する期待は薄いか。
  • 生産は減少しないのか?・・・一時の原油価格急落・低迷期を経て回復傾向にある。
  • 輸出は拡大しないのか?・・・禁輸が解かれたとはいえすぐさま基本的に輸入国である米国からの原油輸出が拡大することは考えにくい。輸出が拡大しても輸入量を上回る(ネット輸入がマイナスになる)タイミングは遠いと見られる。
  • 輸入は減少しないのか?・・・米国は基本的に輸入国でありで圧倒的に輸出よりも輸入が多い。パイプラインの整備が明言された近隣のカナダからの輸入がさらに拡大する可能性がある。

ということとなり、在庫の増減に影響する“消費・生産”“輸出・輸入”の各面から見た時、目先、直ちに米国の原油在庫が減少する傾向にはなりにくいと考えています。

積み上がっている原油が“どのような原油か?”を知ることが今後重要になってくる。

さらに気になっているのは、積み上がっている原油が“どんな原油か?”ということです。

米国の消費に(軽質油よりも)向かないとされる“重質油”が積み上がっている可能性があり、さらにその重質油の積み上がりが継続し、将来、在庫の取り崩しが思ったように進まない可能性があるのではないか?ということです。

米国へ流入するカナダ産原油=オイルサンド=重質油=同原油の米国への流入が増加中(パイプライン整備でさらに流入が拡大?)、という連想からですが、どんな原油でも米国内の消費になじむ製油所等のインフラが整っている(整う予定がある)のかもしれませんし、必ずしもカナダからの輸入が重質油とは限らないのかもしれませんが、現在積み上がっている(あるいは今後在庫として積み上がる可能性がある)原油が、いったいどのような性質の原油なのか?という点は非常に重要な点であると考えています。

仮に今後、米国内の原油需要が急拡大したとして、消費が堅調となり、“消費”と“生産と輸入の合計”の差が縮むような米国内の原油需給が引き締まるような状況となった場合でも、消費になじまない原油の在庫は高水準のままとなる可能性はあるのかもしれません。

本来、需給の引き締まりから原油価格が強含んでもおかしくない状況でも、(使われないままの)高水準の原油在庫が“高水準の在庫”として重石となり、原油価格が思った程上昇しない、などという状況が発生する可能性もあるのではないか?ということです。

追って本レポートで準備ができ次第、関連情報を配信していきたいと思います。