トレーニング方法をあえて提案すると
脳には必ずしも合理的ではない判断を性急に下す傾向があるのだが、物事を自分にとって真に得か損かを理解すると、この理解を前提にして、新たに「自己保存」を求めるように意思決定を修正する「理解と修正」の機能がある。
この「理解と修正」の機能を働かせるためには、自分の投資に関する意思決定がどの程度の重要性がある何によってなされたのかを「反省」させることが有効だろう。
具体的には、例えば、全ての投資行動(売り・買い両方)について、何を根拠にしてそのように行動したのかを記録しておき、後から振り返ることが有効なのではないか。
実のところ、プロ・アマを問わず、「利食いだから売った」とか「チャートの形が大底風だから買った」といった、本来、情報的には無意味な根拠で売り買いをしていることが少なくない。そこで、自らに投資行動の根拠を問い、これを記録して後からも反省材料とすると、非合理的な投資行動を減らすことができるのではないだろうか。そして、これを繰り返すことで、投資の「センス」が身につくのではないだろうか。
とはいえ、人間は「後悔回避」する生き物なので、自分の投資の根拠を記録することは、率直に言って快適ではない(できれば、避けたいと感じるはずだ)。
しかし、それでも何か有効なトレーニングはないかと考えるなら、実際に投資を行いつつ、行動の前と後に自己反省を付加(精神的には「負荷」でもある)することが、おぼろげなものではあっても「センス」を磨くトレーニングになるのではないだろうか。
【追記】
ポートフォリオを作る技術の外に、行動経済在学的なバイアスを除去せよ、と我ながら実行が難しいことを言っている。ポートフォリオの作り方については、個人投資家の場合、安価で適当なリスク分析ツールがないことが痛い。
行動経済学的なバイアスを意識的に排して理性的に考えることについては、ダニエル・カーネマン「ファスト・アンド・スロー」(村井章子訳、ハヤカワ文庫)を読むとよく分かる。カーネマンの言う「システム1」(速い思考)が犯すミスを避けて、「システム2」でしっかり考えようということだ。もっとも、それが人間には難しいから行動経済学が成立しているのであって、バイアスの完全克服はなかなか難しい。こう考えると、運用にAIの応用が有望であることがよく分かる。
2019.10.28 山崎元