矯正すべき対象は何か
しかし、ファンドマネジャーに同じように知識を伝えても、何となく上手いファンドマネジャーとそうではないファンドマネジャーに分かれたような気がする。同じ知識を持っていて、しかし、運用に上手・下手があるのだとすると、その原因は、あえて言うと「センス」ということだろう。ただし、ここでは、所詮偶然でしかない結果に対して、過剰な因果関係を推定して「センス」を考えている可能性はある。
仮に投資のセンスというものがあるとして、これはどうやったら鍛えることができるのだろうか。「投資のセンス」とはいかにも曖昧な概念だが、何か手掛かりはないか。
行動ファイナンスの世界では、投資家が合理的な判断ができれば陥らないような非合理的投資行動の傾向性を人間の判断の「バイアス(偏向)」として把握する。合理的な投資行動に照らして非合理的な判断が「バイアス」と呼ばれるのだとすると、投資の「センス」を磨く方策は、「バイアス」を取り除くことにあるはずだ。
そう考えると、投資家にとって、「投資のセンス」を磨くということは、大まかには自分のバイアスを除去する努力を意味することになる。
行動ファイナンスで定番的に取り上げられる主なバイアスは以下の通りだ。
(1)「オーバーコンフィデンス」:自分の判断を過剰に評価する傾向。
(2)「メンタル・アカウンティング」:それを得たプロセスによってお金の価値が違って見える現象。
(3)「時間選好率の歪み」:人間は目先の金銭的利得を過剰に重く評価する傾向がある。
(4)「プロスペクト理論」:不確実性を伴う意思決定にあって、損を過大評価するような傾向を帰納的に集約した仮説。
(5)「後悔回避」:後悔することをあらかじめ避けようとして起こる非合理的な行動(たとえば状況に関係なく自分の買い値から何%下がったら売りと決めつける損切りルールのような行動)。
これらの傾向を矯正できるトレーニングがあれば、それをこなすことによって、投資の「センス」が改善することになるのではないか。