就労期間の延長と対象者拡大、受給開始年齢の引き上げが改正の焦点
一方、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による運用利回りを4.0%(2014年版は4.2%)に引き下げられた。運用利回りは直近10年間の平均では5%を超えるが、GPIF設立後の2006年以降の平均は3%台前半にとどまり、4.0%という数字は高いとも低いとも言える微妙な水準だ。
1人の女性が産む子供の人数を示す合計特殊出生率は、2065年に1.44人と、2016年と同水準を前提としている。合計特殊出生率は2005年に1.26人まで減少。昨年は1.42人と3年連続で低下している。GPIFによる運用不振や出生率の低下が続けば、年金財政の長期推計は数10兆円単位で簡単に変わってくる。
厚労省は前回に続いて2019年版でも財政検証に「オプション」を付け加えた。「付録」でも「補足」でもなく、将来の制度改正の青写真といっていい。
オプションAは保険料収入の増加に直結する加入者拡大。月収や労働時間に応じて3段階に分け、月5.8万円以上の収入のある全ての労働者に適用を拡大すると、新たに1,050万人が保険料支払いの対象になる。所得代替率は最大56.2%と、政府目標の50%をクリアできる。
オプションBは公的年金の加入上限を現行の70歳から75歳に引き上げるなど納付期間の延長や受給開始時期の後ずれを前提とした試算で、こちらも所得代替率の向上が確認されている。
今後の制度改正の議論は、就労期間の延長と対象者拡大、受給開始年齢の引き上げに向けて進む。これは政権や政策方針がどう変わっても避けられないことだろう。厚生労働省のある中堅官僚は「政官財のうち『官』の力には限界がある。政治がリーダーシップを発揮し、財界が経済成長を実現するなど個々が役割を発揮するしかない」と話す。
政府ができるのは保険料収入の増大と給付の抑制だとしたら、個人に必要なことは老後に備えたマネープランだろう。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用した長期的な資金運用がますます重要になってくるのは間違いない。