大きく変わったドル/円の風向き
1:円高要因は金融政策への期待より、貿易摩擦懸念によるもの
パウエル議長の講演では、ドル/円は106円台後半から106円台前半へと円高に動いただけでしたが、トランプ大統領の発言を受けて、米中貿易摩擦の対立激化が懸念され、一気に104円台まで円高となりました。つまり、円高に動かす要因として金融政策への期待よりも、貿易摩擦の懸念の方が勝っていることが証明された動きでした。今後もこの優劣関係はFRBの政策変更がない限り、続くと見た方がよさそうです。
2:パウエル議長のハト派寄りの踏み込みが弱かった
パウエル議長は講演で「世界景気に減速の証拠がある。成長持続へ適切に行動する」と追加利下げに意欲を示したものの、「利下げは調整であり、利下げサイクルではない」との従来のスタンスから、ハト派寄りにもう一歩踏み込んだ発言を示さなかったことが、ドル安・円高圧力の弱かった背景にあります。マーケットは、9月利下げを確認したものの、これはすでに織り込まれていたことや、その次への利下げ期待につながらなかったことに、やや失望したようです。
ただ、米中対立が激化したことから、世界経済減速懸念が高まり、FOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げに反対していた委員も利下げになびき、利下げサイクルに入ってくる可能性があります。パウエル議長がそういう説明に変わった場合には、ドル安が一段と進む可能性があります。
3:米中貿易摩擦の対立激化。楽観論は後退
米中貿易摩擦の対立激化は、追加税率の上積みや発動時期の操作によってエスカレートし、新たな局面に入った感があります。追加関税の対象となる貿易赤字の金額には上限がありますが、税率には上限がありません。
米ソの冷戦が40年弱続き、相手の体制が崩壊するまで続いた歴史を見ると、新冷戦もかなり長期化の可能性が出てきました。早期合意の楽観論は後退したようです。
4:米中対立で新ステージに入ったドル/円。100円割れの可能性も
米中対立激化が新たな段階に入ったことを嫌気し、一気にドル/円も新ステージに入った模様です。先週105円台前半で終えたドル/円は、今週は104円台後半で始まりました。このように先週の終値からギャップを空けて104円台でオープンしましたが(ギャップオープン)、2019年1月初めのフラッシュクラッシュ時のような急激な動きではなく、通常のマーケットの動きとなっています。
つまり、ドル/円は106円台に戻しましたが、1月の時のようにそのまま円安が続き、107円台、108円台に戻すというよりも、再び105円台や104円台の水準に入ってきてもおかしくない相場環境に変わりました。米中対立激化は、金融政策や金利要因よりも相場に強く働く要因となっているため、103円台、102円台あるいは100円割れの可能性がぐっと高まってきたかもしれません。