荒いドル/円の動き

 先週23日(金)のドル/円は約1円50銭の円高の動きとなり、週明け26日(月)のドル/円は約2円の円安の動きとなりました。荒っぽい相場が続いています。

 注目されていた、先週23日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のジャクソンホールでの講演だけなら、ドル/円は106円台を維持していたかもしれません。また、パウエル議長講演前に報道された、中国の報復関税にも106円台を維持していました。

 ところが、この報道を受けてトランプ米大統領が新たな関税措置に対応すると発言すると、一気に105円台前半に下落しました。さらにその後、約5,500億ドルの中国からの全輸入品への追加関税の5%上積みと具体的に発表すると、週明け早朝に104円台半ばまで円高が進みました。

 この2日間は、ドル/円の動きやドル/円を取り巻く環境が変わったことを、思い知らされました。そのポイントは、次のとおりです。

大きく変わったドル/円の風向き

1:円高要因は金融政策への期待より、貿易摩擦懸念によるもの

 パウエル議長の講演では、ドル/円は106円台後半から106円台前半へと円高に動いただけでしたが、トランプ大統領の発言を受けて、米中貿易摩擦の対立激化が懸念され、一気に104円台まで円高となりました。つまり、円高に動かす要因として金融政策への期待よりも、貿易摩擦の懸念の方が勝っていることが証明された動きでした。今後もこの優劣関係はFRBの政策変更がない限り、続くと見た方がよさそうです。

2:パウエル議長のハト派寄りの踏み込みが弱かった

 パウエル議長は講演で「世界景気に減速の証拠がある。成長持続へ適切に行動する」と追加利下げに意欲を示したものの、「利下げは調整であり、利下げサイクルではない」との従来のスタンスから、ハト派寄りにもう一歩踏み込んだ発言を示さなかったことが、ドル安・円高圧力の弱かった背景にあります。マーケットは、9月利下げを確認したものの、これはすでに織り込まれていたことや、その次への利下げ期待につながらなかったことに、やや失望したようです。

 ただ、米中対立が激化したことから、世界経済減速懸念が高まり、FOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げに反対していた委員も利下げになびき、利下げサイクルに入ってくる可能性があります。パウエル議長がそういう説明に変わった場合には、ドル安が一段と進む可能性があります。

3:米中貿易摩擦の対立激化。楽観論は後退

 米中貿易摩擦の対立激化は、追加税率の上積みや発動時期の操作によってエスカレートし、新たな局面に入った感があります。追加関税の対象となる貿易赤字の金額には上限がありますが、税率には上限がありません。

 米ソの冷戦が40年弱続き、相手の体制が崩壊するまで続いた歴史を見ると、新冷戦もかなり長期化の可能性が出てきました。早期合意の楽観論は後退したようです。

4:米中対立で新ステージに入ったドル/円。100円割れの可能性も

 米中対立激化が新たな段階に入ったことを嫌気し、一気にドル/円も新ステージに入った模様です。先週105円台前半で終えたドル/円は、今週は104円台後半で始まりました。このように先週の終値からギャップを空けて104円台でオープンしましたが(ギャップオープン)、2019年1月初めのフラッシュクラッシュ時のような急激な動きではなく、通常のマーケットの動きとなっています。

 つまり、ドル/円は106円台に戻しましたが、1月の時のようにそのまま円安が続き、107円台、108円台に戻すというよりも、再び105円台や104円台の水準に入ってきてもおかしくない相場環境に変わりました。米中対立激化は、金融政策や金利要因よりも相場に強く働く要因となっているため、103円台、102円台あるいは100円割れの可能性がぐっと高まってきたかもしれません。

投機筋は円高予測。IMM通貨先物が円ロングに転じる

 このことを象徴するかのように、CME(シカゴマーカンタイル取引所)のIMM通貨先物の円のネット・ポジションが、8月に入って2016年以来1万枚()を超える本格的な円ロングに転じました(8月20日終了週、円ロング3万1,154枚〈前週比+6,412枚〉)。

※日本円の通貨先物の1契約単位(枚数)は1,250万円。1万枚×1,250万円=1,250億円、3万1,154枚×1,250万円=3,894億2,500万円

 IMM通貨先物のポジションは投機筋のポジションの縮図と言われ、為替市場では投機筋の相場観を探る指標として注目されています。また、そのネット・ポジションが円ショートから円ロングに転じたということは、投機筋は先行き円高を見ているということになります。

 2016年以来の円ロングに転じましたが、2016年は世界経済の減速や英国の国民投票によるEU(欧州連合)離脱決定を受けて、ドル/円が一時100円を割った年です。その年の円ロングのピークは7万枚程度なので、その規模まで円ロングが積み上がるのであれば、まだまだ円高が進むかもしれません。

 以上のように、新たな段階に入った米中貿易摩擦という要因によって、当面はマーケットのボラティリティは高まりそうであり、少なくとも2020年の米大統領選挙までは米中摩擦に翻弄(ほんろう)される相場が続きそうです。

 事実、週明け月曜日(8月26日)にドル/円が2円弱円安に動いた背景は、トランプ大統領が「中国から貿易交渉を再開したいと連絡があった」と話したことです。一気にドルが買い戻されました。後に中国側は否定しましたが、どちらが正しいのかマーケットはついていけていない状況です。

 今後もボラタイルな状況はまだまだ続きそうなため、マーケットには注意して臨む必要がありそうです。