リーマン・ショックはなぜ起こった?ショックを引き起こした2つの要因

 リーマン・ショックは、2つの要因が重なって起こった「複合ショック」です。1つは、リーマン・ブラザーズの破綻に象徴される、欧米の「金融危機」です。もう1つは、世界的なインフレ高進です。インフレが世界の消費を押しつぶし、一時的に「需要消失」を生じました。

【1】金融危機:北米のサブプライムローン危機が世界に拡散

 リーマン・ショックは、北米の住宅バブル崩壊が引き起こした「金融危機」として知られています。北米のサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)が不良債権化し、米国の大手金融機関の財務が悪化しました。

 この危機は、米国に留まらず、世界に拡散しました。金融テクノロジーの進歩で、北米のサブプライムローンは証券化され、幅広く、世界中の金融機関に販売されていたからです。特に、欧州の金融機関が甚大な被害を受けました。

 最初に、サブプライムローン問題がクローズアップされたのは、リーマン・ショックより1年前の2007年8月でした。サブプライムローンを組み込んだファンドの危機が表面化しました。ところが、この時はまだ、これが世界的な金融危機に発展すると見るむきは少数派でした。世界景気は好調で、米国の住宅ローン危機もそのうち収まると、楽観的に見られていました。

 後から振り返ると、リーマン危機の兆しは、1年以上前から、顕在化していたわけです。楽観論が支配する中で危機の芽は無視され、1年後の2008年9月に、リーマン・ショックという世界的な金融危機にまで発展することになります。

【2】需要消失:インフレが世界的に高進し、消費を押しつぶした

 リーマン・ショック直前は、資源バブルのピークで、世界的にインフレが高進していました。インフレが世界の消費を押しつぶし、一時的に世界から需要が消失した状況を生じました。新興国では軒並みインフレ率(消費者物価指数の上昇率)が10%を超えており、ハイパーインフレが世界経済のリスクと言われていました。中国ではインフレ率が一時8.5%まで上昇しました。

<WTI原油先物価格の推移:2000年1月~2019年8月(12日まで)>

 先進国でもインフレ率の上昇が懸念されていました。低インフレ国の日本でも、一時的にインフレ率が2%に達し、消費を抑制しました。ガソリン価格上昇によって2008年4~6月は車に乗る人が極端に減り、普段渋滞する道路も一時ガラガラとなりました。リーマンショックの前から、インフレによる消費悪化の兆しははっきり出ていたのです。

 リーマン・ショックが起こると、需要消失が世界中に連鎖。製造業で一時的に生産が完全にストップしました。これは、製造業の生産効率引き上げのために、世界的なサプライ・チェーン・マネジメントが拡散していたからです。最終需要の減少がまたたく間に世界中の製造業に伝播し、世界中の製造業が「瞬間凍結」しました。

リーマン・ショックは短期で終息

「金融危機」と「需要消失」が同時に起こり、サプライチェーンを通じて、世界中の製造業が「瞬間凍結」したのが、リーマン・ショックでした。このような世界不況は、かつて経験したことがなかったので、「100年に1度の世界不況」と言われ、多くの市場関係者が、深刻な不況が長期化するというイメージを持ちました。

 ところが、瞬間的な落ち込みは激しかったものの、不況は短期で終息しました。リーマン・ショックが起こった翌年の2009年1~3月が、世界不況の底でした。2009年4月から、世界景気は立ち直りました。

リーマン・ショック前と今の比較、似ているところ

 昨年末から、米中貿易戦争・ハイテク戦争の影響で、中国を中心に世界景気が落ち込んでいます。米中対立は収束のメドがなく、このまま激化し続けると、米景気にも悪影響が及ぶことが懸念されています。

 この状況は、リーマン・ショック前と似ているとも言えます。リーマン・ショック前、北米住宅ローンの危機が深刻化し、欧米景気が減速する不安が出始めていました。それでも、「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の高成長が続くので、欧米景気が減速しても、世界景気の拡大は続く」と楽観論が広がっていました。

 危機の芽はあるが、問題なしと楽観論が広がっているところが、リーマン・ショック前と今の共通点かと思います。